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僕は裸だった。少し古い感じの浴室、いや、お風呂場という感じだろう。そこでお風呂に入ろうとしていた。
周りには何人かのスタッフさんがいる。カメラマンさんもいる。監督さんもいる。少し離れたところでマネージャーも僕を見ている。
「じゃあ、本番」
助監督さんが声を出す。カメラが回る。僕は体に巻き付けていたバスタオルを外した。
(そうだ、これはお風呂のシーンだ)
今度の映画のワンシーンだ。僕が友達と喧嘩して、落ち込んで、一人でお風呂に入るシーンだ。台本では、ここにお父さんが入ってくる。僕はお父さんとは上手くいっていなかった。二人とも無言で体を洗い、湯船に浸かる。そして、何も言わずにお父さんはお風呂を先に上がる。ほとんどセリフのないシーン。でも、僕とお父さんの関係が変わるきっかけとなる、重要なシーンだ。
「カァット」
監督さんの大きな声がする。
「なんだそれは」
ほとんど怒鳴り声だ。
「なんなんだ、その背中は」
僕に向かって叫んでいる。
「その汚らしい背中はなんだ」
そうだ、僕の背中だ。
「そんな背中じゃこのシーンは台無しだ」
監督さんが立ち上がって僕に近づいた。僕の背中に周り、肩を掴まれた。
「お前はダメだ」
背中を見ながら言う。僕の背中の傷を見ながら言う。
「すぐにキャスト変更だ」
僕は口を開こうとする。でも、開けない。
「お前はどうせ」
そう言いながら、監督さんが僕のアナルに指をねじ込んできた。
「男に鞭打たれて犯されてるんだろ」
指じゃないものが入ってくる。
「お前のような奴は使えない」
お尻が痛む。
「二度と私の前に現れるな」
そう言いながら、僕を掘る。
僕は掘られる。
お尻が痛い。背中が痛い。体中が痛い・・・・・



体中の痛みで目が覚めた。
夢を見ていた。あの映画の夢。
(背中・・・)
背中に手を回し、そっと触れてみた。
「っつ」
ほんのわずかに触れただけで痛みが走る。手には血と、なにかヌルッとした、体液のような物が付着していた。
(背中、どうなってるんだろ)
夢に出てきたあの映画のワンシーン。重要なシーンだ。
(撮影までに、背中の傷は治るんだろうか・・・)
檻の中で座り込んで、ぼんやりそんなことを考えていた。
(なんで、こんなことに・・・)
あの男達は全く知らない奴等だ。たぶん間違いないだろう。
(まさか、あの映画の・・・)
あの役はオーディションで勝ち取った。つまり、一緒にオーディションを受けた奴等からは怨まれてる可能性があるってことだ。
(でも、それは)
子役の俳優として、それはお互い様だ。僕だってこれまで何度もオーディションを受け、何度も落ちてきた。そんなことでいちいち怨んだりしていたら、この世界ではやっていけない。
(そうだ、あれから何日経ってんだ?)
日付の感覚もない。でも、たぶんまだ時間はあるだろう。
(きっと、ここから出て、またみんなと撮影に・・・)
希望を持とうとする。でも、本当に希望はあるんだろうか。
このままここで死ぬんじゃないだろうか。
そもそも、何故、僕はここにいるんだろう。何のためにいるんだろうか。

少年は部屋を見回した。
部屋にはまだ誰もいない。壁沿いの机の上にあの鞭が置かれている。一瞬、体が震える。背中の痛みが激しくなった。
(気のせいだ)
少年は頭を左右に振る。確かに痛みが激しくなったのは気のせいだった。が、痛むのは事実だ。体の奥にも痛みのような重い物を感じる。睾丸を握ってみた。少し腫れているように思う。
(なんで、こんなことに)
同じことをまた考える。考えても始まらないだろう、ということは分かっている。でも、だからといって考えずに済む事でもない。
(背中、治るかなぁ)
考える。
(生きて帰れるのかな)
考える。
何も答えが出ない。分かっている。でも、諦めない。諦めたくない。少し涙が出そうになるのを少年はこらえた。

「おお、起きてるな」
ドアが開いた。大きな声で男が言う。少年は現実に引き戻される。ここから出られる可能性はないかも知れない、という現実に。
「よしよし」
なにがいいのか分からない。その男の後ろから、二人で何かを抱えながら部屋に入ってきた。窓と反対側の机にそれを置く。何かの機械のように見える。少年はそれを見つめる。いや、それから目が背けられない。そんな少年の様子を男が見ている。
「察しがいいな」
男が言った。少年の体がぴくっと動く。その男を見る。
「これは、お前を痛めつけるための機械だ」
にやっと笑う。少年は男から離れるように、檻の中で後退る。
「嘘言うな」
別の男が言った。
「これはそういう物じゃない。心配するな」
とはいうものの、この部屋に運び込まれたということは、少年に何らかの関係がある機械であることは間違いない。少年は怯えた表情を浮かべたまま、檻の隅にうずくまった。
「さて。とりあえず、朝食だな」
少年は、ここ数日、ほとんど何も食べていないことを思い出した。



