house

2.
いつもの路地の奥で、イーサンはしゃがみ込んで男のペニスを咥えていた。両手は頭の上に上げさせられ、男の大きな手が、両方の手首をひとまとめにして握っている。イーサンは壁に背中を付け、別の男に口の中に押し込まれている。無理矢理、喉の奧の方まで男が入ってくる。イーサンの目から涙がこぼれる。男が交代する。もう一人も奥まで入れてくる。イーサンが嘔吐いても彼等はその行為を止めない。それどころか、にやにや笑いながら続けていた。やがて、一人がイーサンを立たせ、背後から抱き締めた。もう一人がイーサンの服を脱がせる。いや、剥ぎ取った。全裸にされたイーサンは、昼間の路地の奥で押し倒される。地面に這いつくばったイーサンの小さな体に一人が覆い被さり、そのアナルを犯す。もう一人がイーサンの髪の毛を掴み、その口を犯した。
路地の入口から、時々セブがチラリと姿を見せる。イーサンが"仕事"をしているのを確認すると、また道に出て次の客を探す。
その日はあまりその努力は必要なかった。
二人の男達との行為の後、脱がされた服を身に着けたとたん、次の客が路地に入ってきた。その男もイーサンの両手をねじり上げる。
「くっ」
苦痛に声を出す。が、男はそんなことは全く気にしない。何かでイーサンの両手を背中で縛る。そのまま跪かせてしゃぶらせる。男のペニスが勃起すると、男はイーサンを立ち上がらせ、ズボンを下ろす。立ったままアナルを激しく犯す。その勢いでイーサンの体がふらつく。体を曲げて壁に頭を突ける。男はそのままイーサンの中に射精する。男はさっさと路地から立ち去る。すぐにセブがやって来て、イーサンの手を結んでいた細いロープを解く。ようやく、イーサンは男に下ろされたズボンを引っ張り上げる。
「次」
セブが道の方を見た。そこには次の客の人影がある。また二人だ。セブがその二人に近づく。何事か話をし、そして何かを・・・金を受け取る。男達が路地の奥に向かって歩く。そして、一人がイーサンの前に立ち、もう一人は後ろに立った。
後ろの男がイーサンを羽交い締めにした。その途端、前に立っていた男がイーサンの腹を殴った。
「うぐっ」
イーサンが体を屈めようとしたが、後ろの男はがっちりと羽交い締めしたまま動かない。前の男がもう一度、イーサンの腹を殴る。
「ぐっ」
殴られた一瞬、路地の入口からこちらを見ているセブが目に入った。そして今度は頬に拳が飛んできた。またお腹。そして、前後の男が入れ替わる。
目の前の男がニヤリと笑った。次の瞬間、イーサンの股間に激しい痛みが走る。男がイーサンの股間を蹴り上げた。
「うぐ・・・」
後ろの男がイーサンの体を離す。イーサンは地面にうずくまる。羽交い締めにしていた男がそんなイーサンを後ろから蹴り倒した。そして、イーサンの左足を自分の左足で踏みつける。イーサンの右足を足で押し開く。そして、その足首を右足で押さえ付ける。地面に寝そべり、足を開かされたイーサンの股間にもう一人の男が立つ。笑っている。笑いながら、開いたイーサンの股間を蹴りつけた。
2回、3回と蹴りつける。別の男がイーサンの足を踏みつけているので逃れることができない。5回以上股間を蹴り付けられ、イーサンの目からは涙が溢れていた。
「脱げ」
足を踏みつけていた男がイーサンから離れて命じた。イーサンは地面に横たわったまま体を丸め、股間を押さえた。
「脱げ」
男が足を振り上げた。イーサンは体を丸めたまま、片手で服を脱ぎ始めた。もう一方の手はまだ股間を押さえたままだ。男達はイーサンが全裸になるのまで待ち、イーサンが脱いだ服を足で路地の隅に押しやった。
「立て」
男が命じる。イーサンは股間を両手で覆ったまま立ち上がる。今更恥ずかしいわけではない。しかし、この男達が何をしたいのかがイーサンには分かっていた。
「手をどけろ」
イーサンは男の顔を見た。微かに首を横に振る。
「どけろ」
しかし、男は冷たく言う。路地の奥で男の前に立つイーサンの視界にセブの姿が入る。セブは見ているだけだった。ゆっくりと、イーサンは股間を覆っていた手を下ろした。
「足開け」
今度ははっきりと首を左右に振る。
「開け」
男がもう一度言った。が、イーサンは動かなかった。
「その分の金は払ってあるんだ。開け」
