ヒーロー

6 暴発

一人の少年が、春田少年の肩に手を置いた。
「柚木、庇うのかよ、そんなやつ」
早川少年が顔を向けた。
「春田君がいなかったら、僕等は全員死んでいた。それも間違いない」
その少年、柚木晴翔が早川少年と春田少年の机の間に割り込んだ。
「こいつが俺達に何をしてくれたんだよ」
「でも、あの時春田君がああしなかったら、僕等は全員死んでいた」
他の少年達も口々に言い始めた。
「やってただけだ」
「気持ち良さそうにいっただけだろ」
「じゃあ」
その少年が大きな声を出した。そして、皆を見回した。
「君等はあの時何してた?」
一人一人の顔を見て行く。
「異獣を何とかしようとしたの? それが君等にできたの?」
何人かは目を逸らし、顔を伏せる。
「確かに、春田君はただ・・・」
少し言い淀んだ。
「されていただけかもしれない。でも、それであのロボットが動いたから僕等は助けられた。違う?」
すると、早川少年が反論した。
「こいつがあれでロボット動かしたなんて証拠ないだろ」
柚木少年が春田少年に顔を近づけた。
「どうなの?」
しかし、春田少年は顔を伏せたまま何も言わない。
「言えないの?」
春田少年がかすかに頷く。
「もういい!」
早川少年が言った。
「言えないってことは、そういうことなんでしょ?」
柚木少年が尋ねた。皆が春田少年に注目した。が、それでも春田少年は何も言わなかった。
「それならそれで、お前がもっと早く・・・あれをしてたら、みんな助かったかもしれない。やっぱり俺はお前を許さない」
早川少年が吐き捨て、教室から出て行った。何人かの少年がその後を追いかける。
「僕は・・・」
春田少年が顔を上げた。目には涙が溜まっている。
「いいよ、何も言うな」
柚木少年が春田少年の頭に手を乗せた。そして、顔を近づけて言った。
「でも、今日のことは報告しないでくれないかな」
春田少年が柚木少年の目を見る。
「ほら、これ以上・・・雰囲気悪くなるの、嫌だから」
春田少年は無言で頷いた。

