ヒーロー

8 彼の地

「ああっ」
柚木君が僕に入ってきた。それは、今まで男達に犯された時とは全く違う感じだった。その指の存在感。その指が柚木君であり、それが僕の内側から僕を愛撫する。
「痛い?」
僕は柚木君の方に顔を向けて言う。
「気持ちいい」
「そっか」
柚木君が笑う。
「気持ち良くなってくれて嬉しい」
僕を見て言う。僕の中に指を入れながら言う。僕はそんな柚木君を受け入れる。そんな柚木君が・・・
「大好き」
「指、入れられるのが?」
僕は少し頭を振ってから、柚木君を見て笑う。
「柚木君が」
柚木君がはにかんだ。そして、指を抜く。
「入れてもいい?」
僕は頷いた。
柚木君が、膝立ちになって僕に近づく。柚木君のそれは大きくなっている。そして、それが僕のアナルに触れるのを感じる。
「ああ」
まだ触れただけなのに気持ちいい。そして、柚木君が僕のお尻を開いて体を押し付ける。僕の中に柚木君が入ってくる。
「あっ」
先の方が入ってきたのを感じる。アナルが広がる。体が喜んでいる。心も喜んでいる。
「大丈夫?」
「うん」
柚木君は僕を気にかけてくれる。今までの男達にそんな人はいなかった。僕はこれまで道具でしかなかった。道具として、異獣を倒すためのセックス・・・
『異獣を何とかしようとしたの?』
あの時の柚木君の言葉を思い出した。
「やっぱり・・・」
僕はつぶやいた。

柚木君が動きを止めて僕を見た。
「いや、なんでもない」
すると、柚木君は少し首を傾げて、そして笑った。
「愛してる」
そう言いながら、少しずつ、ゆっくりと、僕の奥まで入ってくる。
「嬉しい」
僕も答える。今、僕は人として柚木君に愛されている。
「あったかいよ、春田君の中」
「柚木君、熱い」
僕の中に熱いものを感じる。柚木君と触れ合っている部分も熱い。まるで熱があるみたいだ。でも、気持ちのいい熱さ。柚木君と一つになった気持ち良さ。それだけで、体が、心が幸せでいっぱいだ。だから・・・今はそれでいい。
「動くよ」
ゆっくりと柚木君が動く。奥まで入っていたベニスが少し後ろに動き、また奥まで入ってくる。お尻の中がジンジンする。少しずつ、少しずつその動きが早くなる。お尻の中のジンジンが少しずつ広がっていく。
「ああっ」
そう声を上げたのは柚木君だ。首をひねって柚木君を見た。真剣な表情で、半分目を閉じて僕に入れている。僕が見ていることに気がつくと笑顔になる。
「気持ちいい」
僕は柚木君に伝える。柚木君が嬉しそうな表情になる。
「僕も気持ちいい」
そして、動きが早くなる。ジンジンが体中に広がる。
「ああっ」
今度は僕だ。
「はあっ」
柚木君もだ。体の奥が熱い。体中がジンジンしている。そして心が喜んでいる。今まで感じたことがない気持ち良さ、今まで感じたことがない幸せ。今まで感じたことがない・・・
「ああっいくっ」
柚木君が叫ぶように言って体を押し付けた。僕の奥で柚木君が動くのを感じる。熱い体の奥で、さらに熱いものが広がる。柚木君が僕の中で射精しているのを感じた。柚木君が僕の中に出してくれているそれは、きっと幸せが形になったものなんだと思った。その幸せが僕の体を駆け巡る。
「あっ」
その幸せが、僕のペニスから精液を押し出した。
「ああっ」
僕のペニスがビクビクと上下に揺れながら、精液を吹き出している。体がガクガク震えるほどの気持ち良さだ。そんな僕の背中を柚木君が包み込む。僕のお腹に腕を回して僕を抱きしめる。
そのまましばらく、僕等は何も言わなかった。そのまま、幸せを感じていた。

