数ヶ月が過ぎた。
思春期の少年による異常行動は、都市部を中心に増え続けていた。増加し続ける異常行動に対応するために、全国の病院の何割かが専用の受け入れ施設に指定され、運用された。が、それらの施設もすぐに一杯となり、街に異常行動者が溢れるようになっていった。
玉城諒が置かれている状況は何も変わっていなかった。
相変わらず拘束され、その衝動を抑え付けられていた。が、他に対処の方法はなく、ほぼ放置状態と言っても過言ではなかった。
そんな、玉城諒の閉じ込められた病室の扉が開いた。そこは窓のない白い部屋。白い壁、白い天井、白い扉、白い床。その壁にある金具に拘束服のまま玉城遼は固定されている。それ以外、何もない部屋。が、突然、その部屋に2人の男が入ってきた。
玉城諒は彼等の入ってくる音を聞いても動かなかった。動く気力も体力も失っていた。あの衝動は消えてはいない。むしろ、強くなっていた。が、その果たすことが出来ない衝動はすっかり彼を憔悴させていた。
「どうだ、気分は」
男の一人が声を掛けた。玉城諒は微かに顔を上げる。
「なんだかすっかり大人しくなったな」
その男は、玉城諒を監視している職員だった。玉城諒から口枷を外す。玉城遼は口から溢れる涎をすすり上げた。
「お・・・」
玉城諒が微かにつぶやいた。
「なんだって?」
その男が玉城諒の口に耳を近づける。
「犯して」
小さな声だった。
「ふうん」
男は玉城遼の頬を撫でる。玉城遼の体がビクッと震える。
「そうか、犯されたいのか」
男は玉城諒から少し離れ、改めて壁に固定されたままの玉城遼を見つめる。
「そんな元気があるようには見えないがな」
そう言いながら、玉城諒に近づき、その拘束服の上から彼の股間を軽く撫でた。
「ああっ」
大きな声を上げた。同時に体がびくんと跳ねる。
「ふふん」
男が笑う。
「犯されたいというだけのことはあるな」
男は、他の男の顔を見て頷いた。その男は病室を出て行く。
「犯して欲しいか?」
男が再び玉城諒の頬を撫でた。玉城諒は何も言わなかった。が、男を見上げた。少し口を開いている。息が荒くなっている。
「犯されたいのか?」
さっき病室を出て行った男が戻ってきた。三脚を抱えている。その後ろから別の男が何かを抱えて入ってくる。男達は三脚を設置し、抱えていたライトとカメラを取り付けた。
「犯して欲しいんだろ?」
もう一度尋ねた。が、やはり玉城諒は何も言わない。
「そうか」
男が口枷を噛ませようとした。
「いやだ」
玉城諒が顔を背けた。男がその首を押さえる。
「いやか。じゃ、犯すのはなしだ」
そう言いながら、彼の股間を撫でる。
「んん」
玉城諒が唸る。息がますます荒くなる。男はただ撫でるのではなく、その部分を拘束服の上から摘まむようにし、その手を上下に動かす。
「ああっ」
玉城諒が頭を振る。
「ほら、どうなりたい? どうして欲しい?」
玉城諒の口から涎が垂れる。
「チ、チンポ」
「ん?」
男達が玉城遼の顔を見つめた。
「チンポ・・・欲しい・・・です」
男達が玉城遼の両脇を抱える。そのまま少し体を持ち上げ、壁のフックから拘束服を外し、白い床に横たえた。その手足を男達が押さえる。
「犯されたいんだよな?」
男が見下ろしながら尋ねると、玉城遼は頭を上下に何度も動かす。
「犯してやってもいい。ただし、条件がある」
「お、犯して」
「それは、条件を飲む、ということでいいんだな」
また頭を上下に動かした。
「暴れないこと。暴れたら、そこで終わりだ」
そして、三脚に据えられたカメラを指差す。
「お前が犯されている所を撮影する。この二つが条件だ」
玉城遼はずっと頭を振り続けている。
「お前、犯されたいだけだろ」
玉城遼を押さえ付けていた男達が、恐る恐る、という感じで彼の手足を離した。玉城遼は一瞬体を揺らしたが、すぐにその動きを止めた。
ライトが玉城諒に光を浴びせた。
「チンポ・・・欲しい」
微かにそう言う声が聞こえた。カメラがその声を収録している。
「お前、玉城遼だよな、『紅い櫻』の」
男が問い掛ける。
「は・・・い」
玉城遼が答える。
「どうして欲しいんだ?」
男が玉城遼の胸に手を置く。
「チンポ・・・欲しいです」
「どこに欲しいんだ?」
微かに体を揺らした。
「お尻に・・・お尻、犯されたいです」
「ふうん、子役の玉城遼は、俺達に尻を犯されたいんだ」
「はい、犯して欲しいです」
「じゃ、俺達の言うこと聞くな?」
「何でも言うこと聞くから、早く犯して!」
大きな声を出し、股間を突き出すように体を揺さぶった。が、すぐに体の動きを止める。
