ヒーロー

5 不穏

一時減少していた異獣の出現頻度が、また少し増えてきていた。それにつれて、出現ポイントも街の中心部に近づきつつあり、春田少年が通う学校から見える場所に出現することもすでに4回を数えていた。
いずれは軍の中枢施設の至近距離に出現することも考えられるため、即応体制、すなわち春田少年の管理も強化されていた。
すでにほぼ24時間拘束されている状態であったのに加えて、授業を受ける教室は彼の部屋、すなわち元理科準備室になるべく近い教室を用いるようになった。そこで何をしているのか、興味を抱いた生徒が覗き見ようとする可能性もあったが、理科準備室にはセキュリティが施された理科室を通らなければ入れない。そして、春田少年がロボットを起動している間は、理科室には管理者である黒木がいる。黒木には武器の所持が許可されていたが、必要時には威嚇発砲も認められた。
実際に、授業の最中、あるいは休み時間中に呼び出され、ロボットを起動させたことも何度もあった。興味を抱いている生徒は数人いるが、理科室に入ろうとまでした生徒はいなかった。そこが軍の管轄区域であり、無断侵入は処罰されること、さらに場合によっては銃殺もあり得るといった大きな注意書きまでされているのだから。

しかし、そんな人類の予測を超えて異獣は出現し続けていた。
ある日の授業中、突然教室の、外に面した側の窓ガラスが一斉に砕け散った。そのほんのわずか後、衝撃波のようなもので生徒もろとも机が吹き飛ばされた。校庭に面した側の壁の一部が崩れ去り、教室内が外から丸見えになる。それは春田少年の座る席の間近で起きた。
異獣が校庭に出現していた。異獣は校舎の横で、校舎に体を押し付けるようにしている。そして、その体の一部が教室内に入ってきた。その腕のような部分は、まるで何かを探るかのように教室内を弄る。春田少年を含む多くの生徒は、教室の廊下側の後方のドア付近に固まっていた。衝撃で校舎が歪んだのか、ドアは開かなくなっていた。
異獣の腕は、徐々に彼等に迫っていた。ドアの外では黒木が軍に応援を要請していた。異獣を排除するために、また教室に閉じ込められた春田少年を救出するために軍が出動した。が、その到着を待つ間にも、異獣の腕が教室内の机を薙ぎ倒し、衝撃を受けて気絶していた生徒達を壁の穴から外に掻き出した。数人の生徒が教室から校庭に落下する。おそらく、彼等は死亡したであろう。が、軍にとってそれはどうでも良かった。今はロボットの操縦者、春田少年の救出が最優先だった。
控室にいた、次に春田少年を犯す予定の3人も教室に駆けつける。黒木と一緒にドアに体当たりするが、ドアはびくともしない。
「どいてください」
武装した兵士が彼等に駆け寄り、大きな声で叫んだ。
「ドアから離れなさい」
そして、大きな、まるでバズーカ砲のようなものをドアに撃ち込んだ。ドアが教室内に吹っ飛んだ。数人の生徒がそれに巻き込まれたが、兵士達は気にしなかった。

教室内は凄惨を極めていた。異獣の爪に引き裂かれたと思われる生徒の体の一部が、机が散乱する床に散らばり、天井にもへばり付き、垂れ下がっている。壁にも床にも天井にも血がべったりと付いている。
「春田、無事か?」
黒木が教室内で叫び、春田少年の姿を求めて辺りを見回した。春田少年は教室の隅で小さくうずくまっていた。