しかし、それで治まった訳ではなかった。

数日後、春田少年と黒木が軍本部に呼び出された。
「今日、来てもらった理由は分かるな」
春田少年は頷いた。学校代わりの軍の施設からここまで、彼は黒木の運転する車に乗せられてきた。その窓から見えたのはたくさんの人の姿だ。彼等は手に手にプラカードを持ち、或いは横断幕を掲げて歩いていた。
『軍に騙されるな!』
『汚れたヒーローに裁きを』
『悪魔の手先を許すな!』
そんなことがプラカードや横断幕に書かれていた。『悪魔の手先』の言葉の下には数人の人らしき絵。その中の一人の顔は、明らかに春田少年を模したものだった。
「どうしてこうなったか、理解しているな?」
軍幹部が春田少年に尋ねた。
「はい、たぶん」
春田少年は小さな声で答える。
あの学校で揉め事があった日の夜、ネットにある動画が流出し、瞬く間に広まった。それは、あの学校が異獣に襲われた時の動画だった。
その動画がモニターに映し出されている。動画の中で、生徒達が吹き飛ばされ、壁にぶち当たり床に落ち、動かなくなる。異獣の爪と思しき黄色い尖った物に体を引き裂かれる少女。降り注ぐ壁の破片に潰される少年。そして、異獣の手がそんな生徒達を掻き出していく。その奥で数人の生徒が集まっている。その中心にいるのが春田少年と彼を犯す男達だ。そんな春田少年にズームする。画像が荒くなっているから後で編集したんだろう。春田少年が男に犯されている。その様子が、すなわち軍がロボットを操っている様子が撮影され、それが公開されていた。
「誰が撮ったのか、心当たりはあるか?」
春田少年は考える。が、あの時、撮影されているなんてことにすら気づいていなかった。そんな余裕はなかった。クラスメイトが殺され、校舎が破壊され、傾き、崩れていく校舎の中で、クラスメイト達の前で春田少年は犯された。恐怖と羞恥心、覚えているのはそれだけだった。首を横に振った。
「そうか」
映像が切り替わった。さっきの映像よりも画質が悪く、ノイズ混じりの映像だ。
「これは君達の部屋に設置されていた監視カメラの映像だ」
画面が揺れ、ノイズが走る。が、その映像には教室の後ろ側の半分以上が映っている。奥には3人の男に犯される春田少年が見える。その画角から先ほどのあの動画と同じ方向から撮影されていることが分かる。
「ここに映っている生徒、死んでいた生徒、教室から掻き出された生徒。それ以外であのクラスの生徒は3人だけだ」
映像が3人の生徒の写真が並んだ画像に切り替わる。
「石田陽子、吉田秀明、それから早川聡太。この3人だ」
また映像があの流出した動画に切り替わる。
「あのロボットの起動プロセスは軍事機密だ。お前があのロボットを操縦しているのを撮影し、流出させたことは、重大な犯罪行為だ」
映像が切り替わる
「そして、お前も報告義務を怠っていることは分かっている」
春田少年が早川少年に詰め寄られていた。
「これらを総合すると、誰が犯人かは明白だ。そうだな、春田」
「分かりません」
春田少年は小さな声で答える。
「よく思い出せ」
そして、軍幹部が続けた。
「もし、お前が誰なのか答えるのであれば、お前の報告義務違反、今回は見逃してやる」
「で、でも」
本当に春田少年は見ていない。いや、目には入っていたかもしれない。が見えてはいなかった。
「お前が答えないのなら仕方がない。3人とも処罰する」
「そ、そんなの」
「だったら思い出せ。誰が重要機密事項を流出させたのか」
春田少年は考えた。そして、口を開いた。
「たぶん・・・・・」
そして、春田少年は早川少年の名を告げた。

その日、まだ春田少年が軍本部にいる間に、学校代わりに使用されている軍施設の授業中の教室に、軍の人間が入ってきた。教師の制止は一切無視し、彼等はその教室で、他の生徒達の前で早川少年を拘束し、連れ去った。

