ヒーロー

3 条件

「何も起こらないとはどういうことなんだ」
口々に、緑のマットの上の全裸の僕を詰問する。
「分かりません・・・」
僕は泣いていた。僕を犯した男達は、すでにどこかに連れて行かれていた。
「もう・・・やめてください」
涙ながらに訴えた。が、男達は僕の気持ちなんて何も気に留めていない。
「同じように犯され、同じように射精したというのに、何が違うというんだ」
「おそらく、この少年の思念波がロボットの起動の鍵になっているのは確かでしょう」
古代研究所の職員らしき人が言った。
「ただ、実際に起動させ、さらに異獣と戦わせるには別の要因もあると思われます」
「ならば、その要因を突き止めろ。大至急、最優先事項だ」
一番偉い人が怒鳴るように言った。
「その少年はこの研究所に止め置き、監視対象とする。いいな」
そして、会議室から出て行った。

「何が違うというんだ」
僕は狭い部屋に閉じ込められていた。部屋の3面はコンクリートで、残りの一つの面だけはガラス張りになっている。そのガラスの向こうで、古代研究所の職員が椅子に座って僕を見ていた。僕は全裸だった。すでに、この男に犯されていた。別の男にも犯された。オナニーも命じられた。もう、僕の心と体はズタズタにされている。
「お前がロボットを起動させた時と違っているのは・・・」
男が椅子に座ったまま、くるりと背を向けた。背後にあるホワイトボードを見ているのだろう。
「相手の男、人数、行為、感じ方・・・そして、場所か」
男がホワイトボードに『場所』と書き加えた。
「他に何か思い当たることはあるか?」
部屋の中のスピーカーから男の声が聞こえた。でも、僕は反応しない。
「どうなんだ」
男の声が苛立っている。僕はすすり泣き始めた。
「もう・・・宿舎に帰らせてください」
僕は泣きながら訴えた。
「お前、自分の立場が分かってないな」
いや、僕は知っている。あのロボットが動きだして恐竜と戦い、倒したのはみんな知っていた。ネットで大々的に報道され、動画も溢れかえっていた。そして、あのロボットは軍が操ったという噂が流れた。それ以来、何度も恐竜は街を襲った。でも、あれから一度もロボットは動いていない。つまり、あのロボットを動かさない軍が批判に晒されてるということだ。そんなことは分かっていた。
それでも、ここで、何度も何度も見張られながら犯されるのにはもう耐えられなかった。僕は壊れかけていた。いや、もうほとんど壊れていた。こんな僕が宿舎に帰っても、もちろん誰も相手をしてくれないのは分かっている。それでも、みんなから何を言われようと、何をされようとここで犯され続けるよりはマシだと思う。
「甘いな」
男が言った。
「お前がここを逃げ出したら、すぐにこれまでのことを詳細に発表する用意ができている。つまり、春田健志という少年が男に犯されることでロボットが起動する、ということもな。それがどういうことか分かるか?」
僕はガラス越しに男を見つめた。
「異獣が現れるたびに、お前は男達に強姦されるようになるんだよ。ここにいればそれはまだコントロールされている。だが、ここから出たら、街中の男が、目の色を変えて次から次へとお前に襲いかかるようになるんだ」
僕の心が軋んだ。
「それもいいと言うのなら、帰らせてやる」
僕は胸を押さえてうずくまった。
「お前の宿舎、他にもお前くらいの年の少年が何人かいるよな。そいつらだって標的になるかもしれないな」
そんなことになったら・・・・・
「さて。どうする?」
ガラスの壁が上にスライドした。
「ほら、今なら出られるぞ」
僕は床にうずくまったまま、震えていた。動くことができなかった。このまま、ここで壊れていく、それしか選択肢はなかった。


僕は、なぜ、ここにいるんだろう。何のためにここにいるんだろう。この研究所の敷地に侵入したから? あの男達に犯されたから? ロボットを動かしたから?
いや、違う。僕は動かしてない。動いて欲しいとも思っていない。あの時、あの瞬間、僕はロボットのことなんかこれっぽっちも考えなかった。僕は何もしていない。早くみんながそれに気づいて、僕なんか何の役にも立たないと分かって欲しかった。
やがて、僕は自殺を考えるようになっていた。

