えびら


4月に、つまり、僕等が2年に上がってからも、僕等はあのことを続けていた。
僕とエビラは相変わらず同じクラスで、エビラは相変わらず休み時間には僕の席にやって来て、相変わらず僕の膝の上に座る。もちろん、僕がエビラのズボンのポケットに手を入れるのも相変わらずだ。
でも、少し変わった事もある。
エビラはまた、ちゃんとテニス部に行くようになった。2年になって新しい部員も入ってきたので、ちゃんとしないとっていうことだ。だから、僕等のあれをする日もかなり減った。
それともう一つ。エビラはあのスポーツ施設でするのを嫌がるようになった。やっぱりああいう所のトイレでしていると、誰か入ってくるかも知れないっていうのが気になるらしい。つまり、本気で気持ち良くなれないってことだ。だから、今は僕の家でしている。部活にも行って、僕の家で親のいない日を選んでってしていると、あれを出来る日は大抵週1回、たまに2回出来るかどうかってくらいに減っていた。
僕としては、エビラがちゃんと部活に行くようになったのは良かったと思ってる。エビラが大好きな、そしてみんなが才能あるって認めているテニスをやめてしまいそうになったのは、なんだか僕のせいみたいで罪悪感もあったし、何よりエビラの好きって気持ちに応えることが出来ない僕と、あれをずるずる続けていくことの意味が分からなくなっていたからだ。

だけど、回数が減ってしまうと、それはそれで寂しい気がする。いや、違う。寂しいんじゃなくて、なんていうか・・・エビラとああいうエロいことが出来ないのが残念だ。エビラはどうなんだろう。テニスで体動かしたりしてるから、そういうのは発散出来てるんだろうか。それとも、エビラも僕と同じように、いや、エビラは僕が好きな筈だから、僕以上にあれが出来ないのが辛いんじゃないだろうか。

エビラが僕の部屋に入る。僕がカバンを机の横に置く前に、エビラは脱ぎ始めている。ちんこは当然のように勃起している。僕がベッドに座ると、すぐに膝の上に座る。
「して」
小さな声で言う。僕はエビラのちんこに手を伸ばす。熱くて硬くなっているそれを握る。
「んっ」
エビラが小さな声を出す。ちんこを上下に扱く。エビラの息が荒くなる。
いつも通りのことだ。いつものようにエビラのちんこから先走りが溢れ始める。エビラが僕に体を預ける。僕はエビラの顔を見る。エビラと目が合った。
すると、エビラが僕から目を逸らした。
(あれ?)
いつもなら、ここで目を逸らしたりはしない。むしろ、エビラも僕を見て、まるでキスをしたいかのように顔を近づけてきた筈だ。
(まあ)
そういう時もあるだろう。それに、僕はゲイじゃないからエビラとキスとかはしない。扱くだけだ。それを分かってくれてるんだから、顔を近づけるのもやめたんじゃないだろうか。
もう一度エビラの顔を見る。エビラは視線を下げて、ちんこを扱く僕の手を見ている。
「エビラ」
小さな声で呼び掛けた。でも、エビラは反応しない。
「エビラ」
もう一度言った。チラリと僕を見て、すぐに目を逸らす。
「どうしたの?」
なんだかいつもと違う。そりゃあ、僕等はキスはしない。お互いそれは分かってる。だけど、こんな目の逸らし方、今まではしなかった・・・と思う。
エビラは何も言わなかった。

エビラがイった後、僕の手に付いたエビラの精液を舐めさせる。そして、僕はエビラに尋ねた。
「なにかあったの?」
エビラは俯いた。そのまま僕の手を舐め続ける。
「ちゃんと言って」
チラリと僕を見た。
「キスされた」
そう聞こえた。