「よし」
男が手を伸ばし、彼の拘束服の下半身だけを脱がせた。
久しぶりに拘束服から解放された玉城諒の股間には、おむつが装着されていた。それも脱がせる。股間の部分がぬめぬめと濡れているように光る。だが、それは尿や汗ではない。
「先走りだけでこんなになってるのか」
玉城遼は床に仰向けになり、下半身を晒している。その股間ではペニスが勃起し、ビクビクと震えている。
「じゃ、自分で足を抱えろ」
その言葉通りに、玉城遼は膝の裏に手を添えて、足を抱えた。
「じゃあ、約束通り、犯ってやるよ」
男が玉城遼の股間に膝をつき、その足を抱え上げる。
「あ、ありがとう・・・ございます」
玉城遼が男達に礼を言った。その顔が少しニヤけているようにも見える。男が玉城遼の尻を持ち上げ、アナルに舌を這わせた。
「ああっ」
それだけで、玉城遼のペニスから大量の先走りが溢れ出す。男が玉城遼のアナルに挿入した。白い部屋の中に、玉城遼のあえぎ声と、彼のアナルを掘る音が響き渡った。
男達に犯された玉城遼は、3時間ほどの間に8回射精した。が、彼のペニスは勃起し続けている。男達はそれぞれ彼のアナルに精液を注ぎ終えると、彼の腕に何かを注射した。玉城遼が動かなくなる。気を失ったように見えた。彼等は再び玉城遼に拘束服を着せ、口枷を付け、壁の金具にその体を固定し、彼の部屋から出て行った。
数日後、ネット上で玉城遼が犯されている動画が拡散された。
最初はいわゆるダークウェブでの公開だったが、瞬く間に拡散され、ちょっと検索すれば、誰でも閲覧出来るようになった。その動画には、男達の顔は全く写っていなかった。玉城諒が犯され、それを悦んでいる姿だけが高解像度かつクリアな音声で撮影されていた。
もちろん、その動画の背景などから、玉城遼が入院している病院でその行為が行われたことは、すぐに特定された。男達の素性についても同様だ。だが、彼等の情報は数日の間にネットから消えていった。それをいぶかる声すらも瞬く間に消えていった。
それらの声が消えていくのと反比例するかのように、玉城遼の病室を男が訪れるようになった。その数は次第に増えていく。つまり、あの動画の本当の目的は、彼の体を買う「客」を集めることにあった。ダークウェブを使い、病院の一部の関係者が単なる金儲けのために仕掛けたことだった。
毎日、何人もの男達に犯されることで、くすぶっていた玉城遼の衝動が再び激しく燃え上がった。それによって、皮肉にも憔悴しきって暗く沈んでいた目は、輝きを取り戻した。
少年達の異常行動はますます増加していた。
そのため、彼等を収容する施設は不足し、玉城遼も他の施設に移送されることとなった。その施設は郊外にあり、これまで入院させられていた都市部の病院に比べると、設備的に大きく見劣りした。そして、そこでは狭い部屋に2、3人が収容されており、設備だけでなく、待遇も悪化した。
玉城遼が収容された部屋には、すでに一人、先客がいた。
玉城遼が連れてこられたとき、その同室者は壁に向かって横になっていた。玉城遼は白い拘束服のまま部屋に投げ捨てられるように放り込まれた。拘束されているため受け身も取れず。まともに顔面を壁にぶつけ、鼻血が出た。その鼻血が白い拘束服を赤く汚す。
その後、床に転がった玉城遼の上に、灰色の服が投げ込まれた。
「おい、着替えさせておけ」
男が同室者にそう声を掛けた。が、同室者は動かなかった。
同室者が玉城遼に這い寄ってきたのは、2,3時間ほど過ぎたころだった。拘束服を止めていたベルトを外し、上着から手を抜き、脱がせる。やっと両手が自由になった玉城遼は、自分で口枷を外した。
「後は自分で出来るだろ」
玉城遼の足下に、灰色の服が投げられる。同室者は床に座り、壁にもたれて玉城遼を見ていた。玉城遼は彼の反対の壁際で、まずこわばった肩をもみほぐし、ゆっくりと灰色の服をたぐり寄せた。拘束服の下に着ていた下着を脱ぎ捨てる。拘束服のズボンも脱ぐ。おむつ1枚の姿になった。同室者に背を向けておむつを外す。それを同室者はじっと見ている。灰色の服を拾い上げる。それを手に取り、広げ、そして同室者を見た。
「あの・・・パンツは?」
「ないよ、そんな物」
同室者がそう答えると、玉城遼は全裸の上に直接灰色のズボンを履く。そして、灰色のシャツ。これまで着ていた拘束服と口枷、おむつを部屋の外で待っている男に手渡す。
「いいか、ここでは性行為は禁止、それが決まりだ」