早川少年が拘束される様子がネットニュースに流出した。
軍としては、あの動画、春田少年が教室で犯される動画はフェイクであり、早川少年がヒーロー扱いされている春田少年に嫉妬した結果、個人的怨恨で作成し、流出させたものだったとして収束させるつもりだった。しかしながら軍の思惑は外れ、さらにデモが激しくなった。何人かの生徒がインタビューを受け、それもネットで流された。あの教室の監視カメラの映像すら流出した。軍が人々を騙そうとしたことはすでに明白となり、そして春田少年があのロボットを操縦するために何をしていたのかも白日の元に晒されることとなった。
それは大きな反発を生み、春田少年は人々の嫌悪の対象になった。動画から春田少年だけが抜き出され、彼の恥ずかしい部分が強調されたビラが撒かれた。あの動画も拡散され、毎日どこかで目にするようになった。春田少年の住まう軍の施設が特定され、毎日その周りでデモが行われた。彼等は春田少年を見つけると騒ぎ立てた。石を投げるものもいる。軍は春田少年にボディガードをつけた。今、異獣に対抗できる手段であるあのロボットを動かすことができるのは春田少年だけだ。したがって、軍は人々の安全よりも春田少年の安全を優先した。それがまたデモを過激化させる。春田少年を守るために、ボディガードが人々を押しのけると、怪我をさせられたと騒ぐ者も出てくる。デモは過激化の一途を辿る。完全な悪循環だった。
春田少年が外出する時は必ず車での移動となった。しかし、そんな彼の車を何台もの車が追いかけ、汚い言葉を投げつける。ビラを撒く。そして、過激なデモ集団が車の行く手を遮り彼を引きずり出そうとすらした。
いや、実際に引きずり出した。春田少年が乗った車を数十人で取り囲み、二人のボディガードは押さえ付けられ、そして春田少年が引きずり出され、道路に押し倒された。そんな彼等の周りを多くの人々が取り囲んだ。
「こいつは俺達の命とセックスを天秤にかけて楽しんでいる」
車の上に上がった男が大きな声で叫ぶ。
「嘘っぱちのヒーローだ。俺達は騙されてたんだ」
「そうだ!!」
人々が一斉に叫ぶ。
「軍にも騙された。本当は、あのロボットは別の誰かが操縦しているんだ!」
これまでの情報を冷静に分析すればそうではないことは分かるだろう。そして、ロボットの操縦者を偽ることに意味などないことも理解できたはずだ。が、人々にはそのような情報は与えられていない。そして、群衆はその憎悪の対象を捉えたことで、一気に感情が高まった。
「その証拠に、今ここで、この嘘つきを犯してやる」
「犯せ!」
口々に叫ぶ。
「俺達が証明する!」
「犯せ!」
「俺達はもう騙されないってことを証明するんだ!」
「犯せっ、犯せっ、犯せっ」
皆が叫び出した。何本もの手が春田少年にまとわりつき、その服を剥ぎ取る。あっという間に全裸にされた春田少年のペニスを誰かが掴む。
「だ、だめっ」
春田少年にはその先の光景が見えていた。今、彼は見知らぬ大勢の男達に路上で犯されようとしていた。その結果、ロボットが起動する。ロボットはここに来る。そして、きっと僕は犯され射精する。ロボットはここでビームを放つ。異獣もいないここで、たくさんの人がそれに巻き込まれ、人が、街が蒸発する。
「や、やめろ!!」
でもその声は届かない。誰かがアナルに指を突っ込む。
「ああっ」
足を拡げられ、乱暴にペニスを扱かれ、そして、アナルに挿入された。
「きゃあ!」
「うわぁ」
悲鳴のような声が上がった。春田少年を取り巻く男達のすぐそばにロボットが出現していた。
「こ、殺されるっ」
「逃げろ!」
口々に叫ぶ。
「騙されるな!」
大きな声がする。
「どうせ軍が操ってるんだ。もう俺達は騙されない」
「そ、そうだよな」
春田少年に群がっていた男達が続きを始める。
「やめろっ」
さっき叫んだ男が彼等に加わる。
「お前もどうせ、軍の手先だろ?」
「や、やめろ、やめて下さい」
春田少年は男に懇願する。
「僕が射精したら、みんな蒸発しちゃうんだよ」
「だったら、射精しなければいいんだな」
誰かが春田少年の両腕を掴んだ。その腕を背中に無理やり回される。肩の関節が悲鳴を上げた。
「これでお前は扱くこともできない。扱けなければ、いけないよなぁ」
男が春田少年の足を持ち上げた。
「だ、だめっ」
「生配信してやる」
そんな様子を撮影される。男が春田少年のアナルに入ってくる。
「やめろぉ!」
しかし、春田少年の叫びを気にする者など誰もいなかった。

