えびら


初めてのキス。相手は男。友達。親友。
唇の感触。鼻息。鼓動。そして、体温。
エビラが軽く僕の体を押した。僕は少し体を離した。
目の前にエビラの顔。その目が僕をまっすぐ見ている。少し潤んでいるような気がする。もう一度キスしたかった。もう一度顔を近づけようとした。
その時、急にスマホから大きな音がした。
「え、なに」
ベッドの上の僕のスマホを見る。緊急地震速報だ。同じように後輩君の方からも音がして、後輩君もスマホを見ている。
揺れに備えて僕等3人は身構えた。
少しだけ部屋が揺れた。
「地震だ」
大した揺れじゃない。でも、僕等3人にとって、興奮が冷めるには十分だった。
「あの」
後輩君が椅子から立ち上がって僕等を見ていた。下半身は脱いだまま、ちんこも勃起したままだ。
「なんて言うか、昨日は、知らなかったし・・・ごめんなさい」
立って、僕等に頭を下げた。そのまま下げ続ける。
その時、また少し部屋が揺れた。
「余震かな」
僕は言った。後輩君が僕を見ている。無意識にエビラを抱き締めていたことに気が付いた。
「僕とエビラはこんな感じ」
それをなんて表現するのが正しいんだろうか、少し考えた。いい言葉が思い付かない。
「まあ、付き合ってるって感じかな」
エビラの顔を見た。エビラは顔を伏せている。
「だからさ、エビラにそういうこと、もうしないでくれるかな」
エビラが僕の背中に手を回した。
「でも、僕も、エビラ先輩のことが好きです。それは分かってて欲しいです」
また後輩君の口調が変わっていた。つまり、真剣にそう言ってるってことなんだろう。
「僕はななちゃんだけが好きだから」
僕のお腹に顔を押し付けたまま、エビラが言った。
「僕は・・・僕には、そ、その・・・」
後輩君が何かを言い掛けて、口を噤む。椅子にどさっと座ってうなだれた。
「分かりました。帰ります」
また立ち上がってボクブリとズボンを履くと、僕の部屋から出て行った。
「あっ」
僕は後輩君の方に少し手を伸ばした。でも、エビラに抱き付かれたままの僕は、彼を追いかけることは出来なかった。いや、彼を追いかけなかった。

「エビラ」
エビラの背中に手を添える。
「なな・・・ちゃん」
ようやくエビラが顔を上げた。
「な、どうしたの」
エビラの目からぼろぼろ涙が溢れていた。
「そんなに嬉しかったんだ」
またエビラが僕に抱き付く。
「当ったり前だろ」
「そっか」
エビラの頭を撫でる。あのエビラが、僕に抱き付いて、キスされて嬉しくて泣いている。
「まさか、ほんとにななちゃんにキスしてもらえるなんて、思ってなかった」
「それって、僕のこと嘘つきだって思ってたってこと?」
「うん、ごめん」
たかがキス。でも、やっぱりキス。
「エビラ」
エビラの顔を持ち上げる。頬に手を添える。そのまま顔を近づける。唇を近づける。
「ななちゃん」
唇が重なる。エビラと僕の、唇が。