男はそう告げて、拘束服等を受け取る。玉城遼は同室者と反対側の壁、その狭い部屋の中で一番距離が取れそうな位置に足を抱える様にして座り込み、頭を伏せた。
しばらく、玉城遼も同室者も何も言わなかった。
「お前、玉城遼なんだろ?」
何時間か経った頃、同室者が言った。玉城遼は頷いた。
「子役で人気だったんだろ?」
「そんなことない」
正直、玉城遼は自分が玉城遼であったことを忘れ去りたいと思っていた。こんなことになっているのも、前の病院で男達に犯されたのも、全部彼が玉城遼であったがためだ。自分が映画やテレビに出ていない、ごく普通の少年だったら、あんなイベントに登壇することもなく、映画に出演したりもせず、子役の俳優を犯すなんてことの餌食になることもなかったろう。でも、それはもう変えられない事実だ。
「そっか」
意外にも、同室者はそう言っただけだった。
「まぁ、ここに入れられてるって意味では一緒だもんな」
顔を上げて同室者を見た。同室者は玉城遼を見てはいなかった。どこを見るでもなく、彼の方の壁に目を向けていた。
そのまましばらく同室者を見つめ続ける。やがて、彼等の目が合った。
初めて同室者と目があった瞬間、玉城遼の体の奥に疼きのさざ波が立った。
(こいつも、僕と同じように・・・)
手が同室者の方に伸びていこうとするのを、意思の力で押し留めた。
「俺の名前、三廻部(みくるべ)健斗」
同室者が名乗った。少しぶっきらぼうな口調だった。その後、玉城遼は同室者、三廻部健斗が何か言うのを待った。が、彼は何も言わなかった。
しばらく経つと、食事が提供された。粗末な食事だった。が、都会の施設での食事に比べると食べ物らしい食事だった。あの施設では、食事の時間だけ口枷と両手の拘束が解かれた。が、食事はトレイに盛られた何かが煮込まれたような物のみ、味もあるのかないのか分からない様な物だった。それを手づかみで食べ、食べ終わるとまた拘束される日々だった。
「うわ」
目の前に置かれた、トレイに並んだご飯、焼き魚や野菜、そして味噌汁を見て、思わず声が出た。三廻部健斗が玉城遼を見る。
「こんなまともな食べ物、食べられるなんて思ってなかったから」
三廻部健斗は小さく頷いた。
「そうだな。俺もここに来たとき、びっくりした」
そして、食べ始める。まずはご飯。その甘さ。
「たぶん、やっすい材料なんだろうけど」
そう言う三廻部に、玉城遼は反論する。
「そんなの・・・まともな食べ物だし、関係ないよ」
顔を見た。三廻部が少し笑った。玉城遼も笑った。久しぶりの笑顔・・・あのイベント以来、初めて笑った気がした。
それから二人は少しづつ話をした。
三廻部健斗と玉城遼は同い年だった。そして、三廻部はあのイベントをネットで見ていた。その時はもちろんまだ普通で、家の自分の部屋で、自分のPCで見ていたらしい。
「どう・・・思った?」
玉城遼は恐る恐る尋ねた。
「いかれてんなって思った。変態かよって。俺にはあんな真似絶対無理って」
「そう・・・だよね」
玉城遼の声が沈む。
「でもさ、あれから2週間位後だったと思うけど、俺も、授業中に急にしこりたくなってさ」
三廻部が少し声を落とした。
「気が付いたら、素っ裸になってしこってた。友達押し倒したりとかもしてた。一緒だよ、お前と」
「そう・・・なんだ・・・ごめん」
玉城遼は、自分がこうなったのはもちろん、世の中がこうなっているのが、何となく自分に責任があるのではないかと思っていた。
「なんでお前が謝るんだよ」
「だって・・・分かんないけど・・・」
「それで俺は病院に押し込められたけど、後から聞いた話だと、その日は俺だけだったけど、次の日からそんな奴が何人も出たんだって。そんなことにお前は関係ないだろ」
「そうなんだけど・・・」
玉城遼は頭を垂れた。
「すごいらしいよ。教室内でみんなで乱交みたいになってたりとか、先生とか親とか全然知らない人とかに、相手構わず擦り付けたりとか」
「みんな、そんなことに?」
「俺も前に施設の人が言ってるのを聞いただけだから詳しいことは知らないけど、俺等の世代、崩壊してるらしい」
そして、玉城遼を見た。
「お前、そんな崩壊させるようなことしたのか?」
「僕は・・・・・」
あの時のことを思い出す。
「僕は、ただ、ボタンを押しただけだけど」
「じゃあ、お前が謝る必要なんてないよな?」
「うん」
それから二人は無言になる。そのまま就寝時間となり、部屋の隅に離れて二人は眠った。
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