殴られたような気がした。
次の瞬間、上から何か降ってきた。机の上に散らばるそれは、ガラスだった。少し遅れて大きな音。ガラスが飛び散る。風、そして何かに僕等は跳ね飛ばされた。
「きゃあ」
誰かが叫ぶ。僕の体は宙を飛んでいた。誰かの体にぶち当たる。そのまま、その誰かの体もろとも教室の廊下側の壁に叩きつけられた。
「ふぐっ」
その誰かが呻く。その後、机が降ってくる。僕は両手を上げて頭を守る。僕の下敷きになっていた奴の頭に机が当たる。でも、そいつは動かない。目が開いたままだ。机が当たっても体は動くけど瞼は動かない。
(死んで・・・る?)
次の瞬間、僕の心が恐怖で埋め尽くされた。
「ぎゃあああ」
僕はわめいた。その一方で冷静な自分もいた事に驚いた。
(わめいてどうなるものでもない。早く教室から出なきゃ)
教室の、僕の席のすぐ横の壁がなくなっていた。外が見える。そこから灰色の、茶色の、黄色の何かが見える。それは動いていた。そして、赤黒い何か。それが動いて丸いものが僕等を見る。目だ。ようやく、僕は理解した。
(異獣だ。異獣がそこにいるんだ)
恐ろしさで体が動かない。みんな悲鳴を上げて、教室の床に這いつくばり、這うようにしてそこから離れようとしている。
(逃げないと)
(早く逃げろ)
僕の中の恐怖を感じている僕と、冷静な僕が同時に言った。教室の後ろの方のドアを見る。そこにはすでに数人の生徒がいた。ドアを開けようとしている。でも、ドアが開かない。
僕は前のドアに目を移そうとした。その時、何かが崩れた壁から入ってきた。さっきと同じ色。その先には黄色い尖ったものが見える。異獣の手だ。異獣が教室に手を突っ込んでいる。そして、その手は床に散らばった机と、そしてそこに転がっている奴を掻き出した。
何人かの生徒が、机と一緒に崩れた壁の外に消えるのを見た。ここは4階だ。どれくらいの高さになるのかは知らないけど、あいつらは・・・
(死んだな)
震えながら思った。また異獣の手が突っ込まれる。
(まさかっ)
僕はロボットを操縦し、あの異獣とこれまで何度も戦った。でも、直接異獣を見る機会はほとんどなかった。これまでに直接見たのは数回。そして、こんなにすぐ近くで見たのは初めてだった。その異獣がすぐそこにいる。
(僕・・・僕を探してる?)
何の根拠もない。でも、そう思った。僕はあのロボットの操縦者だ。異獣が狙うとしたら、きっとこの僕だ。
「いや・・・嫌だ」
床に尻餅をついたまま、僕は後退る。股間がじんわりと暖かくなる。僕はおしっこを漏らしていた。教室の前の方に異獣の腕が突っ込まれた。また机と、そして二人の生徒が掻き出される。教室の後ろに生徒が集まっているが、ドアが開かない。僕もその中の一人に加わった。
「きゃあ!」
「うわぁ」
また突っ込まれた異獣の爪に生徒が引き裂かれ、そのまま外に放り出されていく。教室が血に染まっている。床や天井も血の痕が塗り広げられていく。
「ドアから離れなさい」
外から誰かの声がした。僕は反射的にその命令に従った。でも、多くの生徒は動けなかった。そして、ドアが弾け飛んだ。
「大丈夫か、怪我はないか?」
黒木さんが僕を抱え起こした。僕はガクガクと首を縦に振る。その体にしがみつく。
「たたた助けて」
腰が抜けて立ち上がれない。また大きな悲鳴が上がった。
また異獣が教室内を覗き込む。目玉が動いて僕を見た。
「ひぃぃ」
僕の喉から音がした。異獣の目が壁の穴から消えた。そして、すぐにまた大きな衝撃。壁が大きくえぐられる。教室の壁がほとんどなくなった。また異獣の目が、いや、顔が覗き込んだ。
誰かが僕の頬を叩いた。
「ひっ」
僕は悲鳴を上げた。黒木さんだった。そして、黒木さんが言った。
「今すぐ、ここで犯してください」
黒木さんの向こうに男が3人立っていた。全員、初めて見る人だった。
「避難は間に合いません。今、ここで食い止めるしかない」
そして、僕を見た。
「行けるな、春田」
僕はゆっくりと首を左右に振った。でも、黒木さんはもう僕を見ていなかった。
「今、ロボットを起動させなければ、全員死にます」
僕の服を掴んで、僕の体を引っ張り上げた。そして、投げるようにして男達3人の方に押しやられた。
「これは軍の命令です。今、ここで、犯ってください」
また衝撃。校舎のどこかで大きな軋み音がした。校舎が傾く。床が斜めになり、床に倒れていた生徒が転がる。このままだと校舎そのものが崩壊しそうだ。
「犯るしかない」
僕の後ろで誰かが言った。そして、僕は傾いた床に押し付けられた。
「い、いやだ」
僕は叫んだ。何人かの生徒が僕等を振り向いた。男達は僕を押さえ付け、僕の服を脱がしに掛かる。いや、僕の服を引き裂いていく。
「やめろっ」
僕は暴れようとした。が、他の二人に手足を押さえ付けられる。
「何やってんだ、こんな時に」
生徒の誰かが男の腕を掴んだ。それが誰だったのか、そんなことを確かめるような余裕はない。黒木さんがその生徒に銃を突き付けた。
「これは軍の作戦行動だ。邪魔することは許さん」
生徒が後退る。僕は全裸にされる。誰かが僕のペニスを握った。