「未だ、あのロボットが起動するような条件を見つけ出すには至っておりません」
少し小さめの会議室で何人かの軍人、そして研究所職員が会議を行っていた。あの小部屋で春田少年を監視していた男も加わっていた。
「いくつかの要件をリストアップしていますが、それらの組み合わせを全て試すには膨大な時間がかかります」
監視役の男は資料を配る。そこにはあのホワイトボードに書いてあったような、考えられる要件がいくつも列記されていた。あの少年が連れてこられた時の会議にもいた、軍の上層部の男が声を荒げた。
「こんなものはどうでもいい。とにかく、人を集めて24時間ぶっ通しであれを犯させろ」
「しかし、それではあの少年の精神が壊れてしまいます」
監視役の男が反対意見を述べた。
「構わん。起動条件さえ分かれば、後は代わりを探せばいい。条件を見つけ次第、あれと同じ13才の少年全員をその条件で犯せばいい話だ」
(乱暴すぎる)
その場にいた誰もがそう思っただろう。しかし、それで会議は終わりとなってしまった。
「人さえいれば何とかなるなら、楽な話だ」
監視役の男はそう思う。すでに彼自身も、そして彼とともに春田少年を監視している職員も少年を犯していた。が、何も起きなかった。手当たり次第男を集めても何も結果は変わらないように思えた。
(しかし、あのロボットの起動が異獣を倒す目的だったとしたら、おそらく時間や場所は関係ないだろう)
手にしていた資料のその項目を横棒で消す。
(人数・・・思念波の強さに影響するかもしれない)
その項目には丸印を付ける。
(3人で起動した実績があるから、まずは人数は3人だな)
そのように書き込む。
(後は・・・確かに考えるよりもやってみるべきか)
こうして、古代研究所に勤めている男が集められ、一人の少年に対する『起動実験』という名の陵辱が始まった。

色々な場所、時間に僕は次々と犯されるようになった。
初めは古代研究所の職員の人達だった。みんな見たことがある顔だ。もう、ここの職員の顔はみんな分かるほど長くここに監禁されていた。
「済まないね」
人によってはそんなことを言いながら、それでも僕を犯した。済まないと思うなら、もっと他にできることがあるんじゃないか。そう思う。でも、きっとみんな、軍の命令なんだろう。
毎日毎日犯され続けた。でも、あのロボットは起動しない。
(当たり前だ。僕は何もできないんだから)
日に日に雰囲気が悪くなっていくのを感じていた。僕を犯す時も、最初は何となく遠慮気味だった。だけど最近はかなり暴力的だ。殴られることだってある。起動実験と言っているけど、苛立ちや憂さ晴らしが主な目的になっているようにも思う。
(そうだよ。僕はどうせ何もできないんだから、さっさと諦めなよ)
暴行を受けながら僕は思う。そして、自殺するチャンスを窺う。だが、さすがに彼等もそんな隙は与えてくれなかった。100人近い職員に何度も何度も犯される日が続いた。

(もう、だめだ)
自殺することもできず、逃げ出すこともできず、ただただ僕は犯され続けた。あのロボットが動いた日からもうどれくらい経ったんだろう。半年は経ってるんじゃないかと思う。今ではもう、今日が何日なのかも分からない。何曜日なのかも分からない。ただ、朝から寝るまで犯され続ける毎日だった。
(もう、壊れてしまいたい)
そう思っていた。壊れて楽になりたいと思っていた。
が、唐突にそれは起きてしまった。

