壊れた玩具
−第6話−


橘に嫌いだって言われて、僕はとっさに言葉が出てこなかった。なにも言えないまま、去っていく橘の背中を僕は見つめ続けていた。
「もう、お前とはしない。お前は嫌いだ」その言葉が頭のなかで何回も繰り返し聞こえた。あのチビの橘が、今はもう全然違う。髪の毛は金色だし、なんだかやせて、顔つきも怖くなったような感じ。なにより、ほとんど学校にも来なくなっていた。ほんの少し前までは、クラスのみんなの前で僕を使ってくれたのに・・・今ではそんなことに興味すらないって感じだった。
僕はクラスのみんなの前で、一人でオナニーショーを続けていた。でも、あのときみたいな恥ずかしさやどきどきした気持ちはなかった。なんていうか・・・やめるきっかけがなかったから続けているだけって感じ。橘にされていたころ、みんなの前で橘の命令を実行していた頃は、次はなにをさせられるのかっていつもどきどきしていたし、見ていたみんなもそうだったと思う。でも今は、いつも同じようなことばかり。誰かが僕に命令してくれるといいんだけど・・・誰もそんなことはしてくれない。オナニーショーの観客は少しずつ減っていき、やがて、僕は教室の隅で一人でオナニーするだけになっていた。それでも僕はやめなかった。やめられなかった。僕はおかしくなっているんだろうか・・・たぶん、そうなんだと思う。

矢島先輩は相変わらず僕を使ってくれる。部活が終わったあと、僕が部室で裸になって待っていると、矢島先輩が入ってきて、無言でお尻を使ってくれる。でも、それも前とはちょっと違う。やっぱり、これもやめるきっかけがないから続いてるだけって感じ、矢島先輩にとっては、オナニーと変わらないんだろうな、なんて思う。ただ、僕のお尻がそこにあるから、手でする代わりに入れてるって感じ。

なにもかもがおもしろくなかった。すべてが「惰性」だった。あのときのことを思い出して、再びあのときのようになることを祈って、おもしろくない生活を、刺激のない日々をただ惰性でおくっていた。

「おい、楢崎」何のあてもなく商店街をうろうろしていた僕は、そう声をかけられて立ち止まった。すぐに誰かが僕の肩に手をかける。
「あ、先輩」その瞬間、僕の体の奥のほうでなにかが動いた感じだった。それは、うずき、というやつだろうか。まるで、条件反射の実験に使われたパブロフの犬のように、僕の体は反応した。それは、もう理性ではどうしようもない、僕の本能だった。
「なんだよ、その顔は」先輩が言う。僕の顔、なんかついてるんだろうか・・・僕はあわてて顔を手で拭ってみた。
「そうじゃないよ。そういうの、物欲しそうな顔っていうんじゃないの?」先輩が笑って言う。でも、目は笑ってなかった。
「あ・・・すみません」
「お前、ホント頭おかしいんじゃねーの?」僕がおかしくなったのは、先輩のせいですよ・・・そう言いたかったけど、僕はなにも言わなかった。
「どうせ暇だろ? ちょっとつき合えよ」そう言って、いつものように僕の肩に手を回す。僕は仕方なく従う。仕方なく?・・・本当は期待していた。
「勃起させてんだろ?」先輩が耳元でささやく。僕はだまって頷いた。

先輩に連れてこられたのは、大きなマンションだった。先輩はよく知っている様子でエレベーターに乗って、最上階のボタンを押す。エレベーターは僕等二人だけを乗せて25階に上がっていく。その間、先輩はなにも言わない。僕もなにも言わなかった。
25階でエレベーターを降りると、先輩はさっさと先に進む。突き当たりの部屋のチャイムを鳴らす。ドアが少し開く。そして、先輩が中に入っていく。半分からだを中に入れたところで僕の方を振り返って、手招きした。僕は先輩のあとについてドアをくぐった。