その時、教室内が急に暗くなった。
異獣に破壊された壁の外側に、白い壁ができていた。教室が一瞬、静まりかえった。
「あれ・・・ロボットだ」
誰かのつぶやきが大きく聞こえた。異獣と校舎の間に割り込むように、ロボットが立っていた。
「よし。犯せ」
黒木さんの声がした。
「いやだっやめろっ」
僕の声に皆が振り返った。

僕は全裸にされていた。男三人も既に全裸だ。むりやり足を開かされ、口にはペニスを咥えさせられている。誰かが僕のペニスを扱く。アナルには指が入ってくるのを感じる。
(こんな時に、こんなところで・・・)
こんな時に、というのは理性では理解している。異獣が出現しているんだから、僕はロボットを動かさなきゃならない。もちろんそれが正しいことだ。でも、こんなところで、クラスの奴等の目の前でされるなんて・・・
「や、やめろぉ」
皆、僕を見ていた。ただ、見ていた。誰も動かなかった。異獣とロボットと男達以外は、誰も。

男の指が入ってきた。
「いやっ」
それが中で動くのを感じる。アナルの違和感。それがいつものように体にじわじわと広がっていく。腰の辺りまで広がっていくと、じんわりと体が熱くなってくる。
「ああ・・・」
思わず声が出る。何人かが僕を見ているのに、僕は声を上げてしまう。
外から大きな音がする。衝撃が伝わる。白い体が校舎から少し離れた。

別の男が少年のペニスを掴み、乱暴に扱いた。地面が揺れる。ロボットが異獣を投げ飛ばしていた。
「ああっ」
教室内では春田少年のアナルに男が挿入していた。教室内の生き残った生徒のうちの半分は外の異獣とロボットの戦いを、残りの半分は春田少年と男達のセックスを見つめている。
男が春田少年を背後から抱き締め、別の男がアナルに挿入していた。少年の足を抱えるようにして、腰を振る。もう一人が春田少年の口の中にペニスを突っ込む。
「おあっ」
ペニスを咥えながら喘ぎ声を漏らす。アナルからぐじゅぐじゅと音がする。外の戦いの中、不思議と教室内は静まりかえっていた。
「あぁ」
また春田少年が声を上げる。
「こんな時に何してんだよ」
誰かが言う。
「頭おかしいだろ」
別の誰かの声。
「気持ちいいのかよ」
また誰か。春田少年にはそんな声が全て聞こえている。目を向けると、そんな彼等の顔が見える。驚き、蔑むような目をした彼等の顔が。そして、目を合わせようとしない彼等。本当は見ているのに、見ていない、外の戦いを見ているフリをする彼等。外の戦いを見守ってはいるが、ちらちらと春田少年と3人の男達のセックスを気にする彼等。そして、春田少年達などいないかのように無視する彼等。
先ほど春田少年のアナルに挿入していた男が、今は春田少年に咥えさせていた。アナルには別の男が入っている。その男が春田少年のアナルを突く。尻に腰がぶち当たり、パンっと大きな音がする。皆がその音のした方を振り向く。そこでは春田少年がペニスを勃起させ、気持ち良さそうに喘いでいる。
「勃ってる」
誰かがつぶやいた。