「少し、あいつのお陰かな」
僕が言うと、エビラが体を起こした。
「あいつがエビラにキスしたお陰」
「なにがだよ」
昨日の夜に考えたことを話した。
「エビラからそれを聞いて、何か大切なものを壊されたみたいな、嫌な気分だった。でも、よく考えたら、大切なものっていうのはエビラで、キスをされたことで、エビラを壊されたみたいに思った」
心の内を正直に話す。
「それって」
「まぁ、始めから分かってたんだけどね、本当は」
ベッドに仰向けになる。
「男とか女とか関係ないってさ」
僕の横にエビラも仰向けになった。
「そりゃあ、僕にだって気になる女子はいるよ」
「岡本さんでしょ?」
僕は体を起こした。
「なんで知ってるの?」
「みんなそう言ってる。みんなそう思ってるよ」
「マジか」
エビラが少し笑った。
「ん、まぁ、そうなんだけどね。でも、例えば・・・」
考えた。
「もし・・・もしも、だよ。岡本さんに告って、エビラと付き合ってるからって断られたら、たぶん諦められると思う」
「付き合ってないよ」
「だから、もしも、だよ」
またベッドに寝る。
「でもさ・・・エビラに告って、岡本さんと付き合ってるからって断られたら・・・」
「断られたら?」
「たぶん、諦められないと思う」
少しの間、二人とも口を噤む。
「ちょっと何言ってるのか分かんない」
エビラが言った。
「僕だって分かんないよ。でも、エビラのことは諦められないってことだよ」
「それって・・・」
また体を起こす。エビラの顔を上から見下ろす。
「つまり・・・」
言い掛けたエビラの口を、口で塞いだ。エビラの手が、僕の股間に触れた。
僕はその手をやんわりと払った。
「触るのは駄目なんだ」
「今はね」
そう言いながら、ボクブリの上からエビラのちんこを握った。
「うわっ」
そこは湿っていてヌルヌルしていた。
「さっきパンツん中で出したじゃん」
思わず手の匂いを嗅いだ。
「うわぁ、あの匂い」
「当たり前だろ」
なんとなくボクブリにシミのようなものも拡がってる。
「どうすんの、これ」
「どうするって・・・」
お互い顔を見合わせた。
「とりあえず脱げよ」
そして、僕は洗面所に行って、濡らしたタオルを絞って持ってくる。
「はい、これで拭いて」
エビラは脱いだボクブリのゴムの所を指で摘んでぶら下げている。
「これ、どうする?」
僕を見た。
「持って帰れよ」
机の引き出しからコンビニの袋を取り出し、手渡す。エビラは精液まみれのボクブリをその中に入れて、タオルで股間を拭き始めた。
僕はチェストから自分のボクブリを取り出す。そんな僕をエビラが見ている。
「代わりにこれ」
エビラに差し出した。
「ななちゃんのパンツ、くれるの?」
「貸すだけだよ」
すると、エビラがニマッと笑った。
「今履いてるパンツがいいな」
「変態かよ。いいからさっさと履け」
エビラは僕のボクブリの、股間の部分を鼻に押し当てた。
「ななちゃんの匂い・・・エロい」
「するわけないだろ、洗ってあるんだから」
それでもエビラのちんこが硬くなっている。
「ななちゃん・・・扱いて」
「ったく、この変態が」
そう言いながら、僕は硬くなっているエビラのちんこに手を伸ばした。

「イく」
小さくエビラが言った。ちんこをそのまま扱き続けると、仰向けになったエビラのお腹の上に精液が飛び散った。
「あ、ヤバ」
エビラが脇腹を押さえる。
「布団に垂れちゃう」
僕がティッシュを渡すと、その部分を拭う。反対側の脇腹も同じようにする。
僕はエビラの顔を見た。そして、自分の手を見る。エビラの精液が付いている。またエビラの顔を見る。僕を見ている。エビラが口を開く。
でも、僕はその手を自分の顔の前に掲げた。
「エビラの精液」
それをよく見てつぶやく。エビラは口を開けて待っている。それをチラリと見て、自分の手を舐める。
「えっ」
エビラが声を出した。口の中にあの変な味が広がる。少し手を離して、精液が付いているところを見てまた舐める。それを数回繰り返す。
「ななちゃん、無理しなくてもいいよ」
半分くらい舐めたところでエビラが言った。
「エビラは無理して舐めてたの?」
「そうじゃないけど・・・変な味だし」
「うん、知ってる」
手に付いていた残りの精液を舐め尽くす。エビラの体を見る。お腹の上にはまだ精液が付いている。僕は、エビラのお腹に顔を近づけた。
「ななちゃん、まさか」
僕はまず、エビラのお臍に溜まっている精液をすすり上げた。
「あ、ちょっと」
体を起こそうとするエビラを押さえる。
「動かないで」
そのまま舌を出して、お臍の周りを舐める。他にもまだ精液が付いている。それも舐める。
「ああ・・・」
エビラが体を捩る。
「動かないでって」
「くすぐったいよ」
胸の方まで飛んでいる。そこも舐める。舐め取って、エビラの顔を見る。
「同じ味」
「同じ味って?」
エビラが僕を見て言った。
「僕のも舐めてみた。同じ味だった」
エビラがガバッと体を起こした。
「ななちゃんの精液、舐めさせてよ」
僕の股間に手を伸ばす。
「今はまだダメ」
まだ覚悟が出来ていない。僕も本当はエビラが好きなんだってことはやっと認めることが出来た。けど、本気でエビラを好きって言える覚悟がまだ出来ていない。その証拠に、まだ「好き」って言えないでいる。
「いつになったらいいんだよ」
「エビラが、特別な友達から、その・・・」
ちょっと言いよどんだ。
「僕にとっても、世界で一番好きな人ってちゃんと言えるようになったら」
ちょっと身構えた。エビラなら「なら今言わせてやる」とか言って、無理矢理ちんこを握ってくると思ったから。
「分かった。待ってる」
でも、エビラはそれだけ言って、僕を見つめた。
「うん」
それ以上は何も言わなかった。言わない代わりに、またエビラの唇に唇を押し付けた。