ついに古代研究所の男性職員で、あの少年を犯していない者はいなくなった。それでもロボットは起動しない。
(いよいよ外部の者を使うしかないか)
監視役の男は思った。何とか職員の中だけで収めたかった。それは多少なりともあの少年のことを思ってのことだ。ここの人間は皆、事情を理解している。それでも苛立ちは隠せなかった。外部の人間まで使うようになったら一体どうなるのか・・・ロボットの起動条件が、あの少年が犯されることだというのが世間に知られてしまう。そうなったら、少年の精神崩壊の可能性は遙かに高まるだろう。
だが、彼等に選択肢は残されていなかった。あの軍幹部の言う通り、とにかく人を集めることとなった。少年のことを考え、情報の開示は最小限とし、最初にロボットが起動した時に少年を犯したあの3人になるべく近そうな人間が選ばれた。その3人と少年が初めて会議室で向かい合う。
「あなた方には彼を犯していただきます。これは軍のプロジェクトの一部であり、機密事項です。ここで起きたことは一切他言無用です」
もちろん、彼等とはそういう契約を交わした上でここに来てもらっている。が、さらに念押しが行われた。
「犯すって、こんな子供を?」
一人が声を上げた。
「情報を流出させた場合、その情報の重要性に関わらず、逮捕、投獄されることをお忘れなきよう」
そう言って、職員は会議室を出ていった。
「本当に、犯らなきゃならないのか?」
別の男が部屋の隅を指さす。そこには監視カメラが設置されていた。赤いランプが点滅している。
「俺達も監視されている。つまり、犯らなきゃ俺達が捕まるってことだ」
男達が春田少年に近づき、取り囲む。
「済まないな。初めて会った君にこんなことをしなきゃならないなんて」
少年はすでに全裸になっていた。
「いいですよ、別に。もう何百回と犯されましたから」
すると、男達が目くばせをする。
「そうか。なら、俺達も楽しませてもらうことにする」
そして、3人は服を脱ぎ始めた。

すでに男女間のセックスという行為は、書物の中だけの出来事となっていた。長い宇宙艇生活の中で出産は管理対象となり、女性は卵子の、男性は精子の提供が義務付けられた。それら卵子と精子を優等性を考慮して組み合わせ、計画的に人工受精させる。それが子孫生産技術として確立していた。そのため、管理外のセックスは禁止され、性欲の処理はもっぱら卵子や精子の採取用機械を用いることで行われてきた。
「人相手なんて、一生できないものだと思ってた」
興奮した様子で言う。彼のペニスはすでに勃起している。そして、そんなペニスを少年のアナルに押し込んだ。
「くっ」
少年の方は何度も犯され、慣れ切っていた。最初こそ少し違和感があるが、すぐにそのペニスを受け入れる。すでに性感帯となってしまったアナルで男を感じる。何度も経験させられることで、その度合いが徐々に高まっている。いつか、それが限界を超えてしまうことが怖かった。しかし、少年はそうなることを望んだ。精神が崩壊し、この辛い日常から開放されるその時を。
「ああっ」
少年が仰け反った。
その時、古代研究所内に警告音が鳴り響いた。

監視役の男が会議室に飛び込んできた。
「何をやった?」
春田少年を犯していた男達は監視役の方を振り向いた。
「何って・・・言われた通り・・・」
男のペニスが少年のアナルに入っていた。
「見てみろ」
監視役の男が、会議室の窓を覆っていたブラインドを開け放った。その会議室のすぐ外に、ロボットが立っていた。

「何が起きたんだ」
監視役がつぶやく。
「何って・・・ただ、挿れて、犯っただけだ」
監視役が春田少年に向き合う。
「お前、何かしたのか?」
少年は首を横に振った。
「何が・・・」
監視役が会議室の中を見回した。もちろん、彼等以外誰もいないし何もない。
「どうなってるんだ・・・」
そして、少年に詰め寄る。
「何かいつもと違うことはなかったか?」
少年は考え込んだ。
「いつもとって・・・初めて会う人達だし・・・」
少年も、監視役の男も考え込んだ。
「そうだ、ひょっとして」
監視役の男が顔を上げ、会議室から飛び出していった。残された男達と少年が顔を見合わせる。
「俺達・・・終わりか?」
男達のペニスは勃起したままだ。
「止めろ、とは言われてないよな」
3人は春田少年に襲いかかった。

