何がどうしてそうなったのかはさっぱり分からない。
でも、そうなんだって思うと色々と理解できる。今、僕はたぶん教室にいる。さっき御山君は登校して、途中で子安に会ったんだ。そして、宿題写させてくれって頼まれた。
つまり、今は朝だ。でも、僕の周りは暗い。それは、僕が御山君のお尻で、だからパンツ履いて、その上にズボン履いてるから光が入ってこないんだ。
さっきの女の人は御山君のお母さんなんだろう。
(ママ呼びなんだ)
こんな状況なのに少し笑ってしまった。そして、思い出したくないものも思い出す。
(御山君、う○こしやがった)
朝食の前に盛大に出してたところを僕はしっかり見てしまった。いや、見たくもないけど、目を閉じることができなくて、それが出てくるのを見るしかなかったってことだ。
不思議と気持ち悪くなったりはしない。いや、いい気分じゃないけど、なんていうか・・・普通だ。匂いも気にならない。いや、そもそも今の僕は匂いを感じるのかどうかも分からない。
(っていうか、あれ、僕のどこから出たんだよ)
いやいやいや、それは考えちゃだめなやつだ。僕は頭を振る。もちろん心の中で。
そして、全て、合点がいった。
いや、一つだけ合点が行かない。
なんで、僕は御山君のお尻になったのか、という点については、全く合点が行かなかった。
「青木」
「はい」
ホームルームで出欠確認が始まっていた。
「阿南」
僕だ。
「阿南、休みか?」
(います)
そう声を出した。いや、出したつもりだった。
「誰か、阿南休むって言付かってないか?」
誰も何も言わなかった。
「しょうがないな。じゃ、次。飯田」
「はい」
誰も僕がここにいることには気づかない。でも、それで良かったかもしれない。僕が御山君のお尻になってるなんてことがバレたら、僕はもう生きていけない。
そんなわけで、僕は今日は欠席。ということは、なんでこうなったのか、授業中ずっと考えていられるってことだ。
とはいえ、授業中は一応先生の言っていることを聞いていた。
別にこんな状態でも授業を受けようなんて考えたわけじゃない。いつもの習慣というか・・・いや、正直に言っちゃえば、なんでこうなったのか全然分からなかったからだ。いや、今の僕は何も言えないけど。
別に御山君のお尻になりたいなんて願ったことはないし、願ったらそれが叶うみたいな呪文とか知ってるわけでもない。
って、そういえば僕の体の方はどうなってるんだろう。
いや、普通の僕の体だ。
少なくともここにいる僕は普通の体じゃない。御山君のお尻なんだから。ってことは、僕の家の僕の部屋の僕のベッドには、僕の体だけがあるんだろうか。心がない、僕の体。まるで死体みたいになってるんじゃないだろうか。
(気になる・・・)
そうは思うけど、だからって見に行くこともできない。とりあえず、今は僕の体が無事でいることを祈るしかない。
(今は?)
今だけなのか? 僕が御山君のお尻になってるのって、今だけなんだろうか。これからずっと、大人になってもずっと僕は御山君のお尻だって可能性もないとは言えない。
(いやいやいや)
頭を振る。もちろん振れないけど。いつからこうなったのか考えてみる。昨日、寝る時は普通に僕の体だったし僕のベッドで僕は寝たはず。朝起きたら真っ暗で、そしてこうなってた。
(ってことは、昨日寝てから今朝起きるまでの間にこうなったんだ)
なぜそうなったのかは全く分からない。だって僕はその間寝てたんだから。
(本当に、僕は元の僕に戻れるんだろうか)
大きな不安。でも、今の僕にはどうしようもない。今の僕は御山君のお尻なんだから。
学校が終わって、僕はまた左右に揺られながらたぶん御山君の家に向かって歩いているんだと思う。もちろん僕はずっと御山君のパンツの下だから、ずっと何も見えていない。
急に動きが止まった。御山君が何やら体を動かしているみたいだ。そのあとはあんまり動かない。たぶん、歩いてもいない。
(どこで何してんだよ)
全然分からない。こうなってみると、学校って結構なんにも見えなくても今何してるのか分かりやすいんだなって思った。先生の声で今がなんの授業なのか分かるし、授業が終われば休み時間。その間、御山君は校庭で遊ぶより教室の中で本を読んでたりする。お昼があって、午後の授業があって・・・
(あれ、今日、僕、何も食べてないんじゃない?)