「あいつ、大丈夫かな」
少し長いキスの後、僕は言った。
「中原? もうなにもしないと思うけど」
「そうじゃなくてさ、好きな相手が他の人とキスしてたりするのを見せられてさ」
「それを見せたのは、ななちゃんじゃん」
「そうだけど・・・」
エビラも体を起こした。
「まぁ、なんかあったらちゃんと言うよ」
「うん」
エビラが僕の太ももに頭を乗せて、腕を腰に回した。
「膝の上に座ってされるのと、ベッドでされるの、どっちがいい?」
「ななちゃんがしてくれるなら、どっちでも」
そう言いながら、エビラが僕の股間に顔を押し付けた。そのまま大きく息を吸う。
「嗅ぐな」
エビラのお尻を叩く。すると、エビラはお尻をくねくねと動かす。
「尻動かすな」
「もっと叩いて」
「どMかよ」
お尻を叩く。エビラが笑う。
(やっぱり、エビラは誰にも渡したくない)
また部屋が少し揺れた。



「はぁ、はぁ、はぁ」
お父さんの胸に手を突いて、体を上下に揺らす。その部分に腰を下ろして体を少し後ろに反らす。
「あぁ」
奥まで入ってくるのを感じる。そのままお父さんが腰を突き上げる。
「気持ち、いい」
お父さんが奧まで入っているのを感じる。僕の体が拡げられているのを感じる。ぐちゅぐちゅと音がする。お父さんに突き上げられてパンパンという音もする。僕の勃起したペニスが揺れている。
「ああ」
体を倒してお父さんの乳首に吸い付く。舌でペロペロと舐める。いったん顔を上げて刺青に沿って唇を這わせる。そんな僕の体をお父さんが抱え上げる。
「好きだろ、これ」
駅弁スタイルで体を揺さぶられる。更に奥まで入ってくる。奥まで貫かれてかき回される。
「ああ、イきそう」
しばらく揺さぶられて僕は思わず口走る。いつものようにベッドに体を下ろされる。
「まだイくなよ」
足を持ち上げられ、膝の裏側に手を当てて、膝を胸に押し付けられる。僕の開いたアナルが天井を向く。その状態でお父さんが僕を上から貫く。僕のアナルに体重が掛かる。僕の体が拡がっていく。
「ああっ」
体がお父さんで満たされる。僕の内側にお父さんが擦り付けてくる。
「お、お父さん」
イきそうになる。
「まだだ」
僕の気持ちがお父さんに伝わる。そして、僕の中からお父さんが引き抜かれる。


四つん這いになった僕にお父さんが腰を打ち付ける。パンパンという音が、ベッドルームに響く。その音に僕の喘ぎ声が混じる。気持ちいい。
「ほら、こっち向け」
お父さんに言われて体の向きを変える。お父さんのペニスにしゃぶりつく。さっき僕のお尻に腰を打ち付けられたのと同じように、僕の顔に腰が打ち付けられる。僕の喉にお父さんが押し込まれる。喉を開く。喉の奥にお父さんが入ってくる。そのまま突かれる。喉奧を突かれる。息が出来なくなる。口と喉がお父さんで一杯になる。息が出来ない。死ぬ。引き抜かれる。
「ぐほっ」
咳き込んだ。口を開いて空気を吸い込もうとする。けど、お父さんはその隙も与えずにまたペニスを突っ込んでくる。さっきよりも奧に入ってくる。さっきよりも長く押し付けられる。
「げほっ」
お父さんを咥えたまま餌付く。それに合わせてさらに押し込まれる。お父さんの腰を両手で叩く。お父さんが腰を引く。
「うごっ」
声にならない声を出す。でも、それも一瞬だけだ。次の瞬間には、お父さんに喉を塞がれる。
そのまま突かれる。打ち付けられる。意識が遠のく。
ぐったりした僕のお尻に回ってアナルに入れられる。腰を引き付けられて奧まで入ってくる。そのまま体を揺さぶられ、玉を強く握られる。
「うがぁぁ」
口が開いて苦痛の声が出る。すると、その口にまた突っ込まれる。
「うごっ」
苦痛と快感。気持ち良さと死の狭間で意識が朦朧となってふわふわと漂い始める。そんな僕を押さえ付けて入れてくる。口、お尻、口、お尻、口・・・・・
体中がお父さんの性処理道具になる。何をされても気持ち良くなる。僕はお父さんの性処理人形。それが僕だ。それがお父さんの愛人だ。