「はあ?」
「キスされた」
もう一度、エビラは繰り返した。
「だ、誰に?」
エビラは何も言わない。
「そういう相手、いるの?」
頭を左右に振った。

エビラがキスをした。別に僕には関係のないこと、その筈だ。その筈なのに、なぜか僕はすごくどきどきしている。動揺してる。誰と、いつ、なんでしたのか。その人とはどういう関係で、その人のことをどう思っているのか。聞きたいことが山ほど浮かんでくる。
でも、そういうことを全て押しのけて、口から出たのはこの質問だった。
「その人のこと、好きなの?」
またエビラは頭を左右に振った。
「どういうことなんだよ、ちゃんと説明してよ」
少し声を荒げてしまった。僕はゲイじゃないのに、エビラとはそういう関係にはならないのに。
「1年の中原。知ってるでしょ?」
1年の中原・・・全く覚えがない。そもそも同じクラスの友達すら少ない僕に、1年の知り合いなんていない。
「誰、そいつ」
反射的にそう聞き返して、さらに質問を追加した。
「1年にされたの? したんじゃなくて」
まず、エビラは頷いた。そして言った。
「あの、テニスクラブで話し掛けてきた後輩」
スポーツ施設のテニスコート、その脇のフェンスのところでエビラに話し掛けてきたあいつを思い出した。あの、エビラと仲良さそうに話していた後輩君を。
「あ、あいつか」
確かに、あいつはこの4月から僕等と同じ中学に入学してきた。当然、テニス部だろう。エビラと同じテニス部。
「じゃあ、部活でそういう・・・」
「違う。階段で、急に」
今ひとつ状況が理解出来ない。
「階段で呼び止められて、振り向いたら中原がすぐ目の前にいて」
なんとなく想像する。あの時みたいにエビラ先輩って呼び掛ける後輩君。立ち止まるエビラ。階段を駆け上がって、顔がエビラと同じ位置になるように、一段上に立つ後輩君。
「そしたら急に壁に押し付けられるみたいな感じで」
その顔が迫ってくる。逃げようとするエビラ。背中が壁に当たる。そのまま後輩君が壁ドンする。そして・・・
「壁ドンかよ」
それは僕の想像の中の出来事だ。
「今時それはされてない。ただ、気が付いたら顔押し付けられてた」
まあ、僕みたいなそういう機会のない陰キャラは、壁ドンが古いのかどうかも知らない訳で。
「それで、キスされたの?」
エビラは頷いた。
「事故みたいなもん?」
たまたま振り返った時に口と口が当たっちゃった、みたいなことを想像した。でも、エビラは頭を左右に振った。僕は少しの間、何も言えなかった。
「で、どうしたの?」
「びっくりしてる間に、あいつは走ってった」
つまり、突然されて、逃げられたって訳だ。
「今日?」
「昨日」
エビラが後輩君にキスされたことに、僕は丸1日気が付かなかったんだ。まあ、僕とエビラはそういう関係じゃないけど。
「けど・・・」
気が立っている。間違いなく、僕の気持ちが波立っている。なんでか分からない。分からないけどくやしい。分からないけど腹立たしい。
「けど?」
エビラが僕を見て聞き返した。
「なんでもない」
僕はぶっきらぼうに答えた。
「ほら」
服をかき集めて手渡した。
「うん」
なんとなく、エビラは気まずそうだ。
「別に、エビラがそいつとキスしたからって僕には関係ない」
僕は言った。
「そいつと付き合えばいいんじゃない?」
服を着終えたエビラが僕の顔を見た。僕の両肩に手を置いた。
「何回も言わせるな。僕が好きなのは、ななちゃんだけだから」
そして、顔を僕に寄せてきた。僕は顔を背けた。
「早く帰れば?」
エビラは何も言わずに僕に背を向け、帰って行った。

なんだろう、この気持ち。くやしいような、腹立たしいような、ぐちゃぐちゃした気持ち。僕とエビラはそういう関係じゃない。エビラにとってはそういう関係かも知れないけど、僕は違う。ただの、特別な友達。そう、特別な。
でも、何か大切なものを壊されたような気持ち。なんだろう、大切なものって。エビラがキスされた。つまり、僕にとって、エビラは大切なもので、キスされたのが壊されたってことだろうか。
「違うって」
頭を左右に振る。手を見る。さっき、エビラのを握っていた手、エビラの精液が付いていた手。その手を、その指を舐めてみる。エビラがさっき舐めた手を、エビラが舐めていた指を。
舐めながら、左手をズボンに突っ込む。硬くなっていたちんこを握る。手を上下に動かす。
(エビラ・・・)
なんで興奮してるんだろう、友達なのに。
(キスなんかしやがって)
なんで怒ってるんだろう、ただの友達なのに。
(あんな奴と)
あの後輩君の顔が目に浮かぶ。エビラとキスをしているのが目に浮かぶ。
「くそっ」
僕は起き上がって、ズボンとボクブリをずり下げた。ちんこを扱く。エビラにしたように扱く。エビラのちんこを思い出す。
「くっ」
射精する。手に精液がまとわり付く。エビラに舐めさせたように、それを舐める。変な味。
(精液って、こんな味なんだ)
これをエビラに舐めさせたいと思う。僕の精液を、エビラに。
(エビラは・・・・・僕のだ)
そういう気持ちがあることは分かっていた。だけど、僕はゲイじゃないからその気持ちをずっと無視してきた。でも、エビラのちんこを握れるのは、扱けるのは、エビラの射精を感じられるのは嬉しかった。興奮した。だから、エビラを扱いてる最中、ずっと僕も勃ってた。初めからそうだった。初めから、分かっていた。