でも全然お腹は空いていない。まぁ、こんな状況だからお腹が空くどころの話ではないのかもしれない。
(僕は今は御山君の一部だから、御山君が食べればいいのか)
そう思いついた。
(でもそれってなんだかちょっと嫌)
当たり前だけど、やっぱり僕は僕でいたい。御山君のお尻は嫌だ。
「お待たせ」
声がした。男の声。
「遅いよ」
御山君の声。そして、
「じゃ、行くか」
「うん」
御山君が再び歩きだした。
(どこで何してんだよ)
さっさと家に帰ってパンツを脱いで欲しかった。さすがにそろそろ真っ暗な世界が嫌になっていた。
しばらく時間が経つ。たぶん、歩いたり止まったりしているみたいだ。そして、浮く感じがしているのはエレベータか何かに乗ってるんだろうか。ってことは、やっと家に帰ったってことだろうか。
急に何かに押し付けられ、御山君の体重が僕にのしかかった。この感触は普通の椅子じゃなさそうだ。椅子よりもっと弾力のある感じ。ベッドに座っている感じだ。
微かに息の音が聞こえる。
(何してんだ)
僕が押さえ付けられる力が弱くなって、左側だけになる。
(横向きに寝転んだ?)
すると、手が僕を触ってきた。
「ああ」
御山君の声がした。その手が僕を撫で、軽く掴んだりしている。
(な、なんなんだ?)
今度は僕全体に力がかかったけど、座ってる時よりは重くない。
(仰向けか)
そのまましばらく時間が経つ。その間、御山君は何も言わない。たぶん一緒にいる人も何も言っていない。
(何してんだろう・・・家庭教師とか?)
御山君なら家庭教師とかありそうだ。でも、寝転んでいる。寝転びながら勉強するか?
(一人ならありだけど、家庭教師と一緒ってのは・・・)
ベッドの上で、家庭教師と一緒に寝転びながら教えてもらっているのを想像する。
(ないな)
僕はその想像を頭から追い出した。
(ほんとに、御山君、どこで何やってんだよ)
そう思った時だった。
「ああ、気持ちいい」
御山君の声がした。
(え、ちょっと待って、何やってんの?)
たぶん、ベッドの上で寝転んで、気持ちいいこと・・・それも、家庭教師の男の人と一緒に。それって、一体・・・
僕の右側が押し付けられる。そして、手が僕を撫でている。いや、撫で回されている。
「ああ、気持ちいい」
「春樹」
急に明るくなった。ってことは、御山君がズボンとパンツを脱いだってことだ。突然僕が持ち上げられる。そして、視界に男の人が入ってきた。その男の人が僕を見る。僕と目が合った。
(バ、バレてる?)