その日の夜、僕等は二人で、ロボットの横で全裸のまま抱き合って眠った。



辺りが明るくなっていた。
僕は隣でまだ眠っている柚木君を見ていた。目が覚めてからずっと見ている。そして、あの時の事を思い出していた。
あの時。あの、教室で早川君に言われた時、柚木君は僕を助けてくれた。それまで話もしたことなかったのに、柚木君は割って入って僕を助けてくれた。
「ありがとう」
柚木君の寝顔を見ながらつぶやいた。
でも、それまで柚木君とは関わった記憶はない。それどころか、僕の記憶の中に柚木君は出て来ない。それなのに、昨日は・・・
体の奥が微かに疼く。僕にとってセックスは苦痛でしかなかった。義務でしかなかった。みんなを、そして新天地を守るために僕は犯されなきゃならなかった。でも、柚木君は違う。柚木君のセックスは違う。あの時僕は感じた。柚木君が僕を思ってくれていることを。
手を伸ばして柚木君の頬に触れた。柔らかくて暖かい。
「柚木君・・・大好き」
そうつぶやいたとたん、柚木君が目を開いた。
「おはよう」
そう僕が声をかけると、柚木君は体を起こし、何も言わずにキスをしてきた。もちろん僕はそれを受け入れる。
「もう朝か」
柚木君は少し目を細めて、空を見上げる。ロボットが格納されているこの場所は周りの地面より低くなっている。その地面の縁には瓦礫が転がっている。そんな瓦礫から、日の光が差し込んで来る。
「誰も来ないね」
そう言ったのは柚木君だ。
「うん」
僕は小さく頷いた。それがつまりどういうことなのか・・・
「もう、僕は用済みの道具ってことだね」
柚木君は何も言わなかった。肯定も否定もしない。どっちにしても、僕が傷付くということを分かってるんだろう。何も言わずに立ち上がり、脱いだままになっていた服を身に着けた。
「食べ物探してくる」
そう言って、瓦礫をよじ登り始める。
「待って、僕も」
慌てて服を着ようとした。
「春田君はここで待ってて」
僕を見て言った。そのままほんの少し間を置いてから僕に尋ねた。
「そうだ、春田君、下の名前って何?」
「健志。柚木君は?」
「僕は晴翔」
そして、僕に笑顔を見せる。
「じゃあ、帰ったら、またしよう、ケンジ」
ちょっとだけドキッとした。昨日のあのこと。まるで夢みたいなセックスだった。ひょっとしたら、本当に夢だったのかもしれないなんて、心のどこかでは思っていた。でもそうじゃなかったんだ。
「うん、待ってる、ハルト」
瓦礫を上り切り、見えなくなりつつあった柚木君・・・ハルトの背中に言った。

ハルトを待っている間、どうしても考えてしまう。
(なんで、誰も来ないんだろう)
色々考えてみる。チラリとロボットの方を振り返る。瓦礫で見えなくなっているその腰のところにあの赤い穴があるはずだ。あの時のあのビーム。胸から出るビームとは違っていた。あれでみんな死んじゃったんだろうか。
(でも、遠くの方まではビームは届いてないと思うけど)
それに、あのすぐ後に戦闘機が飛んでいった。だから、まだ人類は生きているし、軍だって残ってるはずだ。
(じゃあ、なんで・・・)
本当に僕は用済みなのかもしれない。僕以外にロボットを動かせる奴が見つかったのかもしれない。でも、ロボットはここにある。そしてロボットは動かない。
(もう、異獣が出てこなくなったんだろうか)
そうかもしれない。でも、そうだとしてもこのままロボットを捨ててしまうんだろうか。
「何かあったのかな」
ロボットを、僕を救出しに来れないような何か。そんなことって、なんだろう・・・
その時、微かにサイレンの音がしたように思った。聞き耳を立てる。どこか遠くでそれは鳴っている。でも、普通ならその後に続くはずのアナウンスは流れなかった。
(誤報?)
それとも、警報システムは生きているけど、アナウンスをする人はみんな死んでしまったんだろうか。そのまま身動きせずに集中する。でも、それ以降、特に物音はしなかった。
(異獣、出なかったんだろうか)
もし出現していたとしたら、その時、誰が異獣と闘うんだろう。僕はここにいる。ロボットもここにある。ここには僕を犯す3人の知らない人はいない。誰も僕を探しに来ない。誰もロボットを探しに来ない。
(どうなってるんだろう)
僕は服を身に着けて瓦礫をよじ登ってみた。昨日と同じ光景だった。特に何も変わっていない。音がした方向を見てみる。けれど、何か起きているふうには見えなかった。
格納庫の床に下りる。ロボットに近づく。その体に触れてみた。初めて触れるロボットの体は温かくも冷たくもなかった。そして・・・
何か、鼓動のようなものが手に伝わった気がした。
僕は慌ててロボットから離れた。
「な、なんなんだ、これって」
今までそんなことを考えた事もなかった。ロボットと言われているそれ。でも、本当にロボットなのかどうかも分からない。ひょっとしたら生き物なのかもしれない。でも、動かない。そして、僕が知らない人達3人に犯されると動く。
これまで何度も何度も僕はロボットを動かすことを強いられた。もう一度ロボットに近づく。
「お前なんか」
足で蹴ってみた。でも、もちろん動かない。
「はあ」
溜め息を吐いて、地面に座り込んだ。