つまり、セブはイーサンが何をされるのか分かっていて、その分の割増料金を手に入れている、ということだ。イーサンは今にも泣きそうな顔をしながら、足を開いた。
「もっと開け」
もう少しだけ足を開く。
「もっとだ」
男がイーサンの足に自分の足を掛けて、開かせた。その男が横に離れたその時、もう一人の男がイーサンの股間を靴のつま先で蹴り上げた。
「ぐっ」
声が出なかった。イーサンはしゃがみ込む。
「立て」
しかし、股間の奧の痛みで体が動かない。
「立て」
男の声が少し大きくなる。が、男は無理矢理立たせようとはしなかった。あくまで、イーサンが自分で立ち、自分で足を広げるのを待った。
イーサンがようやく体を伸ばし、立ち上がった。体に力を入れて身構える。が、今度は男はイーサンの肩に両手を置いて体を近づけた。そして次の瞬間、男の膝が股間を蹴り上げた。
「ふぐっ」
もう一人が体を折りかけたイーサンの脇に手を入れ、無理矢理立たせる。そして、また膝が股間に入る。一人がイーサンを無理矢理立たせ、もう一人が何度も股間を蹴り続けた。やがて、イーサンは泡を吹いて気を失った。
路地の入口からその様子を見ていたセブは、気を失い、崩れ落ちたイーサンを見て、さすがに止めに入ろうと思った。が、男達が気を失ったイーサンの頬を平手打ちし、イーサンが頭を動かしたのを見て、思い留まった。
「ひっ」
意識を取り戻したイーサンの口から声が漏れる。イーサンは地面を後退る。
「四つん這いになれ」
イーサンは男達の言いなりになった。なるしかなかった。路地の地面に手を突き、四つん這いになる。男達がイーサンの前と後ろに立つ。そして、また四つん這いのイーサンの股間を蹴り上げる。
「いっ」
地面に突いていた手で股間を覆う。
「手をどけろ」
イーサンは頭を左右に振る。
「手をどけろ」
イーサンの頭の方にいた男が、イーサンの腕を掴んで引っ張り上げた。肩の関節が悲鳴を上げる。額を地面に押し付け、尻を上げる。また蹴りが入る。イーサンの体が跳ね上がる。更に何度もイーサンの股間が蹴り上げられた。
「ほら」
腕を引っ張り上げていた男が少しその手を緩めた。イーサンが顔を上げると、そこに男のペニスがあった。
「しゃぶれ」
イーサンがそれを口に含む。男はイーサンの腕を引っ張り、喉の奥までペニスを差し込んだ。
その間に股間の方にいた男がイーサンの睾丸を握りしめる。
「うぐっ」
男は睾丸を強く握ったまま、イーサンのアナルにペニスを押し込んだ。
「うがぁ」
思わずイーサンは咥えていたペニスを吐き出し、悲鳴を上げ、歯を食いしばった。後ろの男はそのまま無理矢理奥まで入ってくる。前の男がイーサンの腕を引っ張り、こちらも無理矢理咥えさせる。イーサンは前後から力任せに犯された。
睾丸を何度も蹴り上げられ、喉を突かれ、アナルを突かれたイーサンの意識は朦朧としていた。その時だった。
「何してるんだ」
声がした。男達の動きが止まった。イーサンは地面に崩れ落ちる。
「いや、こいつが」
話し声が聞こえる。
「この辺りでガキが体売ってるってことだが」
「俺達は、ただ」
イーサンは、誰かに腕を掴まれて体を引き起こされる。少しぼやけた視界に入ってきたのは警官だった。警官が二人、男達とイーサンの前に立っていた。警官は全裸のイーサンを見下ろす。そして、男達を見る。男達の服装はすでに整っていた。イーサンを前後から犯していた彼等のペニスはもう服の下だ。それに比べ、イーサンは全裸のままだ。
「ちょっと来てもらおう」
「いや、俺達は別に」
警官は男達の前に立ち塞がり、話している。その間にイーサンは路地の入口を見た。が、セブの姿は見えない。警官が来るのを見て逃げたのか、それともどこかに隠れているんだろう。
「まあ、そう言わずに」
男達がぎこちない作り笑いを浮かべながら、警官の手を握り、その手に何かを握らせた。すると、警官は何も言わずに少し身を引いた。
「じゃあ、俺達は」
そして、男達は路地から出ていく。イーサンと二人の警官だけが路地の奧に残っていた。
「お前が噂のガキか」
改めて警官がイーサンを見る。
「浮浪児か?」
痩せた小さな体を見てそう言った。イーサンは腕で口の周りを拭う。