突然、外に出現したロボットが動きだした。そして、振り回した手が古代研究所の外壁にぶち当たり、それを破壊した。春田少年と男達がいる会議室の壁が崩れ、彼等が外から丸見えになった。
「何をしてるんだ!」
数人の軍人が、そして少し遅れて監視役の男が会議室に飛び込んできた。軍人は男達を取り押さえ、どこかに連れて行く。春田少年も全裸のまま別の部屋に連れて行かれた。
「これは、今まで起動実験を行った人達のリストだ」
監視役の人がクリップボードを春田少年に差し出した。日付、時間とその横に名前と顔写真が並んでいる。それが数十枚に渡って綴じられている。赤い印が付けられている名前がいくつかあった。
「その印、それはその時、君が初めて会っただろうと思われる人だ」
監視役が赤いペンを差し出した。
「もし違うなら、修正しなさい」
少年は記憶をたどり、名前に印を付け、一部の印には×印を書いた。それを監視役に差し出す。監視役はそれをじっくりと1枚1枚見ていった。
「やっぱりだ」
監視役が顔を上げる。
「見なさい。今まで君を犯してきた人達は君と面識があったか、或いは犯したグループの中に面識がある者が含まれていた」
そう言いながら、ページをめくってみせる。確かに、横に並んだ名前のうち、少なくとも一つには赤い印が付いていた。
「そして、今日だ。さっきの3人、みんな初めて会う人、つまり3人とも初対面だ」
ペンで壁を指した。
「そして、ロボットが動いた」
壁には大きな亀裂ができている。窓の外にはもう、あのロボットはいなかったが、あの時の光景が目に浮かんだ。
「簡単なことだったんだ。つまり、君は初対面の3人に犯されることで、あのロボットを起動させることができるんだ」
監視役は満面の笑みを浮かべた。
「ついに、ついに起動条件が分かったんだ」
叫びだしそうな勢いだった。が、春田少年は暗く沈み込んでいた。
(つまり、恐竜が現れる度に、僕は知らない人に犯されるんだ)
少年にとって、何一ついい事はない。しかし、監視役は嬉々としている。
「よし、これから緊急会議だ」
春田少年の手を握り、立ち上がらせた。

監視役の報告に基づき、再現実験が行われた。2回目にロボットが起動した時の3人と、そして少年とは全く面識のない別の3人が集められた。
「まずは、さっきの3人だ」
会議室の中央で、3人が春田少年に近づく。
「ロボットは起動しないはずです」
男達が春田少年を犯す。この前できなかったところまで、彼等は少年の体を味わった。もちろん、ロボットは全く動かなかった。
「次に、面識のない3人です」
さっきの3人と入れ代わるように別の男達が呼ばれた。彼等は何の躊躇もなく、春田少年に襲いかかった。すると、あのロボットの格納庫をモニタリングしていた職員が声を上げた。
「ロボット、消えました」
その会議室にいた、春田少年と彼を犯している男3人以外の全員が窓に駆け寄った。
「おおっ」
歓声が上がる。
「続けろ」
誰かが春田少年を犯していた男達に命じた。男が少年のアナルで動き出す。少年の体がそれに反応する。すると、ロボットもそれに合わせて動き始めた。
「止めろ!」
男達を止めさせる。
「また建物を壊されてはかなわんからな」
誰かが言った。が、その声は明るかった。
「良くやった」
あの軍の上層部の人が監視役の男の肩を叩いて言った。
「黒木君には何らかの褒賞を検討する」
「ありがとうございます」
二人が握手する。
「そして、この少年の管理も黒木君に任せる」
「はっ」
監視役だった男が敬礼した。
「お前はこれから軍の管理下に入ってもらう」
春田少年に向かって言った。
「もちろん、我々の命令には服従してもらう」
そして、全員を見回してから大きな声で言った。
「次に異獣が出現した時、実戦にて起動実験を実施する」
「はっ」
その場にいた春田少年以外の全ての者が敬礼した。少年は一人、ずっとうつむいていた。

      


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