そのドアを入って、廊下を進む。廊下の向こうのドアを開く。中は薄暗かった。薄暗い、広い部屋・・・その中央になにか四角い大きなものがある。檻だ。中になにかいる。それは見覚えのあるもの・・・人だ。橘が、全裸で檻の中にいた。檻の片隅で、橘がうずくまっていた。
「た、橘・・・」僕は驚いて声をかけた。でも、橘はぴくりとも動かなかった。ただ、自分の手を見つめていた。
「驚いたか?」先輩が言った。先輩は檻の回りを回って、橘の正面に立った。先輩が橘に声をかける。
「楢崎を連れてきてやったよ。お前の変わり果てた姿、見せてやれよ」でも、橘は動かなかった。
「立てよ」急に後ろから声がした。僕は驚いて振り向いた。なんだかちょっと怖そうな、体のでっかい男が立っていた。
ちゃら・・・檻の方で音がした。橘が立ち上がっていた。橘の首には首輪が付いていた。その首輪から檻に鎖がつながっている。さっきの音はこの鎖の音だった。橘のペニスは勃起していた。
「はぁ・・・はぁ・・・」橘は、まるで動物みたいな息をしていた。男が檻に近づくと、橘は男のそばに行き、その前でしゃがみこんだ。いや・・・ちんちんしていた。
「もうおねだりか・・・友達の前で、やってみるか?」男はそう言って、ポケットから何かを取り出して橘に渡した。
橘はひったくるようにそれを受け取る。小さなケースを開く。注射器が入っている。躊躇なく自分の腕にそれを打つ。中の薬を自分の血管に押し込むと、注射器とケースを床に置いて、また檻の向こう側でうずくまった。
「ど、どうなってるんですか?」聞きたくもないのに、勝手に質問が口をついて出た。
「お友達が心配か?」男が逆に僕に尋ねた。
「・・・わからないです」正直な答えだった。橘の姿を見て、驚いた。でも、それ以上のことはまだ考えられなかった。今の状況が全然理解出来なかった。
「そうか。こいつがこうなったのはお前が原因だというのにな」男は橘の方を見つめたまま言った。
「僕が・・・ですか?」ますます理解できない。なにがどうなっているのか・・・なんで橘がこんなところでこんな恰好でこんな檻に入れられているのか、なんでそれを先輩が知っているのか、この人は誰なのか、さっきの注射は何なのか、なんで僕のせいなのか・・・わからないことだらけで頭が痛くなりそうだった。
「こいつが、あれをお前から奪ったんだよ」男は先輩の方を親指で指し示した。
「僕から・・・奪った?」初めは意味が分からなかった。でも・・・急に橘が変わってしまったこと、急に僕を相手にしてくれなくなったこと・・・そういったことが、おぼろげながら分かってきたような気がした。
「こいつがあれを薬漬けにしてくれって俺に頼んだのさ」男が床においてあった注射器を拾い上げ、ケースにしまおうとした。
「薬って?」
「麻薬だよ。合法なやつじゃなくて、正真正銘のドラッグさ」男が僕に注射器を差し出した。
「お前もいっとくか?」僕は後ずさった。
「な、なにがどうなってるんですか?」さっきからなにも言わない先輩に向かって僕は尋ねた。
「僕から奪ったとか、薬漬けにしたとか・・・わかるように説明してください」
「こいつはお前を自分だけのおもちゃにしたかったんだとさ」先輩じゃなく、男が答えた。
「僕を・・・先輩だけの・・・」うれしいような気もしたけど・・・自分が本当はどう思っているのかよく分からない。
「だから、こいつを薬漬けにして、薬のためなら何でもするようにして、そのあげくが・・・」男が橘の檻に近づいた。そして、僕の手首ほどもある太いディルドとローションを檻のなかに放り込んだ。橘はそのディルドに這いよって、ローションを塗りたくった。
「ほら、見てみろよ」橘はディルドの上にしゃがみ込んだ。太いのが、橘のお尻の穴にずぶっと入っていく。
「ん・・・」橘は半分目を閉じていた。体を動かす。ディルドを根本までくわえ込み、また腰を浮かせる。勃起したおちんちんをしごきながら、橘は気持ちよさそうに体を動かしていた。
「こんな風になっちまった。今まで・・・そうだな、100人くらいかな、こいつを犯したのは」
僕は橘から目をそらすことが出来なかった。その表情、少し開いた口から漏れるあえぎ声・・・僕に命令してくれていた橘とは違う橘がそこにいた。
「そりゃひどかったぜ、何人もの男に次々に犯されて・・・初めは泣き叫んでいたが、今ではこの有様さ。自分から喜んで犯してもらいたがってる。セックスするために生きてるんだよ」
男は檻の鉄格子の前でズボンのチャックを下ろした。その音に反応して、橘がお尻にディルドを入れたまま男に近づき、男のペニスにむしゃぶりついた。男は鉄格子から手を差し入れ、橘の頭をつかみ、そして激しく腰を使い始めた。橘の口から、ぐぼっぐぼっという音が聞こえた。
「先輩・・・」先輩は、橘も男も見ていなかった。ぼんやりと、部屋の入り口のドアの方を見つめていた。
「なんで、こんなこと・・・」そして、先輩の股間が盛り上がっているのに気がついた。