夜、エビラにLINEした。
『今度、その後輩も連れて来て』
すぐに返事が来た。
『なにするの?』
『そいつの目の前で扱いてあげる』
『やだよ』
『言うこと聞いてくれたら、キスしてもいいよ』
『ホントに?』
『そいつの目の前で、エビラ扱いてキスする』
返事は来なかった。でも、たぶん拒否はしないだろう。
僕等の関係が変わる予感がした。それが僕等の運命にどんな影響を与えるのかについては全く理解していなかった。



僕の家にエビラが来た。あの後輩君と一緒に。
「あ、えっと、テニスクラブの時に、一度」
後輩君は僕を覚えていた。
「同じクラスの七瀬陸斗、ななちゃんだよ」
「ななせ・・・先輩」
僕は黙って手を差し出した。後輩君がその手を握る。
「じゃ、七瀬先輩・・・ってちょっと言いにくいから、なな先輩でいいですか?」
僕は頷く。
「えっと、中原誠也です。エビラ先輩のテニスクラブの1年後輩です」
「うん、知ってる」
二人を僕の部屋に招き入れた。
「お邪魔します」
後輩君が、エビラの後に付いて僕の部屋に入る。
「えっと・・・僕、なんで呼ばれたんですか?」
後輩君が尋ねた。それはエビラに尋ねたのかも知れない。でも、なんとなく僕に聞いているような気がした。
「中原君、エビラのこと、好きなんだよね?」
後輩君は、それだけで察しが付いたようだ。
「あ・・・ひょっとして」
エビラの顔と僕の顔を交互に見る。
「二人は付き合ってるとか・・・ですか?」
僕はエビラの顔を見た。
(エビラ、どう答える?)
後輩君の問いに対する答えをエビラに任せる。
「付き合ってるというか・・・」
エビラが僕の顔を見た。でも、僕は何も言わない。
「僕は、ななちゃんが世界で一番好き」
嘘は吐かなかった。



「座って」
机の前の椅子を指差した。エビラが連れてきた後輩君は、なんの疑いもなくそこに座る。
「じゃ、エビラ」
エビラがベッドに座った僕の膝の上に座る。
「先輩、なにするんですか?」
この後輩君にはなんの説明もしていない。ただ、エビラと一緒に僕の家に来ただけで、これから何が始まるのか全く理解していない。
「エビラ、いつものように」
エビラは少し腰を持ち上げて、後輩君の目の前でズボンを降ろした。
「なんで脱ぐんですか?」
後輩君が尋ねる。
「すぐに分かるよ」
僕はそう言って、エビラを促した。
「ほら、いつもみたいに、早く」
エビラは手を動かし掛けたけど、すぐにやめてしまう。
「どうしたの?」
後ろからエビラに尋ねた。
「恥ずかしい」
小さな声で言った。そりゃそうだろう。エビラのことが好きな後輩の前で、これからちんこを扱かれるところを見られるんだから。
「今更恥ずかしいの?」
エビラがこくっと頷く。
「分かった。じゃあ、今日は履いたままでいいよ」
僕は、エビラのボクブリの中に手を入れた。