「勃ってる」
そんな声が聞こえた。僕は足を二人の男に抱えられ、勃起したペニスを曝け出しながら、アナルを掘られている。ぐちゅぐちゅという音。そして、奧に入れられる度にペニスがびくんと動く。それをみんなに晒している。それをみんなに見られている。僕が気持ち良くなっているところを、こんな時にこんなところで気持ち良くなっているのをみんなに見られている。いろんな表情で、いろんな顔で、いろんな目で僕を見ている。でも、みんな、僕を睨んでいる。気持ち良くなって、いきそうになっている僕を見ている。僕を、見つめている。
「ああ、いくっ」
体の奥の方で何かの固まりが大きくなり、弾けそうになっていた。
「まだいかせるなっ」
黒木さんの声がした。僕を犯す男達の動きが止まった。

外では、ロボットが校舎の方を向いていた。春田少年が射精するとロボットの胸から赤いビームが発射される。それはこれまでの戦闘の中で分かっていた。もし、今、そうなったら、異獣もろとも校舎も、生徒達も、そして、春田少年も蒸発することになる。
「まだいかせるな!!」
黒木が思わず春田少年を犯している男の体を引き離した。
「うわっ」
男がひっくり返る。と同時に、春田少年のいきりたったペニスと、ぽっかりと開いたアナルが丸見えになった。
「うわ」
誰かの声がした。

「ああっ見るなぁ」
その一瞬、羞恥心が戻ってきた。そしてその瞬間、ロボットが体を捻った。
「今だっ」
黒木さんが叫んだ。男が僕のペニスを掴む。
「あ、い、嫌だっ」
多くの生徒達が僕等を見つめる。見つめられながらペニスを扱かれ、アナルを掘られる。
「ああっ」
みんなに見つめられながら、僕は射精した。

教室が赤い光で染まった。次の瞬間、激しい衝撃とともに耳をつんざくような音がした。いや、音がしたんじゃない。まるで空気が沸騰し、蒸発するような感覚。皆、耳を塞いでうずくまった。
そして、彼等が体を起こすと、ロボットはすでに消えていた。
教室から見て右斜め方向に、黒い一本の筋ができていた。そこにあった物は全てなくなり、そしてその筋は見えなくなるまで続いていた。
春田少年は床に仰向けに横たわっている。彼を犯していた3人はすでに教室を去っていた。黒木は崩れた壁に近寄り、外の様子を確認していた。
「何だったんだ・・・」
誰かが言った。生徒達は床にうずくまり、誰も動かなかった。

黒木が春田少年に近寄り、その体を抱き起こした。
「あの」
生徒の一人が黒木に声を掛けた。黒木が振り返る。
「何があったのか教えて下さい」
黒木はそう言った少年を見つめる。
「何があって、春田はなんであんなことされてたのか、説明してもらえますよね」
少年は重ねて言った。黒木が口を開いた。
「今日あったこと、見たこと、聞いたこと全て忘れなさい」
黒木は立ち上がって彼等に近づいた。
「今日の事は誰にも言うな。ここにいる者同士でも話すな。全て忘れろ。いいな。これは軍の命令だ」
「でも」
口を開きかけた生徒を睨み付ける。
「これは軍の重要機密事項だ。もし少しでも背いたら、拘束する。いいな」
「なんだよそれ」
また声がした。
「あんな最中にセックスして、おかしいだろ、絶対」
「そうそう。そしたらロボットが出てきて」
銃声がした。黒木が銃を天井に向けていた。
「だから、軍の重要機密だ。今のは聞かなかったことにしてやるが、今後、口にした者は拘束し、監禁する」
誰も何も言わなかった。黒木は残った生徒達を一廻り見渡した。
「では、以上だ」
「なんだよ、それ。俺達死ぬかもしれないのにセックスして気持ち良くなってんじゃねーよ」
一人の少年が進み出て、床に横たわったままの春田少年に馬乗りになろうとした。その瞬間、兵士が進み出て、少年の手をひねり上げ、拘束した。
「連れて行って下さい」
黒木が言うと、兵士は少年をどこかに連れ去った。
「彼のようになりたいか?」
皆、口を噤んだ。