今まで、いろいろなことをしてきた。いろいろなことをさせられてきた。でもそれは、誰かに命令されてしたことだったり、そうやってしてきたことを惰性で続けていたりしたわけで・・・誰からもなにも言われずに自分で始めることはなかった。やっぱり恥ずかしかったし・・・なにより、僕は本当は自らすすんでそんな恥ずかしいこと、人間として最低な、いや、人間ならできないようなことをさせられたいとかしたいとか思っているってことを、僕の本性を、本当の僕をみんなの前にさらけ出す勇気がなかった。

でも・・・
今、こうして橘が恥ずかしいとかそういうことと無関係にセックスのためだけに生きているってことを目の当たりにして、そして、そこまでして僕を自分だけのおもちゃにしたいと思っていた先輩が、なにを考えているのかわかんないけど勃起させているのを見て、僕のなかで最後までがんばっていた何かが消え失せた。

僕は先輩の前にひざまづいた。先輩は動かない。先輩のズボンのチャックに手をかけた。ぴくっと先輩の腰が動く。でも僕はチャックをおろして、先輩のおちんちんを引っぱり出した。初めて見る先輩のおちんちん・・・僕はそれを口に含んだ。
「ここにも壊れた玩具がいたか」男が言っているのが聞こえた。僕は片手で先輩のおちんちんをつかんで、もう一方の手で自分のズボンのベルトをはずした。そして、なんとかズボンとパンツを脱ぐ。勃起したおちんちんをしごく。しごきながら、先輩のを舐める。先輩のズボンのベルトをはずして、ズボンとパンツをずり下げる。先輩は動かない。僕は先輩の股間に生えた毛に顔を埋めた。思いっきり息を吸い込む。少し汗くさい、先輩のにおいがした。おちんちんの根本をなめ回す。竿をなめる。手で皮を剥いて、亀頭の裏側に舌を這わせる。
いつの間にか男が僕の後ろにいた。後ろから、両脇に手を入れて僕を立ち上がらせる。男が僕の顔を先輩の顔の方に押しやる。僕はそのまま先輩にキスをする。先輩の息が僕の顔にかかる。あれほど橘を求めていた僕の体が、心が、今は先輩を求めていた。
「先輩・・・犯して」思ったとおりのことを口にする。すぐ後ろで男が聞いていたが、かまわなかった。
「こいつ、お前に犯されたいんだとよ。どうする?」男が僕の後ろで言うと同時に僕を羽交い締めにした。
「お前なんかとするかよ」先輩が口を開いた。そして、シャツのポケットからケースを取り出した。あの、さっき見たのと同じケースを。
「ただ、お前がぼろぼろになっていくのを見ていたいんだよ」

