ホントの気持ち

12.入れない部屋

それから、僕もしばらく学校に行けなかった。誰にも会いたくなかった。毎日、病室の前までいったけど、でも部屋に入ることは出来なかった。怖くて入れなかった。公彦もお見舞いに来たらしい。でも、追い返されたようだった。きっと、僕も・・・洋輔に許してもらえるなんて思わなかった。でも、謝りたかった。全部、僕が悪いって。
康弘には、すでに今までのこと、全部メールで伝えていた。康弘からの返信は短かった。「どうするべきかは自分で考えろ」って。康弘も、近々日本に来るらしい。それまでに、なんとか、洋輔に謝りたいと思った。

でも、僕にはその前にやらなきゃならないことがあった。

公彦の家に行くのはずいぶん久しぶりだった。あらかじめ電話しておいたので、公彦は家で待っていた。いつものようにあいつの部屋にあがる。何度もHした部屋。僕が、この部屋でしたことが、洋輔を苦しめたんだ・・・そう思うと、また涙が出そうになる。今日は泣かない。そう決めていた。必死で涙をこらえて、そして公彦に切りだした。
「今日は、洋輔のことで来た」公彦と直接口をきくのはずいぶん久しぶりだった。
「わかってる。たぶん」
「僕は、洋輔を苦しめた。全部僕が悪いと思ってる。そして、僕が本当に好きなのは、洋輔だけだってわかった。だから・・・」
「終わりにする?」
「悪いけど。そうしたい。っていうか、そうしなきゃならない」
「たぶん、そういうことだと思った。洋輔があんなことになっちゃったのは、僕にも責任があると思う。だって、僕、まだ病室に入れてもえらえないし・・・」
「でも、僕がちゃんと洋輔信じてあげてれば、こんなことには・・・」
「僕達、二人とも洋輔のこと、ちゃんと考えてなかったんだね」そういうと、公彦は壁にかけてあった帽子を手に取った。
「これ、返す。もう、僕が持ってるべきものじゃない。それから、写真も」机の上の写真立てから写真を抜き取って、僕に渡す。
「でも、ホントに、僕、達也のこと好きだったんだよ」
「ごめん」ぼくは涙が出そうになるのをこらえた。
「達也、洋輔のお見舞い行った?」
「ううん、洋輔の部屋に入るの怖くて・・・前までは行くんだけど・・・そこから先は足がすくんで入れない」
「そっか。達也も、つらいんだ」そういいながら公彦の目から涙がこぼれた。
「泣かないでよ。僕も泣いちゃいそうになるから」
「もう、用事すんだろ? はやく帰りなよ」
「うん」
「学校では今まで通りでいいよね?」
「うん」
「じゃ、もう2度と誘わないから。洋輔のこと、大事にしてあげて」公彦はそう言うと、僕を部屋から廊下に押しだした。僕はそのまま公彦の家を出た。公彦の気持ちが痛いほどわかった。僕と同じなんだろうと思った。

その足で、僕は洋輔の病院に向かった。今日は、ちゃんと病室に入ろうって思っていた。部屋の前まで来る。やっぱり、怖い。ドアに手をかける。手が震えていた。
部屋の中には、洋輔のほかには誰もいなかった。洋輔だけが、ベッドの上に体を起こして外を眺めていた。
「なにしに来たの?」窓の外を見つめたまま、洋輔が言う。
「謝りたいと思って」声がふるえた。
「何を謝るの?」なんて言ったらいいのか・・・しばらく黙りこんでしまう。
「言ったろ、もう、僕はたっちゃんを信用できないって。もう一緒にいられないって」洋輔の冷たい態度が、僕を押しつぶす。
「もう一回、もう一回だけ、話聞いてくれない?」
「また、僕につらい思いさせたいの?」洋輔はずっと窓の外を見ている。一回もこっちを見てくれない。左手首にまかれた包帯を、右手でさすっていた。
「そんな・・・もうそんなことしないから」
「僕の気持ち、ぜんぜんわかってくれなかったくせに。いまさら信用なんてできないよ」
「でも・・・」
「わるいけど、もうこないで。もう、終わったことだから」それっきり、洋輔は何を言っても答えてくれなかった。僕は病室を出た。

それから何回か病室にいってみたけど、洋輔は会ってくれなかった。手紙をかいて、祐ちゃんに持っていってもらったりもしたけど、僕からの手紙だってわかると、そのまま破り捨てたって。祐ちゃんも説得しようとしてくれたようだけど、僕のことは一切聞こうとしなかったって。

仕方ないのかもしれない。僕が洋輔にしたこと考えたら、それも仕方ないのかもしれない・・・
洋輔は、もっともっと、辛かったはずなんだから・・・

        


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