ホントの気持ち

5.転校生がやってきた

夏休みが終わって、2学期が始まった。みんな、一様に日焼けして、真っ黒になっていた。もちろん、僕と洋輔も。久しぶりに会う友達と、夏休みにしたこととか、話をしながら先生が来るの待った。もちろん、あのキャンプの話は誰にもしなかった。あのことは、僕と洋輔の二人だけの秘密だった。ただ、康弘にだけは、電子メールでキスしたことは伝えた。
先生が来た。先生も、少し日に焼けて黒くなってた。
「先生、黒い〜」誰かが言った。先生は笑った。
「お前らほどじゃないよ、先生は。みんな元気そうだな」先生がみんなの顔を見まわす。そして、正面を向いて言った。
「今日は、新しい仲間を紹介する。さぁ、入りなさい」先生が教室のドアの方に向かって言う。ドアの影から、一人の、よく日に焼けた少年が姿をあらわした。
(かわいいじゃん)正直、そう思った。短く刈った髪の毛に、目がクリっとしてた。先生が黒板に名前を書く。
「広沢 公彦くんだ。ご家族の仕事の都合で、こちらに引っ越して来たんだ。これから、みんなといっしょにこのクラスですごすことになる。仲良くしてやってくれよな。」先生が言う。(公彦くんか・・・)
「それじゃ、自己紹介だ」先生が促す。公彦君が一歩前に出てしゃべり始める。
「広沢 公彦です。いっぱい友達作りたいんで、よろしくお願いします。」そういって、ペコリと頭をさげた。(声もかわいいじゃん)またそんなことを思ってしまう。

「それじゃ、広沢の席はその空いているところだ。」その席は、僕の右の方の少し前。その席が空いてたから、その席の向うの洋輔の姿がよく見えていた。(あの席がふさがっちゃうのか・・・)少し残念に思う。洋輔もふりかえって、僕の方を見る。やっぱりおんなじこと、考えてる・・・

次の休み時間は、転校生の話題で持ちきりだった。前はどこに住んでいたかとか、いまはどこに住んでいるか、とか・・・
僕はそんな話題に少しだけ興味はあったけど、話には加わらなかった。洋輔と二人、いつものように僕の席で、洋輔は僕の前の席に後ろ向きに座って話をしていた。

数日がたって、転校生の公彦くんとも、少ししゃべるようになった。公彦くんは、僕と洋輔に興味を持っていた。誰かから聞いていた。僕達が愛し合ってるって。
「ね、君達愛し合ってるの?」ほんとに、ぶしつけな質問、ちょっとむっとしてしまう。
「君達って、ゲイ?」「うるせーな、関係ないだろ」思わず怒ってしまう。
「あ、ごめん。へんなつもりじゃないんだ。だって、僕もゲイだもん」びっくりした。僕達でさえ、人前で自分達がゲイだって認めたことはなかった。そりゃ、確かに僕らはゲイだと思う。洋輔とキスしたり、触りあったりしたんだから。それに、女の子に興味ないし・・・転校生はあけっぴろげに、人前で平気で言う。ちょっと僕達には理解できない。なんなんだ、こいつ・・・
「だから、うらやましいなって。キスした?」なに、こいつ。洋輔赤くなってるよ。それじゃ、したって言ってるようなもんじゃん、そう思うと、僕も顔が熱くなる。
「したんだ。い〜なぁ」
「なに勝手に決めつけてんだよ」あせりながら言う。
「Hした?」無視して聞いてくる転校生。このままだとヤバイかも。
「お前なんかに関係ないだろ。行こ、洋輔」洋輔の手を引っ張って、僕はその場を逃げ出した。
「なんなんだ? あいつ」歩きながら、洋輔に言う。
「きっとしたんだ。い〜なぁ・・・僕もしたいなぁ」転校生の声が聞こえてくる。みんな、冗談だと思って笑ってる。ほんとに冗談なんだろうか・・・
「何言ってんだ、あいつは」思わずふりかえる僕。洋輔が僕の手を引く。
「いいよ、放っとこうよ」「そうだな」僕らはその場を離れた。逃げ出したんだ。

        


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