ホントの気持ち

6.小さな不安

それが冗談じゃなかったことは、すぐにわかった。あれから、公彦は僕らにまとわりつくようになった。
学校に行くときは、家の近くで僕らを待っていた。授業中、僕が洋輔の方を見ると、必ず公彦と目が会った。そのたびに、公彦はにこっと笑う。洋輔が僕の方を見るときも同じだった。二人のちょうど間の席、その席に公彦が座ったことが、僕らにとってこんなに影響があるとは思わなかった。
休み時間も、帰り道も、公彦は僕らに割り込んできた。僕らが二人になれるのは、放課後だけになった。

「悪いやつじゃないみたいだけどね」洋輔がそう言った。
「そうか? うっとおしいやつだと思うけど」僕は、反論した。
「実は、こないだね、家に来たんだ、公彦。」ちょっとびっくりした。
「ま、まさか、なにかされた?」
「ううん、そんなんじゃないよ。買い物付きあって欲しいって。このあたり、どんな店がどこにあるのかわからないからって」
「なんで僕に言ってくれなかったの?」別にその必要はないわけだけど・・・なんか、ちょっとむっとしてしまう。
「べつに、言う必要もないと思って・・・なんかされたわけでもないし」
「まぁ、そうだけど・・・」その日はずっと、なんか心の中がもやもやしていた。僕の心に小さな不安が生まれた。

「達也くん、ごめんね」いつものように、3人で学校に向かう途中、公彦が言った。
「なんなんだよ?」
「こないだ、洋輔に買い物付きあってもらったこと、怒ってるって聞いたから」

まず、洋輔のこと、洋輔って言ってるのが気に入らなかった。そして、洋輔がこないだのことを公彦に話していたことも気に入らなかった。
「別に」そう答えたきり、僕は黙りこんだ。口をひらいたら、洋輔をなじってしまいそうだったから・・・

「たっちゃん・・・怒ってるの? ごめんね」洋輔が言う。
「もういいって」それだけ言うと、僕は歩くスピードをあげた。

僕の心の中に生まれていた小さな不安。でもそれは、確かに大きくなりつつあった。

        


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