「やめろぉ!」
僕は叫んだ。肩が軋む。男が足を持ち上げて、僕に体を押し付ける。僕はちらりとロボットを見る。ロボットは現れた時から動いていない。
「お、お願いだから・・・」
僕は僕に入れようとしている男を見上げた。
「俺達はもう騙されない」
僕の言うことを聞いてくれない。背中に回された僕の腕を掴む力が強くなる。
「射精しなければいいんだろ?」
男が僕のアナルにペニスを押し付けた。そのまま足を胸に押し付けられ、お尻の上に体重を掛けられる。男のペニスが僕に入ってきた。
「さすがヒーローだな。簡単に奥まで入るじゃないか」
そのアナルを、体の中を押し広げられる感覚に、僕の体が反応しそうになる。
「や、やめてください」
僕は男の顔を見て懇願した。
「なら」
男が僕のアナルからペニスを引き抜いた。
「謝れ。皆に土下座しろ」
そう言って、僕から少し離れた。僕は地面に正座した。多分、言う通りにするのが正解だろうと思った。地面に手を突く。そして、頭を下げた。
「皆さん、すみませんでした」
正直、何を謝っているのかはよく分からない。でも、今はこうするしかない。
「頭を地面にこすりつけろ」
言われるがまま、僕は頭を地面に付ける。誰かがまた僕の手を取り、背中の方に回す。
「もっと頭をこすりつけるんだよ」
そして、そのまま腕を持ち上げられた。また肩の関節が悲鳴を上げる。僕は上半身を倒して地面に頭を押し付けた。
「すみませんでした!」
肩の痛みに耐えながら、僕は大声で叫んだ。腕を持ち上げられ、頭を地面に擦り付ける。少し持ち上がったお尻に誰かが近づく気配を感じた。そして次の瞬間、僕の中にその誰か、さっきの人が一気に入ってきた。
「ふあっ」
僕は土下座の姿勢のまま犯された。男が僕を突くたびに、額が地面に擦り付けられる。額の皮が破れ、地面に血が付いている。それでも僕は犯される。その人だけじゃない。その人が僕の中に出すと、別の人が僕に入ってくる。腕がさらに捻り上げられる。
「ぐあっ」
肩に激しい痛みが走る。おそらく脱臼したか、腕が折れたんだろう。それでも構わず男達が僕を襲う。二人目が終わり、そして3人目が僕に入ってきた。
「きゃぁ」
地面が揺れた。ロボットが僕に向かって一歩進んだ。
(3人目だから)
ここで犯されているのは、いつものように3人に犯されている、という感じじゃない。一人ずつ、順番に僕を犯していた。だから、今までロボットは動かなかったんだ。3人必要だから。3人に犯されないといけないから。
「怯むな。どうせどこかで軍が動かしてるんだ」
最初に僕を犯した男が大きな声で言った。
「ほら、もっと激しく犯してやれ。このヒーローの本当の姿を晒してやれ」
そして、4人目が僕に入ってきた。それはお尻の感覚だけで分かるほど太いモノだった。それが一気に奥まで入ってくる。
「あぁっ」
思わず僕が声を上げると、僕の周りにいた人達がどよめく。頭がごんごんと地面に当たる。体が少しずつ前に動く。目の前に額から流れた血の筋ができている。それくらい僕は激しく掘られている。
その時、僕の中で何かが起きた。
それは僕の奥の方、太いモノで犯されているその奥の方で始まった。その奥の方が熱い。熱い何かがじわじわと広がっていく。アナルから、少しずつ僕のペニスの奥の方に移動する。そして、それはどんどん熱くなっていく。僕は目を瞑り、それに意識を向けた。
「はあっ」
なるべく声を出さないようにしていたのに、喘ぎ声が出てしまう。
「犯されて気持ちいいんだろ?」
僕を犯している人が言う。
「き、気持ち、いい」
そんなことを言うつもりはないのに、言葉が口から出てくる。みんながそれを聞いている。みんなが犯されている僕を見ている。みんなの目の前で僕は犯されながら、気持ち良くなっているんだ!
僕の中の熱い何かが弾けた。それが僕のペニスを駆け上がった。

春田少年のすぐ近くまで動いていたロボットが体を起こし、直立した。
「き、気持ち、いい」
春田少年の声が聞こえる。と同時に、ロボットの腰の周りを一周している直径3センチほどの小さな赤い円が光り出した。
「ああっ」
春田少年が大きく叫んだ。その瞬間、周囲が赤く染まった。

何かが僕のペニスを駆け上がった。そして、無理矢理その先をこじ開けるような感じで何かが迸った。
その瞬間、目を閉じていた僕の瞼の裏側が赤く染まった。そして、衝撃波。僕は地面に叩き付けられた。地面が揺れる。激しく揺れる。何も聞こえない。ただ、空気が振動している。その少し後、耳をつんざくような音がした。空気が裂けるような高い音。そして、地響きのような低い音。体が吹き飛ばされる。転がりながら、僕は体を丸める。何かが体に何度も当たる。そのままゴロゴロと転がっていく。その間、多分10秒もなかったんじゃないかと思う。僕は恐る恐る目を開いた。

街がなくなっていた。

      


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