「お待たせ」
ハルトが戻ってきた。
「ほら、これ」
僕の前にいくつか食べ物を並べる。
「外、どうなってた?」
その食べ物を二人で食べながら、僕等は話した。
「昨日のまま。誰もいなかった」
(やっぱり何か起きてるんだろうか)
僕は不安になる。
「どうしたの?」
ハルトが僕の顔を見ていた。
「あ、ううん、なんでもない」
すると、ハルトが顔を寄せてきた。
「大丈夫。僕がいるから」
そして、唇を合わせる。ハルトが僕を押し倒す。
「いい?」
「うん」
そして、僕等は再び一つになった。どうなっているのか、どうなるのか分からない不安。それを誤魔化すかのようにハルトとセックスする。ハルトに抱かれていると幸せを感じる。不安と幸せ、どっちが本当なんだろう。どっちを信じたらいいんだろう。
(でも・・・)
僕に入れながら、ハルトはまるで僕が考えていることが分かっているかのように僕に頷きかける。
僕も分かっている。そう、本当は分かってたんだ。

「これからどうする?」
ハルトが僕に聞いた。僕は黙り込んだ。不安。でも、何をすればいいのか分からない。軍の本部は蒸発した。でも、どこかが代わりに本部になっているはずだ。でも、それがどこなのか僕には分からない。ここにいれば、いつかは軍がロボットを回収にくるかもしれない。僕のことは用済みかもしれないし、僕がどこかでのたれ死んでも大したことはないだろう。でも、誰かがロボットを見つけたら、それは多分、大事になりそうな気がする。
「ここにいようと思う」
長い時間をかけて、僕はそう結論を出した。
「誰も来ないのに?」
まるで、それが分かっているかのようにハルトがはっきりと言った。
「来るかもしれないし」
僕が言うと、ハルトが僕の腕を掴んで体を引っ張り上げた。そして言った。
「来るかもしれない。そして、この前みたいに人がいっぱい来て、みんなに非難されて襲われるかもしれない」
確かにその可能性だってある。
「でも、それならそれで、みんな生きてたって分かるから」
「また軍に捕まって、道具になって犯されるようになるかもしれない」
ハルトが僕の目を真っ直ぐ見た。
「もう、ケンジがそんな目に遭うの、僕は嫌だ」
僕だってそうなりたい訳じゃない。でも・・・
「じゃあ、どうすれば・・・」
ハルトに引き寄せられ、僕はぎゅっと抱きしめられた。
「僕と一緒に行こう」
耳元で言われた。
「一緒に・・・彼の地に行こう」
僕には分かっていた。いつか、そう言われるって。
そして、僕はハルトと一緒に歩き出した。

いや、ただ、僕には断ることができなかっただけだ。
断る勇気がなかっただけだ。
それがどういうことなのか、分かっていたのに・・・・・

      


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