しかし、その人は僕を見ながら、僕を左右に広げて顔を近づけてくる。
(ちょ、ちょっと)
そのまま、僕にキスを・・・いや、僕のどこか、つまり御山君のお尻のどこか・・・たぶん、穴・・・にキスをしてきた。
(ま、まじかよ)
そのまま舌で舐め回される。
(ひ、ひいぃ)
僕の初めてのキスが、御山君のお尻として、知らない男の人とだなんて・・・
「ああ、だめだって」
(いや、だめに決まってんだろ)
これについては御山君に全面的に賛成だ。
「じゃ、やめた」
その人の顔が僕から遠ざかる。
「やだ、やめないで」
「だめなんじゃないのか?」
「もう・・・意地悪」
急に僕に体重がかかった。目の前が白くなって暗くなる。御山君が体を起こしたんだろう。ってことは・・・
なんだか湿ったような、ぴちゃぴちゃという音が聞こえる。これって・・・
「先にシャワー浴びる?」
男の人の声だ。
「一緒なら」
僕にかかっていた体重が消える。明るくなる。僕の視界に周りの景色が入ってきた。ホテルの部屋みたいなこところだ。御山君が動いている。チラリと鏡に裸が映る。お尻が見える。きっと、それが僕だ。つまり御山君が裸に、全裸になっているんだ。そして、鏡に背を向けたまま動きが止まる。鏡ごしに御山君の背中に腕が回ってきたのが見える。その腕が御山君の頭の後ろに回る。誰かの頭が御山君の頭と重なる。
(キスした)
キスしながら御山君は僕を、お尻をくねらせるように動かしている。そして、体の向きが変わった。もう鏡越しに御山君の体は見えない。部屋の奥に椅子があるのが見える。その右手前にベッド。たぶん、さっきはこの上にいたんだろう。ベッドのところに御山君の服らしきもの。そして、目の前でドアが閉まる。バスルームだ。お湯がかかる。誰かの手が僕を撫でる。チラリとその人の体が見えた。その人も裸だ。
(ええ?)
いや、シャワー浴びてるんだから裸でも不思議じゃない。でも、僕にこうやって見えるということは、御山君も裸だ。二人、裸で一緒にシャワー浴びてるってことだ。
(どういうこと?)
その時、指が僕の鼻のところ・・・じゃなくて、たぶん、御山君のお尻の割れ目のところに入ってきた。
「あん」
御山君の声だ。その指が上下に動く。僕の口に指先が押し付けられた。
「ああ・・・」
さっきから御山君の声しかしない。それも、喘ぎ声みたいな声だ。
「気持ちいいのか?」
「うん、気持ちいい」
(おいおいおい)
こんなとこ撫でられて気持ちいいわけないだろ。僕は虚しくツッコんだ。
(おひゃ)
僕の口・・・いや、御山君のどこかに指が押し付けられ、少し入ってきた。
「欲しいのか?」
男の声。御山君の声は聞こえない。
「ちゃんと言え」
「入れて欲しい」
やっと御山君が言った。
「僕のアナルに入れてください」
もう一度、御山君が言った。
(ちょっ、冗談じゃない)
僕は耳を疑った。
しかし、今、僕は、いや、御山君は男に体を拭いてもらって、男と一緒にベッドに戻った。ベッドに戻るほんの数歩の間、男の手が僕にかかっていた。ベッドに上がるとすぐにあの椅子が見えた。その奥には窓がある。そして、僕の前に男が現れた。
(いや、おっさんじゃん)
まあ御山君が誰が好きかなんて、そんなことは僕にはどうでもいい。いや、昨日まではどうでも良かった。でも、今は違う。今はそれは僕の問題でもある。そして、御山君がどうやら男と一緒にホテルにいて、二人とも全裸になっているのは分かった。相手は・・・百歩譲ってクラスのかっこいい誰かとかならまだ許そうかなって気にもなる。でも、今僕の前にいるのは、ただのおっさんだ。
(御山君、おま、何)
男の顔が僕に近づいてきた。僕は動揺した。そして、男は手で僕を開いて口を舐め始めた。
「ああ」
御山君の喘ぎ声が聞こえる。そのまま男は僕を舐め、そして僕の口に指を突っ込んできた。
「入れるぞ」
男が言った。そして・・・
(ま、待って、冗談だろ)
男の、いや、おっさんのペニスが僕の目の前にあった。それを僕に押し付けてきた。
「あっ」
(あっ)
御山君の声と僕の心の声がユニゾンした。男のペニスが僕の口の所に入ってきた。
(は、入ってくる!!)