それから3日が過ぎた。学校は閉鎖され、春田少年らは、別の学校・・・と言っても、近くの軍の施設の一部を急遽教室にしたものだが・・・に移されていた。あの、軍に連れて行かれた少年は戻ってこない。そしてあれ以来、クラスの雰囲気は陰鬱としていた。
春田少年に対する嫌がらせが始まっていた。

それまでも、軍の命令で時々授業を抜け出していた春田少年は色々と陰で囁かれていた。が、あのことを皆が目撃して以来、あの、クラスメイトの約3分の1が死亡した異獣による学校襲撃以来、春田少年はクラスメイトの標的となった。
その一方で、ロボットの操縦者が誰なのか、その情報もすでにリークされていた。そのため、春田少年は外ではヒーロー的な扱いを受けていた。
が・・・

春田少年が授業を抜け出し、異獣との戦いを終えて教室に戻ると、彼の机に紙が貼ってあった。あの時の画像だった。誰かが密かに撮影していたようだ。春田少年はそれを剥ぎ取り、折り畳んでポケットにしまう。
「告げ口するのかよ」
誰かが言った。春田少年にはその声は届いていたが、反応しない。
「いいよな、みんな恐竜に襲われて逃げてる最中に気持ち良くなってるやつは」
皆、小さな声ではあったが口々に言う。誰かが春田少年が座っている椅子を後ろから蹴飛ばす。頭に何かが当たる。振り返るとまた頭に何かが当たる。皆、いろいろなものを春田少年に投げつける。また当たった。それは机の上に落ちた。くしゃくしゃに丸められた紙だった。広げてみると、春田と書かれた人物が股間に手を当てた絵だ、おそらくオナニーを書いたつもりなんだろう。そのペニスと思しき部分からビームが出ている。そのビームが当たった家から火が出ている。
『ウチに向かってオナるなよ』
そう書いてあった。春田少年はそれも折りたたんでポケットに入れる。
「なんなんだよ、お前は」
クラスで一番気性の荒い早川少年が春田少年に詰め寄った。
「お前のせいで何人死んだんだよ」
「僕のせいじゃない」
春田少年は小声で言い返した。
「この、人殺しが」
確かにあの時、いや、今までもだ。春田少年が射精すると、あのロボットはビームを放つ。そのビームは異獣だけでなく、街をも蒸発させた。それに巻き込まれて人が死んでいるのは事実だった。
「僕はっ」
春田少年が思わず立ち上がる。
「僕は・・・僕だって・・・」
しかし、力が抜けたように椅子に座り込んだ。
「お前はなんなんだよ」
「お前がいったら人が死ぬんだろ」
「お前は射精禁止だ」
「オナニーするな」
「学校来んな」
皆が口々に言い始めた。
「それか、あっち側でずっと犯されてろ」
あっち側というのは「彼の地」のことだ。
春田少年は両手で耳を塞いだ。言い返せなかった。それが事実であることは、彼が一番分かっていたからだ。春田少年が犯されることでロボットが動き出す。ロボットが動けば建物が、街が壊れる。春田少年が射精すればビームが放たれる。異獣も蒸発するが、街も蒸発する。時には人も巻き込まれて蒸発する。
(僕が殺してるんだ)
心臓の鼓動が早くなる。息が苦しくなる。
「やめろよ」
大きな声がした。教室が静まり返る。
「はあ? なんだよ」
その少年は春田少年の肩に手を置いた。

      


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