「なに・・・してるんですか」
後輩君が小さな声で言った。エビラのボクブリの中で、僕の手が動いているのが分かる。そして、僕等くらいの年齢の男子なら、誰でもそれがどういう動きなのかすぐに分かる筈だ。
「分かってるくせに」
僕はそう答えた。エビラは俯いている。自分のボクブリの上から、僕の手の動きを見ているんだろうか。それとも・・・僕はエビラの横顔を覗き込んだ。目を閉じている。いや、少しだけ開いている。そこを見ている。そこだけを見ている。
「気持ちいい?」
エビラは頷く。
「エビラのちんこ、凄く硬くなってる」
エビラがふぅっと溜め息を吐く。扱き続ける。ボクブリの中の手の動きがはっきりと分かるように、大きく扱く。
「エビラ先輩・・・先輩の、見たいです」
後輩君が言った。床を足で蹴って、座っている椅子ごと僕等に近づいて来る。
「嫌だ、見せない」
エビラが言った。
「中原君には見られたくないってさ」
僕が言う。言いながら、ボクブリの中で、エビラのちんこの先を親指の腹で撫でる。
「ああっ」
エビラが喘ぐ。エビラの体が小さく震える。後輩君の目が少し見開かれる。少し僕等に近づく。
「近づくな」
エビラが少し低い声で言った。
「もっと近くで見せてください」
「嫌だ」
(この二人、仲良かったんじゃなかったっけ?)
今の二人は全然そうは見えない。
「じゃ、じゃあ、僕も脱ぎますから」
後輩君はエビラが何も言わないうちにズボンとボクブリを脱ぎ捨てた。後輩君のちんこは勃起している。
「だからエビラ先輩も」
「見せない」
少し後輩君が可哀相になってきた。
「ほら、エビラもいつもみたいに全部脱ぎなよ」
すると、エビラが立ち上がった。立ち上がって、上半身裸になる。そのまま僕の膝の上に座る。つまり、ボクブリだけになったけど、そのボクブリは履いたままだ。
僕はエビラのボクブリに手を入れる。そしてちんこを握ってボクブリからそれを引っ張り出そうとした。でも、エビラの手が僕を止める。
「嫌だ」
「中原君は見せてるよ」
「嫌だ」
少し大きな声だった。後輩君を見た。後輩君は少し口を開いたまま、ちんこを扱いている。
「じゃ、このままイく?」
エビラは頷く。
「パンツの中で?」
また頷く。
「分かった」
僕は少しだけ手を持ち上げた。僕にはエビラのパンツとお腹の間の隙間から、エビラのちんこの先っちょが少し見えている。でも、後輩君には見えない筈だ。そのまま扱き続ける、エビラのちんこからくちゅくちゅと音がし始める。
「聞こえる? この音」
後輩君を見た。後輩君が頷く。
「聞こえるっす。エビラ先輩エロいっす」
少し口調が変わった。たぶん、普段の部活ならこんな口調なんだろう。
「興奮するっす」
後輩君のペニスからもくちゅくちゅと音がする。同じような音を立てながら、僕はエビラのちんこを扱き、後輩君は自分でちんこを扱いている。
「イきそう」
エビラがつぶやいた。
「いいよ、エビラ。イって」
僕がそれを言い終わる前に、エビラのちんこが脈打った。精液が、半分はボクブリの中に、残りの半分はボクブリと体の間の隙間から、エビラのお腹に飛び散った。
「すげ・・・先輩の、精液」
後輩君がつぶやく。そんな後輩君に向かって、僕はさっきまでエビラを握っていた右手を差し出した。
「ほら、いっぱい出た」
後輩君が僕の手を見る。その手をエビラの口に近づける。
「ほら、いつもみたいに舐めて」
エビラが僕の手を舐める。指を口に入れて舐める。音を立てて自分の精液を啜る。後輩君はそれを見ている。
「あ、僕も、イくっす」
「部屋汚すなよ」
エビラが言った。後輩君はとっさに自分の精液を左手で受ける。
「あぁ」
手のひらの上に精液が溜まる。
「あ、あの、ティッシュは」
僕が机の隅に置いてあるティッシュを指差そうとしたとき、エビラが言った。
「舐めればいいだろ」
一瞬後輩君がエビラの顔を見た。そして僕の顔を。その手を自分の顔に近づけて、舐め始めた。
僕の前でエビラが少し荒い息をしている。僕はそんなエビラを見た。エビラも僕を見た。
「ななちゃん」
エビラが小さな声を出す。
「エビラ」
僕も声を出した。目の隅で、後輩君が僕等を見ているのを確認する。それを確認して、僕はエビラの唇に唇を押し付けた。
(約束だもんな)
僕は自分に言い訳をした。


      


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