消え去ったはずの理性が戻ってきた。
怖かった。でも逃げられなかった。男の力は強く、僕は体を動かすことすらできなかった。先輩が注射器を取り出す。針が、僕の腕に近づく。
「や、やめてください、先輩!!」僕は叫んだ。
「お前を犯してやるよ。薬で、お前をぼろぼろにしてやる」そして、針が僕の腕に突き刺さった。ゆっくりと中の薬が僕の中に入ってくる。
「い、いやだぁ!」でも、そう叫んだときには注射器の中の液体は全部僕の体に入っていた。

それからのことはよく覚えていない。気が付いたら男に・・・違う男と一つになっていた。入れられている・・・それ以上の感覚・・・なんだか、魚眼レンズを通したみたいに見えた。他にも誰かいたような気がする。体中誰かにさわられてるような、そんな感じ・・・また違う男が僕に入ってくる・・・僕のお尻の穴が見える。すべてがそこにあった。体の真ん中が熱かった・・・世界が赤かった。そして、青かった・・・・・



「んじゃ、また」ホームルームの後、掃除が終わると、みんなは帰っていく。僕は、野球部の部室に行く。そして、部室で服を全部脱ぐ。全裸になって、並んでいるロッカーの8番に入る。そこで、部活が終わるまで待つ。
部活が終わると、みんなが部室に帰ってくる。ロッカーの扉が開かれる。僕は目の前に立っている人の前にひざまづいて、その人のおちんちんをしゃぶる。それは野球部の誰かだったり、そうじゃなかったり・・・それが誰か、なんてことは関係ない。そうすることが僕であることだったから。
それを終えると僕はマンションの檻の中に帰る。そして、先輩・・・ご主人様に、薬をもらう。男にどこかに連れて行かれて、毎晩違う人に抱かれる。広がったお尻の穴は、どんなモノでも・・・腕でさえ・・・受け入れられるようになった。すべてが気持ちいい。すべてが僕のお尻の穴を中心に回っていた。

それが終わると家に帰る。眠る時間になると自分で薬を打つ。眠気が消える。そのまま夜の公園に行って、誰かに犯してもらう。夜明け前に家に戻って、そのまま学校に行く。授業中はほとんど眠る。早く放課後にならないかなぁ、とか思いながら。時々教室でオナニーする。そして、放課後は部室に行って・・・

自分が壊れていくのがよく分かっていた。でも、もう自分では止められない。ご主人様の前でいろんな男にもてあそばれるのが気持ちよかった。このまま壊れていけば、きっといつか、ご主人様にも抱いてもらえると思う。そうなる日が早くこないかな・・・そのために、僕は壊れ続けるんだ。完全に壊れて・・・いずれ捨てられる、その日のために・・・・・

<壊れた玩具 完>



あとがき

少年が落とされてぼろぼろになっていくお話・・・久しぶりのような気がします。久しぶりに書いて、けっこう・・・やっぱこういうのが好きだって再認識(笑)

落とし方とかぼろぼろにする方法が、けっこうあれこれ使ってきたからあんまりいい方法が思い浮かばなくて・・・結局は同じような流れになっちゃうことが多いので、最近はあんまり書いてなかったけど、でも、今回はちょっと(気持ち的に)ひねくれた落とし方をしてみたつもりです。

今回、特に今までと違うのは、主要登場人物の中で純粋に「ゲイ」なのは楢崎一人だけってこと。先輩(=ご主人様)も”男”も違うし。当然橘も違う。橘の場合はHなことへの興味から楢崎をおもちゃにするけど、だからってゲイではない設定。そんな中でいかに楢崎を変態奴隷に仕上げて落とすかってことで、ちょっと苦労したというか・・・書き始めたらけっこうすんなり書けたんだけど・・・

残念ながら、死亡者は「0」。まぁ、いい感じにまとまったし、壊れた楢崎がこれからどうなるのかなぁ、といった余韻を残しつつ(笑)終わりです。

でも・・・ねぇ(笑)

期待しているあなた・・・鬼畜でつ(笑)


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