「なにがあった?」
散々使われ、ぐったりとベッドに横になっている僕に、お父さんが尋ねた。
「別に」
僕は口の周りに付いたお父さんの精液を腕で拭いながら、ぼそっと答えた。
「久しぶりに連絡してきたかと思えば、抱いてほしいって・・・なんにもない訳ないだろ」
「うん・・・・・」
僕はお父さんの不動明王を指でなぞりながら、ゆっくりと話し始めた。

「お前は堅気の、普通の世界に戻ったもんだと思ってたがな」
僕の話を聞いて、お父さんが言った。
「お前の言ってることは分かった。お前の望みも分かった。だが、本当にいいのか?」
僕は何も言わない。ただ、頷いた。
「本気か?」
また頷く。
「もう、普通の生活には戻れなくなる。分かってるか?」
また頷く。お父さんは少し考えているようだ。
「ちょっと待ってろ」
スマホを持って、ベッドルームから出て行った。

「使えそうな話がある」
ベッドルームに戻ってきたお父さんが言った。
「ただし、そういう事は組の掟に反するからな。別の奴等の話に乗ることになる」
僕はお父さんの顔を見る。
「つまり、うちの組は関与しないし、途中でやめるなんてことは出来ないってことだ」
僕はうなずいた。
「いいんだな?」
もう一度うなずいた。
「そうか」
お父さんが言う。
「少し残念だな」
お父さんの背中にしがみついた。

「今でも刺青入れたいと思ってるのか?」
「うん」
小さな声で答える。
「分かった」
またスマホでどこかに連絡する。
「小さいもので良ければ今から彫ってもらえるそうだ」
スマホから顔を離して言った。
「うん、それでいいよ」
また、スマホに向かって話す。
「ここに来てくれる」
通話を終えて、僕に言う。
「肩か腕に、1日で出来る小さなものになる」
「うん。不動明王がいい」
頭をお父さんの背中に押し付けて、声を絞り出した。
「頼んでみるさ」
お父さんの話では、そういう道では名の知れた彫師が来てくれるらしい。もちろん、お父さんの不動明王もその人が彫ったそうだ。
「お金は?」
「そうだな・・・無理を聞いてもらうから、50万か100万か・・・ま、金のことは気にするな。今までのお礼のようなものだ」
それってつまり・・・・・

そういうことだ。



やさしいおじいちゃん、という感じの人だった。もう一人、少し若い人が大きなカバンを持って一緒に来ていた。
「いいのか?」
僕を見て、お父さんに尋ねた。
「ああ、頼んます」
お父さんが彫師に頭を下げた。
「訳ありみたいだな」
僕は、上半身裸になってその人の前に座る。
「不動明王がいいそうだ」
「あんたと同じやつかい?」
その質問には僕が答えた。
「はい」
「かなり痛むが大丈夫か?」
彫師がお父さんに尋ねる。
「まあ、やれるところまでやってやってくれ」
若い方の人が、床に道具を並べる。
「こいつは俺の一番弟子だが、こいつにやらせてやってくれないか?」
彫師が言った。
「すまんが、あんたに頼みたい」
彫師はお父さんと僕の顔を見る。
「そうか。訳ありだったな」
そして、僕の腕を掴んだ。

痛かった。涙が出て来る。
「ここまでにするか?」
何度もそう聞かれた。その度に僕は頭を左右に振る。
「大人でも音を上げるのに、我慢強い子だ」
数時間後、ようやくそれは出来上がった。

「かなり無理をしたから、今日はあんたが様子を見てやってくれ」
彫師がお父さんに言った。
「熱が出るだろうから、冷やしてやることも忘れるなよ」
「分かってる」
お父さんが彫師を見送った後、ベッドで横向きに寝ている僕の近くに座った。
「立てるか?」
僕は頷く。お父さんは僕を洗面所に連れて行き、そこで上半身裸になる。
「ほら」
僕の左肩を鏡に映す。お父さんも背中を映した。大きさは全然違うけど、同じ不動明王がそこにいた。
「同じだ」
「全くな。気を利かせてくれたらしい」
涙が出て来る。
「泣くな」
ベッドに戻る。
「良く頑張ったな」
その日はずっと、お父さんがそばにいてくれた。


      


index