えびら


「僕等はみんな、騙されたんだよ」
後輩君がそう言った。正直に言えば、僕も少し疑問を感じてはいた。だって、エビラはテニスが上手いといっても県でトップレベルってだけで、全国ではトップって訳じゃない。強化選手なんていったら、たぶんオリンピックだとかそういうのに出る人なんだろうから、エビラには悪いけど、そこまでじゃない気がする。そういう強化選手向けの施設の宣伝みたいなものだったとしても、僕等に宣伝する意味が分からない。
でも、それは今にして思えば、だ。この何もない倉庫に連れて来られるまでは、騙されているとは思っていなかった。手錠を掛けられても、少し信じてはいた。
だって、エビラとのお泊まりデートなんだから。

「騙されたとは聞き捨てならんな」
声がした。男の人が倉庫に入ってきた。さっきの人とは別の人だ。
「なぁ、神明会、大滝組長の愛人、中原侑聖君」
その人が、後輩君に向かって言った。
「いや、元愛人か」
何を言っているのか分からなかった。神明会だとか、組長だとか愛人だとか。
「な、なんの話だよ」
後輩君が男に言う。
「おや、心当たりがないとでも言うのか」
男が後輩君の前に立った。そして、後輩君が着ていた服を引っ張った。
「やめっ」
隣で大きな音がした。僕は右側を見る。後輩君が椅子に座ったまま床に倒れている。上半身の服が剥ぎ取られ、その肩に・・・
「刺青・・・」
思わずつぶやいた。エビラも体を捻って後輩君を見ていた。
「その刺青も、彫ってもらったんだろ?」
男が後輩君の腕を掴んで体を起こす。
「名人に彫ってもらったそうじゃないか」
刺青に顔を寄せた。
「流石にきれいに出来ている」
「中原、それ・・・」
エビラが声を上げた。僕も声を上げそうになる。僕の部屋で、三人でいたあの時、あの時にはこんな刺青はなかった。
「知らなかったろ、こいつはヤクザの組長の愛人だったんだ。な、そうだろ?」
男が後輩君を椅子ごと抱え上げ、僕とエビラの正面に下ろす。僕等三人は向き合った。
「今日のこれだって、お前が企んだんだろ?」
男が後輩君の手錠を外した。
「つまり、お前はこっち側ってことだ」
足も自由にする。
「ほんと・・・なのか?」
エビラが声を出す。後輩君はうつむいて動かない。
「どうなんだ、え?」
男が後輩君の髪の毛を掴んで、顔を上げさせる。
「なんなら、大滝組長に聞いてみるか?」
男がスマホを取り出した。
「そう・・・だよ」
後輩君が言った。
「僕が・・・」
「嘘だろ」
エビラが大きな声を出した。
「なんでお前がこんなこと・・・する筈ないだろ」
後輩君がうつむいた。少しして、顔を上げた。表情が変わっていた。
「僕だよ。僕が、エビラ先輩となな先輩を誘拐してって頼んだんだよ」
後輩君が怒鳴るように言った。
「エビラ先輩が悪いんだよ。そして、お前も」
後輩君が目を見開き、僕を睨み付けた。
「エビラ先輩が僕を好きになってくれないから、エビラ先輩が好きなのがこんな奴だから悪いんだ」
後輩君が立ち上がった。僕の前に立ち、左右の拳を組んで、それを頭の上に振り上げた。僕の頭にそれが振り下ろされる。
「うぐっ」
「やめろっ」
髪の毛が引っ張られる。顔を上げると頬を殴られた。
「おいおい、痴話喧嘩は他所でやってくれ」
男が後輩君の手を掴む。
「売り物に傷を付けられると困るんだがなぁ」
後輩君を椅子に座らせる。僕は顔を上げた。口の中で血の味がする。
「売り物って、なんだよ」
エビラが言った。
「お前等は、これから売られるんだよ。人身売買ってやつだ」
男が僕とエビラの前に立って言った。後輩君の方を振り返る。
「もちろん、お前もだ」
後輩君は動かない。
「そんなこと、出来る訳」
ここは日本だ。日本でそんな人身売買なんて、聞いたことがない。僕は男に向かって言った。
「出来るんだよ。いくらでもやり方はある。そして、実際に売られてるんだよ、お前等のようなガキが、性奴隷としていい値段でな」
男がさらに何人か、倉庫の中に入ってきた。僕の前では男が話し続けている。
「お前のような奴でもな、使いたいって客はいくらでもいる」
横にずれて、エビラの前に立った。
「お前は特に、いい値が付きそうだ」
そんな男に、別の男が何かを手渡した。
「海老原楓真、将来有望なテニスプレーヤーらしいな」
その何かを僕等に見せる。エビラが写真入りで紹介された記事が載っている雑誌だった。
「そういう付加価値のある者は、高く売れるからな」
後輩君の方を向く。
「お前は大滝組長の玩具だった訳だ。そういう奴はそういう奴なりの売り方がある」
少し離れた。違う男が三人、後輩君を取り囲む。
「じゃあ、まずはお前からだ」
三人の男が後輩君に近寄った。