それはゆっくりと、僕を押し開きながら僕の中に入ってきた。
(む、無理無理無理)
やがて、僕におっさんの毛が触れる。ザワっとした感触にゾワっとする。
(た、助けて、御山君)
しかし、御山君の言葉は僕の想像の遥か上を行っていた。
「ああ・・・もっと奥まで」
(はあ?)
その言葉通り、おっさんが僕に腰を押し付けてきた。鼻のあたりに肌が密着して、呼吸できな・・・いことはない。っていうか、僕はどうやら呼吸もしていないようだ。
「ほら、奥まで入ったぞ」
「気持ちいいよぉ」
なんだか熱くなってきた。
「動くぞ」
(やめてくれ)
僕の心の叫びは御山君には届かない。おっさんが御山君のお尻に、つまり、僕にペニスを出し入れし始めた。
「んん」
御山君が声を出す。そして、何かが僕に伝わってきた。体が、つまり御山君のお尻がピリピリする感じ。それが、つまり、
「ああん・・・気持ちいい」
ということらしい。
(いや、ちょっと待って)
くちょくちょと音がする。おっさんのペニスが僕の目のすぐ前で出入りしている。
「はぁ・・・はぁ・・・」
御山君の荒い息が聞こえる。
「イきそうだ」
おっさんがつぶやいた。
「中に出して」
(おいおいおいおい)
中に出すってことは、僕の中にこのおっさんの精液出すってことなんじゃないの?
(勘弁してしてくれ!!!)
「あっ」
御山君が声をあげた。その瞬間、おっさんが僕の顔に腰を打ち付けてきた。
(ふぎゃっ)
「おあっ」
おっさんの声。
「ああっ」
御山君の声。そして、僕の中・・・なんていうか、口の中みたいな、喉の奥みたいなところで何か熱いものを感じた。
(お、おえぇ)
おっさんが御山君の中に、つまり僕の中に射精した。
いつの間にか、僕はまた真っ暗な世界にいた。あの後の記憶がない。あまりの衝撃に気を失ったんだろうか・・・どうやら御山君の家に帰ったみたいだ。
「早くお風呂入りなさい」
女の人の声。たぶん、御山君のお母さん、いや、ママだろう。また僕の体が揺れる。そして、明るくなった。御山君がお風呂に入るのに服を脱いだんだ。僕は全てを見ようと必死になった。でも見えるのは脱衣籠。その中に入れられていく服。御山君の黒いボクサーブリーフ。洗面所の鏡にチラリと御山君が映る。御山君のお尻・・・つまり僕だ。別になんの変哲もないお尻だ。目があるわけじゃない。目がないのになんで僕には見えるんだろう、なんてことはその時は思わなかった。普通のお尻、でも、おっさんに入れられてたお尻。バスルームに入る。お湯に浸かる。
(うわ、ちょ、ちょっと)
一瞬溺れるかと思った。でも、別に僕は息をしていない。だから関係ない。それに気がつくと、全身を包むお湯の中でほんの少しだけいい気分になっていた。
でも、すぐに御山君の指が僕の口を弄り始めた。指先を口の中に入れてくる。
「ん」
声は出していない。お湯から出る。その時、バスルームの中の鏡に御山君が映る。身体を捻った一瞬、御山君のペニスが勃起しているのが見えた。いや、普通は見える角度じゃないから見えた気がしただけかもしれない。でもそれはお腹にくっつくくらいに勃起していた。バスルームの白い床が目の前に迫った。床に座ったみたいだ。御山君の手が見える。手に少しボディシャンプーを取った。それを指に馴染ませて、僕に近づける。
(まさかっ)
そのまさかだった。御山君は指を僕に入れてきた。初めは一本だけ。すぐに指が増えて、三本になる。そのまま僕に指を出し入れした。くちょくちょと音がする。
「はっ」
御山君の小さなため息。そして、何か体がぎゅっとなった。
「くっ」
そして御山君が息を吐いた。そのシチュエーション・・・想像できる。
(これって、御山君、オナニーしてたんだ)
そのまま頭を洗って身体を洗う。シャワーを浴びてお風呂から出た。
また僕は真っ暗な世界にいた。
