ホントの気持ち

10.電話ボックス

洋輔から話があるからって電話で呼びだされたのは、もう8時をまわっていたころだった。
「話があるから、公園まで来て」そういって、洋輔は電話を切った。僕は、なんとなく不安を感じながら、公園へ向かった。まさか公彦との事がばれてるなんて思いもしなかった。

公園のベンチに洋輔がぽつんと座っていた。ほかには誰もいなかった。僕は、洋輔の隣に座った。
「どうしたの?」それだけ言って、洋輔の答えを待った。

「H・・・したの?」
「え?」なにをいったのかわからなかった。いや、ほんとは洋輔が言いたい事、ぜんぶわかったのに、でも、わからないように思っただけだった。
「公彦、言ってたよ。たっちゃんとHしてるって。何回も・・・」
「な、何言ってんだよ。嘘に決まってるだろ」たぶん、ごまかせないことはなんとなくわかっていた。でも、認めるわけにはいかない。
「公彦、知ってたよ。たっちゃんのお尻のカシオペア」
「な、何のことだよ」
「たっちゃんは覚えてないかもしれないけど、たっちゃんのお尻に、ほくろがあるんだよ。Wの字の形にならんでる・・・」洋輔は立ち上がって、自分のお尻を指さした。
「この辺。脱がなきゃわからないとこ・・・」またベンチに座る。
「あのキャンプのとき、言ったよね。たっちゃんのおしりにカシオペアがあるって」
「なんで、公彦がそんなとこのほくろ知ってるんだよ。たっちゃん、公彦となにやってるんだよ!」めずらしく、ほんとにめずらしく洋輔が声を荒げた。
「公彦、たっちゃんはHするとすごく喜ぶって言ってたよ。何回もしてるって。そうなの?」もう、僕には何も言い訳できなかった。そして、言っちゃだめだって思いながら、言ってしまった。
「そっちが先に公彦と付きあってたじゃないか。たから僕、公彦のあとつけて、文句言おうとして」
「僕は公彦とつきあってなんかいない!」
「つきあってたじゃないか。僕が電話しても、用事あるとか言いながら、公彦とデートしてたじゃないか。知ってるんだよ。見たんだよ。公彦と手つないでなかよくしてるとこ!」僕も声が大きくなる。もう、どうしようもなかった。
「僕は、公彦がこの辺よく知らないから、一緒につきあってあげてただけだよ。そりゃ、あいつが手握ってきたこともあったけど、僕はたっちゃんみたいにあいつとHなんかしてない。僕はずっとたっちゃんだけを好きでいたのに、たっちゃんは僕を裏切ったんだ」
「そんなこと、知らないよ。僕だって、ずっと洋輔好きだったのに、お前が公彦なんかとなかよくするからいけないんだ」
「もう、たっちゃんのこと、信じられないよ。もう、僕達、一緒にいられない」
「お前がそう思うんなら勝手にしろ。お前が悪いんだから」こんなこと言っちゃいけないのはわかっているのに、つぎつぎと洋輔を非難する言葉が出てくる。
「お前が公彦との事、ちゃんと話してくれてたらこんなことにならなかったんだ。最初に僕のこと信じてくれなかったのは洋輔じゃないか」
「僕が悪いって言うの?」
「そうさ、お前がこそこそ公彦とつきあうから・・・」
「もういい!」洋輔が叫んだ。夜の街に洋輔の叫びがこだました。
「もう、終わりだよ、僕達・・・もういいから・・・帰って」
「なに勝手言ってんだよ」
「お願いだから・・・僕の前からいなくなってよ。僕を一人にしてよ。早く帰れよ!」
わりきれなかった。自分が悪いってわかってた。でも、洋輔に対して激しい怒りも感じていた。僕は、洋輔を一人残して公園をあとにした。

途中、電話ボックスから公彦に電話した。なんで洋輔に言ったのか、聞きたかった。
「なんか、気がついてたみたいだったから・・・隠すとかえってまずいかなって・・・」
「言わないって約束したろ?」
「約束破ったのは悪いと思うけど・・・洋輔となにかあったの?」
「もういい! もう、お前とは会わないから!」そういうと、僕は受話器をたたきつけた。

電話ボックスのなかでしゃがみこんで、僕は泣いた。結局、僕らはこうなる運命だったのかなって。愛し合ってたのに。たぶん、今でも愛し合ってるのに・・・もう、終わりなんだ。そう思うと涙があふれだした。
翌日、洋輔は学校にこなかった。

        


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