「うぐっ」
後輩君の口に男のちんこが押し込まれている。そんな後輩君のお尻の穴を別の男が掘っている。後輩君の体は二人の男に抱きかかえられ、宙に浮いている。もう一人の男がそんな後輩君の体の下に潜り込み、ちんこをしゃぶっている。
「んん」
後輩君の喉から声が漏れる。後輩君の肩の刺青が揺れている。別の男達が彼等に近づく。後輩君の口とお尻を犯している男が、別の男と入れ代わる。その男達は同じように後輩君を前と後ろから犯す。さっきの男よりも大きなちんこで後輩君を犯している。
「ああっ」
でも、後輩君はそれを受け入れている。痛がっているようには見えなかった。

アナルセックス。いつか、僕もエビラとそれをするときが来るかも、とは思っていた。だから、ネットで男同士のセックスの動画を見てどんな感じかは知っていた。初めての時は痛いらしいということも知っている。でも、後輩君は痛そうには見えない。ということは、もう経験しているということだろう。さっきの男が言っていたことを思い出す。組長の玩具だったって。それって、組長という人とセックスしていた、ということだろうか。
「ん、あぁ」
後輩君の口を犯していた男が彼の口からちんこを引き抜いた。そのとたん、後輩君は声を漏らした。
「ああ・・・」
その声は僕にも分かる。痛いとか辛いって声じゃない。気持ちいい時の声。
(組長って人と、セックスしてたんだ)
そう確信した。それと同時に、何かが体の奥で震えた。

「お前らはどういう関係だ?」
男が僕等に尋ねた。
「あいつに陥れられる位だから、よっぽど酷いことをしたんだろうな」
男達に犯されている後輩君を顎で指した。
「僕等は、ただ・・・」
エビラが言い掛けて、口を噤んだ。
「どういうことをしていたんだ?」
エビラの前に男が立った。でも、エビラは口を開かない。
「扱かれてた」
喘ぎ声の合間に、後輩君が言った。
「どんなふうに」
男が追加で質問をする。
「エビラ先輩がそいつの膝の上に座って」
僕等を見て言った
「それだけか?」
後輩君がうなずいた。
「たった、それだけか」
「そうだよ。それだけだよ」
男に犯されながら後輩君が答える。すると、男が僕等を見て肩をすくめた。
「おいおい、それで恨まれて売られるとはなぁ・・・」
エビラに近づいた。
「とんでもない奴に逆恨みされたもんだな」
そして、僕等に言った。
「じゃ、やって見せろ」
僕等の手錠が外された。