あれから結構時間が経っていた。たぶん、御山君はすでにベッドに横になっている。もう眠っているのかもしれない。でも、僕は眠れない。いや、お尻だから眠らなくてもいいのかもしれない。ひょっとしたらお尻は眠らないのかも。いずれにせよ、僕は起きている。今日あったことを思い出す。あまりに色々ありすぎた。もちろん、僕が御山君のお尻になっちゃったことが一番の出来事だ。でも、御山君があのおっさんとセックスしてたというのもそれと同じくらいの衝撃だ。その他のことはとりあえずどうでもいいくらいに。そして、僕はどうなるんだろう・・・僕に戻れるんだろうか・・・・・
戻った。
朝、目が覚めて僕は飛び起きた。ちゃんと飛び起きられた。手がある。足がある。すぐにベッドから出て、僕の部屋にある鏡で自分を見てみた。
「ああ、僕だぁ」
思わずつぶやいた。もう一度手を見る、ちゃんと両手がある。足もある。そして、なぜかパジャマのズボンを下ろしてペニスも見てみる。
(僕のだ)
思わずそれを握りしめる。その途端、御山君とあのおっさんがしていたことを思い出す。
(いやいやいや)
僕は頭を振った。
(あんなこと、実際にあるわけないだろ)
そう思った。いや、そう思い込もうとした。でも、昨日のあれは、たぶん夢とかじゃない・・・ように思う。
なぜか身体を捻ってお尻を鏡に写した。そして、ドキッとした。
「まさか・・・御山君じゃないよね?」
鏡に写っているお尻に話しかけた。そのままお尻を見つめる。でも、なんにも起きなかった。
(はぁ・・・まさかなぁ)
僕は着替えて顔を洗いに行った。
御山君はちゃんと学校に来ていた。つまり、昨日、僕が御山君のお尻になったから、代わりに今日は御山君が僕のお尻に、なんてことはないってことだ。少し安心した。
でも、ずっとモヤモヤしていた。あれはなんだったのか・・・あれっていうのは、僕が御山君のお尻になったことと、それから御山君が放課後していたこと。聞いちゃいけないことだとは思った。でも・・・
それを聞けば、それが本当のことだったとしたら、僕に起きたことも本当のことだったんだって分かるわけで、そうすれば分かるのに、このまま宙ぶらりんにしておくというのがすごく嫌だった。
「ね、御山君」
お昼休みに僕は机に座っていた御山君に声をかけた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
御山君はいつもの笑顔で僕を見上げた。
「ちょっと、来て」
そして、人がいない階段の踊り場に御山君を引っ張っていった。
「昨日、放課後は何してた?」
「別に。普通に家帰ったけど?」
御山君は僕の問いかけにそう答えた。
(そりゃそうか。あんなこと、本当にあるわけないか)
少しホッとして、僕は言った。
「だよね。ホテルにおっさんといたなんて、あるわけないよね」
急に御山君の顔付きが変わった。
「何が言いたいの?」
御山君が言った。いつもの御山君とは違っていた。なんとなく御山君から黒いオーラが出ている、そんな感じだった。
「あ、いや、その・・・・・なんか、男の人と一緒にホテル行ってたりなんてしてないよね?」
すると、今度は御山君に手を引っ張られて、そのまま階段を上がって屋上に続くドアの前に連れて行かれた。ドアにはいつも鍵が掛かっていて屋上には出られない。そういう場所なので、生徒がここにくることなんて滅多にない場所だ。
「何を知っているの?」
「い、いや、別に、何も」
僕は狼狽えていた。だって、昨日のあれが本当のことだったとしたら・・・
「誰に聞いた? 誰に言った?」
黒いオーラを纏った御山君が怖かった。まるで黒御山君だ。
「誰にも聞いてないし、誰にも言ってない」
「じゃ、なんで知ってる?」
僕の腕を掴む手に力が入る。
「ちょっ、痛いって。なんでって・・・」
