ホントの気持ち

8.公彦の家

それから毎日、僕はいつもよりずっと早く家を出た。あの二人に会いたくなかった。ほかの誰とも会いたくなかった。学校でもだれとも話をしなくなった。洋輔はなにかと僕に話しかけてきた。でも、僕はほとんど返事をしなかった。自分がどうしたいのかわからなかった。でも、洋輔を奪っていった公彦だけは許せなかった。その公彦と仲良くしている洋輔も許せなかった。僕に嘘をついて、デートしている二人が許せなかった。

僕は洋輔は僕を愛してくれてると思ってた。ずっと恋人だと思ってた。だけど・・・
二人の関係が少しづつ変わっていった。あいつのせいだ、と思う。だって、あいつが転校してくるまでは、僕達、うまくいってたもん・・・

だから・・・

僕らは、いつも通り、3人で帰った。僕はずっと黙ったままだった。いつものように途中で別れて、家に向かうふりをした。家には帰らなかった。そのまま二人のあとをつけた。洋輔の家の前でなにか話していた。洋輔が家に入る。公彦が一人で自分の家に向かう。僕は公彦に声をかけた。
「帰ったんじゃないの?」ちょっとおどろいた様子で公彦が言った。
「ちょっと、話があるんだけど。付きあってくれる?」
「じゃ、家においでよ」公彦が言った。僕は無言でうなずいた。

公彦の家には誰もいなかった。自分でカギをあけて入る公彦。そのあとから僕は家に入った。
「誰もいないから、遠慮しないで」そういって奥に進む公彦。僕は公彦について行く。公彦の部屋に入る。
「どうぞ。適当に座って。コーラでいい?」そう言って公彦は出ていった。雑然としてるけど、散らかっているって感じじゃない。机の上には・・・いつの間に撮ったのか、僕と洋輔の写真があった。思わず、手にとって見てしまう。公彦がコーラを持って部屋に戻ってきた。
「その写真、勝手に撮ったんだ。ごめんね」とりあえず、無視して写真を机に戻した。そして、壁にかかっている帽子が目に止まった。
「あっ」おもわず声を出してしまう。絶対に間違いない。洋輔の帽子だった。
「ああ、あれ。洋輔にもらったんだ。いいね、その帽子っていったらあげるって」
「なんで、なんで僕達の邪魔すんだよ」思わず口をついて出てしまう。
「べつに邪魔なんかしてないよ」
「洋輔とつきあってるじゃないか。洋輔は、僕と愛し合ってるのに」
「別に僕は洋輔に無理やりつきあってもらってるわけじゃないし」
「でも、同じ事だろ」自分が何を言っているのか、わからなくなってきていた。
「どうしてさ。洋輔は達也くんのものじゃないだろ。洋輔は僕のこと好きでつきあってくれてるんだ。達也にどうこういわれたくない」公彦は冷静だった。
「洋輔にふられたからって、僕のせいにしないでよ。そうやって、洋輔を自分のものみたいに考えてるから、達也は洋輔に嫌われるんだよ」

公彦の言葉が胸をえぐった。確かに・・・僕は洋輔を自分のものって思ってたかもしれない。僕が・・・洋輔に嫌われた・・・そんな・・・僕は泣きだした。
「だって、だって・・・僕、洋輔が好きなんだもん・・・洋輔を、誰にも渡したくないもん」公彦は少し困った顔をして、僕にティッシュの箱を差し出した。
「ごめん、言い過ぎた」公彦がそう言った。しかし、僕の涙は止まらなかった。
「僕・・・洋輔に嫌われた・・・僕、僕・・・」そんな僕に、急に公彦が抱きついてきた。
「やめろよ」僕は公彦の腕のなかで体をよじった。

        


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