膝の上にエビラが座っていた。エビラは全裸、僕は下半身裸だ。
「ほら、早くやって見せろよ」
僕等の前で、後輩君も見ている。
「やれ」
男が僕に命じた。僕はゆっくり手を動かして、エビラのちんこを握った。
エビラのちんこは勃起していない。それに、いつもなら握った瞬間に声を出すんだけれど、今は何も言わない。そりゃあそうだろう。いつもは僕とエビラの二人っきり。お互い、それをやりたくてしている。だけど今は違う。今、僕等を見ているのは後輩君としている人を含めたら8人くらいいる。後輩君も見ている。ガン見している。そんな人達に見られている中で勃つ訳がない。
「勃たない」
エビラもそう言う。
「勃たせろ」
男が冷たく言う。
「勃たなかったら、お前は用済みだ」
僕に向かって言った。どういう意味かは分からない。でも、きっと殺されるとか、それに近い意味なんじゃないだろうか。
「なんでななちゃん」
言い掛けたエビラを男が遮った。
「お前には付加価値がある。こいつにもある」
振り返って後輩君を見た。そして、僕を見る。
「だが、こいつにはなんの価値もないからな。お前とする以外は」
そうだ。僕にはなんの価値もない。エビラみたいにテニスが出来る訳でもないし、後輩君みたいに誰かの愛人だった訳でもない。ただ、エビラを扱くだけ。それしか出来ない能なしだ。
エビラのふにゃっとしたちんこを揉む。なんだか、教室で揉んでいた時のことを思い出す。
「教室でしてたときみたい」
なんとなくつぶやいた。そのまま揉み続ける。すると、少しちんこが硬くなった。
「エビラ」
後ろから声を掛ける。エビラは目を閉じている。また少しちんこが硬くなる。
「エビラ」
エビラの後ろから、エビラの首筋に唇を押し付けた。
「エビラが・・・世界中でエビラだけが好き」
小さな声でささやいた。すると、エビラのちんこが硬くなった。
「ななちゃん」
エビラのちんこがいつものように勃起した。
「こんな時に言うなよ」
「こんな時だから言わせてよ。大好きだよ、エビラ」
また首筋にキスをした。たぶん、僕等の会話は他の人達には聞こえていないと思う。もっと早く言うべきだった。もっと早く言いたかった。もっと早く言えてれば・・・
「ん」
エビラが小さく喘いだ。僕は扱き続ける。
「ななちゃん、気持ちいい」
その声を聞いて、後輩君が僕等を見る。エビラの勃起したちんこを見る。後ろで扱いている僕を見る。
「僕も、気持ちいい」
僕のちんこも勃起していた。それをエビラのお尻に押し当てる。初めてエビラに直接ちんこが触れる。
「ななちゃん、当たってる」
エビラが少し前屈みになって、股間から手を入れてくる。そして、僕のちんこを握る。
「ああ、エビラ」
「ななちゃん」
でも、男が僕等に近寄って、エビラの手を掴んで僕のちんこから離す。
「見えないだろ」
そういって男が下がる。僕のちんこを握ろうとしたエビラの腕で、エビラのちんこが隠れて見えなくなっていた。価値あるエビラのちんこが隠れたら駄目なんだ。エビラの胸に手を回す。その胸を抱き締めながら、少し後ろに体を反らす。エビラのちんこの根元の方を、人差し指、中指と親指の三本で摘まむようにして持つ。そのちんこを振る。男達からは丸見えの筈だ。後輩君も見ている。みんなに見られている。
「エビラの、丸見えだよ」
耳元でそう言う。
「恥ずかしい」
小さく答える。その状態で手を動かす。エビラを扱く。しばらく扱いて手を離す。
「ああ」
エビラのちんこをのぞき見る。ビクビクと揺れている。
「もっと揺らして」
すると、お腹にくっ付きそうなくらい跳ね上がる。
「気持ちいい?」
「うん」
「もう一回」
またちんこが跳ね上がる。
「後輩君も見てるよ」
また跳ね上がる。
「握って」
エビラを握る。扱く。クチュクチュと音がする。
「いやらしい奴等だな」
誰かが言う。
「足抱えて持ち上げろ」
誰かが僕に命じる。その通りに、エビラの太ももの下に手を入れて、足を持ち上げた。
「ケツの穴、丸見えだ」
「きれいなケツ穴だな」
男が口々に言う。
「こいつも勃ってる」
僕のことだ。
(僕も、見られてる)
胸の奥が波立つ。
「ほら、もっと足広げろ」
エビラの足を開く。
「お前もだ」
僕も足を開く。見られてる。
「お前も足上げろ」
足を持ち上げる。けど、エビラの体の下で、あまり持ち上がらない。誰かが僕の前にしゃがんで僕の太ももを持ち上げた。
「こっちもピンク色だ」
僕のお尻の穴を見られている。
「ペニス、びくびく震えてやがる」
自分でも感じる。僕のちんこが僕の物じゃないみたいだ。興奮している。ちんこが揺れている。エビラと同じように揺れている。エビラも興奮しているんだろうか。エビラを持ち上げ、足を持ち上げられたまま、エビラの顔を見る。
「エビラ」
エビラが僕を見る。その口に口を押し当てる。エビラを扱く手を早める。
「ななちゃん」
キスされながらエビラが僕の名前を呼ぶ。扱く。見られながら扱く。扱きながらキスをする。みんなに見られながら、僕等はそれをやり続ける。
「あ、イく」
エビラのちんこが脈打つ。射精する。キスをしていた僕の顔にもエビラの精液が飛んでくる。
「イきやがった、この状況で」
誰かが言った。そうだ、僕等は誘拐されてきて、これから人身売買されるんだ。普通に考えたら射精しているような状況じゃない。
だけど・・・・・なんだろう、この気持ち。
やっと、ちゃんとエビラに好きって伝えられて、いつものように僕が扱くだけじゃなくて、僕のちんこもエビラの体に触れて、そして、本気で愛し合えたような気がする。
「まぁ、これくらいじゃないと、この後やってけないだろう」
そう言っているのが聞こえた。

「お前はされるだけで、なにもしないのか?」
僕の横の椅子に座ったエビラがそう尋ねられた。エビラが僕を見る。僕は微かに頷く。エビラが椅子から立ち上がって、僕の前にしゃがんだ。全裸の僕のちんこを握る。僕のちんこはエビラに握られただけで硬くなる。エビラが僕の顔を見る。僕の目を見る。僕の目を見ながら、僕のちんこを口に含んだ。
「あっ」
エビラがちんこを舐めている。フェラチオだ。
「ああ」
エビラのちんこも勃っている。そのちんこを自分で握っている。自分のちんこを扱きながら、僕をフェラチオしてくれている。
(嬉しい)
体が震えた。エビラは舌で僕のちんこを刺激してくれる。気持ちいい。
「エビラ・・・」
気持ちいい。
「イく」
小さな声で言った。そのままエビラの口の中に射精した。

気が付くと、僕とエビラを男達が取り囲んで見ていた。後輩君もその中に混じってる。みんなに見られながら、後輩君にも見られながら、エビラは僕を咥えて、僕はエビラの口に射精して、エビラは僕の精液を飲んだんだ。

こんな状況なのに。
こんな状況だから、かも知れない。


      


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