僕はなんとか黒御山君の手を振り解いた。
「じゃ、ちゃんと説明するから、ちゃんと聞いてくれる?」
御山君は何も言わずに僕を睨んでいた。
「昨日、目が覚めたら・・・・・ほんとにちゃんと聞いてよね」
これから僕が言おうとしていることが、本当に馬鹿みたいに思える。
「いいから早く言えよ」
「うん・・・・・えっと、朝起きたら・・・・・」
ちらっと御山君の目を見た。その目が怖い。
「御山君のお尻になってた」
御山君は何も反応しない。
「って、リアクションなしかよ」
思わずツッコんだ。そうでもしないと続きを話す勇気が出ない。
「変な冗談聞く気はないから」
黒御山君はやっぱり怖い。
「それが、冗談じゃなくて、本当なんだよ」
「バカか、お前は」
「自分でもそう思うよ。でも、本当なんだって。昨日一日、僕は御山君のお尻だったんだよ」
御山君がため息をついた。
「もういい。誰から聞」
御山君を遮って僕は言った。
「ホテルでおっさんがお尻に入れてた」
御山君が僕を見た。
「帰ってから、お風呂でお尻に指入れてオナニーしてた、三本」
僕は右手の人差し指、中指、薬指を揃えて顔の前に上げた。御山君はそれを真顔で見ている。
「それに御山君・・・ママって呼んでるんだね」
御山君が僕の胸ぐらを掴んだ。
「絶対誰にも言うな。言ったら殺す」
僕はその手を振り解く。
「言えるわけないだろ、御山君のお尻だったなんて」
そして、付け加えた。
「おっさんのちんこが、僕のこのへんに」
自分の顔の口のあたりを指差して、くるっと円を描いた。
「入ってきて、中で射精されたなんて」
恥ずかしくなって、僕は顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「どんなふうになってたんだよ」
頭の上から御山君の声がする。
「だから、この辺りに」
顔をあげた。御山君のズボンから、ペニスが出ていた。
「その時みたいにしろよ。そしたら信じてやる」
御山君が真っ黒になっている。
「いやいやいや、無理だって」
僕は首を振った。
「だって、この辺りだよ」
口を指さす。と、御山君が僕の頭を押さえ付けた。
「だったら口でしろ.そしたら信じてやる」
そのまま僕の顔を股間に押し付けた。御山君のペニスが僕の顔に当たる。
「や、やめろって」
御山君の手から力が抜けた。
「ふん、嘘つき」
僕は御山君の顔を見上げた。なんだか蔑まれているような気がする。
「だから、本当なんだって」
「じゃあ、お前が見た通りやってみろよ」
嘘つき呼ばわりされるのが癪に触る。僕は恐る恐る御山君のペニスに顔を近づけ、口を開いた。その途端、口にペニスが押し込まれた。
「うぐっ」
そのまま腰を動かされる。すぐに御山君が僕の口の中で射精した。あの匂いが口の中に広がった。
「飲め」
そう言われる前に、僕はそれを飲み込んでいた。
「信じてやるよ。でも誰にも言うなよ」
「もち・・・ろんだよ」
僕は口を袖で拭いながら言った。
御山君は僕の身体を押しのけて、階段を降りていった。
「はぁ」
僕はため息を吐いた。あのことが本当にあったこと、御山君のあれも本当にあったことだったということが分かった。逆にそれはショックだった。
「どうなるんだよ、これから」
またいつか僕は御山君のお尻になってしまうようなことがあるんだろうか。その時、またあのおっさんとのセックスに僕も巻き込まれるんだろうか。そして、さっき御山君にさせられたことは・・・・・
その時、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
(やっぱ、言わなきゃ良かった)
僕は階段を駆け降りて、教室に、御山君もいる教室に戻った。
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