男達は、あの機械の近くに座ってパンを食べている。少年は檻の中からそれを見つめている。
ぐぅ、とお腹が鳴った。男の一人がチラリと少年を見る。が、すぐに朝食の続きに戻る。
「あの・・・」
声を掛けるべきかどうか、少年は迷った。迷った挙げ句、恐る恐る声を出す。
「ん?」
さっきとは別の男が少年を見た。
「あの・・・僕の・・・」
声を出したものの、言っていいのかどうか分からない。
「僕の・・・分は・・・」
この空腹を何とかしたいという思いが勝った。
「僕のご飯・・・」
男は何もなかったかのように顔を戻す。自分の食事を続ける。
「あのっ」
今度は少し大きい声を出した。
「うるせえ」
誰が言ったのか分からなかった。誰も少年の方を見なかった。ただ、男達は自分達の朝食を食べ、何かを話し、笑っていた。
「お前でも腹が減るのか」
彼等が食事を終えた後、一人が檻に近づいて言った。
「お願い・・・何か・・・」
「食べたいのか?」
「はい」
男が笑う。他の男が何か皿を持ってくる。
「ほら」
檻の天面の穴からその皿を差し入れる。
「お前の餌だ」
少年は両手で皿を受け取る。皿の上にはなにか茶色い色をしたドロドロとしたものが乗っていた。少し生臭い臭い。男の顔を見る。
「食い物だ。大丈夫、食べられる」
そして、男達は檻から少し離れる。少年はその皿の上の物の臭いをもう一度嗅いだ。またお腹が鳴る。耐えがたい空腹、そのためお腹が痛い気もしてくる。
少年はその皿を床に置き、手を伸ばした。スプーンも何もない。手づかみ出食べるしか・・・が、それを手づかみにするのに少し抵抗を感じる。四つん這いになって顔を近付ける。そのまま、口を開いて舌を伸ばした。
少年が犬のようにその茶色いものを食べているのを男達が見ている。
「さすがだな」
誰かの声。
「お前、それ、ドッグフードって知ってたのか?」
また別の声。それが聞こえた。でも、少年は食べ続ける。
「犬は犬らしく、ってことだな」
男達が笑う。生臭い臭いとその臭いそのままの味。でも、今、少年の空腹を満たすものはそれしかない。少年は食べ続けた。

ドッグフードを食べ終えた少年は、檻から引き出された。
「ひでえな」
誰かが少年の背後で言う。
「昔、奴隷制度の頃、奴隷は逆らうとこうやって鞭打ちにされたらしい。それと同じだ。なにも特別なことじゃない」
まるで誰かに言い訳しているかのようだ。
「さて。じゃ、始めるか」
立ち上がった少年のアナルにローションが塗りたくられる。そのまま誰かが入ってくる。アナルが痛む。何度も使われ、その度に引き裂かれ、血が溢れたそのアナル。
「いいっ」
少年は苦痛に呻く。
「それ喘ぎ声じゃないよな」
少年のアナルを犯している男が耳元で言う。そして、突き上げる。
「うぐっ」
苦痛の呻き。少年の目尻に涙が浮かぶ。男達はそんな少年の痛みなど全く意に介さずに犯し続ける。
「痛いか?」
むしろ、少年が痛み、苦しむ様子を楽しんでいる。
「痛いよな」
別の男がさらに少年を犯す。少年の体を押さえ付ける。床に押し倒し、その体に覆い被さり、腰を打ち付ける。
「うぅぅ」
少年は呻き続ける。背中の傷が男の体に擦られ、血が滲む。頭を振り、体を揺すり、逃れようとする。
「たす・・・けて・・・」
少年が呻いた。

少年に覆い被さっていた男が顔を上げた。別の男と目が合う。男達が頷く。あの機械に近づき、なにか操作する。
「実験開始だ。さて、どうなるか」
皆が少年を見た。少年は男の下で呻き続けていた。

「そろそろじゃないか?」
機械を操作して10分ほどが過ぎた。少年は床にうつ伏せになり、呻いている。男が腕時計を見て、少年の近くにしゃがむ。太ももに手を這わせる。
「うっ」
少年が小さく呻いた。体がピクンと動く。男は太ももから尻に手を動かす。
「くっ」
少年の口から声が漏れる。苦痛の声。いや、違う。少年の呼吸が速まっていた。男が尻を撫で回す。
「あ・・・」
また声が漏れる。その声は、これまで何度も聞いたような、苦痛の声とは少し違った。
「どうだ?」
尻を撫で回しながら男が少年に問い掛けた。少年の息が荒くなっている。男が手を尻に掛け、その谷間に指を差し入れる。
「あっ」
少年の体が震える。腰が少し浮く。
「欲しいのか?」
少年は何も言わない。その代わりに少し尻を振る。
「どうして欲しいのか言ってみろ」
俯せになったまま、少年は拳を握る。何かに耐えているように見える。
「我慢しなくてもいいんだぞ。お前の気持ちを言ってみろ」
それでも少年は何も言わなかった。
「そうか」
男が他の男を見回す。皆、頷く。そして、男達は少年を一人残して部屋から出て行った。
「あっ」
少年は頭を上げ、男達の方に手を伸ばした。が、男達はそんな少年を振り返ることはなかった。


      


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