「そうやって口でやったりしてたのか?」
警官の一人がチラリと路地の奥の隅を見た。イーサンの服が落ちている。
「お前のか?」
その警官が服を拾いに行く。
「きたねぇ服だな」
警棒のようなものの先で服を突っついた。
「ダニとかいるんじゃないか?」
イーサンの前の警官が、服を拾いに行った警官の方を見た。その瞬間、イーサンは警官の腕を振り払い、全裸のまま走り出した。
「おい、待て!」
後ろから声が聞こえる。が、イーサンは走った。全裸のまま道に出る。その瞬間左右を見た。が、セブの姿は見えない。
「待て!」
警官が走ってくる。イーサンの左手を掴もうとした。イーサンは右に逃げる。何人もの人が歩いている通りを全裸のまま走った。裸のイーサンを見て、足を止める人もいる。何か言っている人もいる。でも、とにかく走った。足の裏に小石が突き刺さるが、走るのを止めない。
「こら、待て」
警官はずっと追いかけてくる。イーサンは必死で逃げる。が、イーサンのわずかな体力はすぐに尽きそうになる。それでも何とか人の少ない場所まで逃げる。一瞬振り向くとすぐそばまで警官が迫っている。が、もう足が動かない。息が続かない。警官の手がイーサンの腕を掴んだ。
「捕まえたぞ」
警棒のようなものをイーサンの腕に絡め、ねじり上げる。イーサンは腕を取られ、つま先立ちになった。
もう一人の警官が、同じ警棒を左手の手のひらに打ち付けながら近寄ってきた。
「この、クズが」
そして、その警棒をイーサンの首に打ち付けた。
「うぅ」
一瞬、目の前が暗くなった。手足の力が抜け、体が崩れ落ちる。そんなイーサンの体を警官は抱え上げた。

イーサンは警官に抱え上げられ、どこかに運ばれていく。彼の体が乱暴に床に投げ出された。恐らく、あの捕まった所からはさほど離れていない場所だろう。回りを見回す。普通の家のような、でも少し違っていた。窓のカーテンは閉じられ、少し埃の臭いがする。
「お前があそこで体を売ってるというガキか?」
また警棒を手のひらに打ち付けながら警官が尋ねた。
「ど、どうするんですか?」
イーサンは怯え、壁際に後退る。
「質問しているのはこっちだ」
壁に警棒を打ち付ける。その大きな音に小さなイーサンの体がすくみ上がる。だが、イーサンは何も答えなかった。
「まあ、いい。同じことだ」
もう一人が言った。
「いずれにせよ、お前のようなゴミは処分しなくちゃな」
二人はニヤリと笑った。
処分・・・その言葉がイーサンの頭の中で響く。その意味は、恐らく捕まえるとか、留置場に入れるとかという意味では無いだろう。たぶん・・・いや、きっと殺されるということだ、と理解した。彼等の表情がイーサンにそう確信させた。さっきの睾丸を蹴った男達もニヤニヤ笑っていた。この警官達も同じように笑っている。でも、何かが違う。何かが、イーサンに死を感じさせた。
「が、その前に、俺達も楽しませてもらおうか」
上半身を壁にもたれかけ、体をすくめていたイーサンの足を男が掴んだ。そのまま足を引っ張って持ち上げる。イーサンの裸の背中が床に擦れる。男はそのままイーサンの左右の足を広げた。
「ここで稼いでるのか?」
イーサンのアナルを触る。
「それともこっちでか?」
イーサンのペニスを触った。
「そんなペニスじゃ、相手は喜ばないだろ」
もう一人の警官が笑う。そして、ズボンからペニスを取り出した。そんなことを言うだけのことはある。今まで何人もの男に犯されてきたイーサンだが、それほどのものを見たことはほとんどない。いや、これまでイーサンを蹂躙してきたたくさんのペニスの中で、一番かもしれない。足を持ち上げていた男が、その男と入れ替わった。
「いきなり壊すなよ」
「どうせ処分するんだ、いいだろ?」
男がイーサンの太ももの裏を押し上げ、そこににじり寄る。
「や、やめて・・・」
イーサンは微かな抵抗を試みる。
「慣れてんだろ?」
そして、その巨根をイーサンのアナルに押し付けた。
「い、いきなりは、無理!」
そういった途端、男が無理矢理イーサンに入ってきた。頭の中にメリメリという音が響いた気がする。
「ぎゃぁ」
抗おうとするイーサンの体を、腕を、男達が押さえ付ける。イーサンは二人の警官に押さえ付けられ、巨大なもので犯された。
イーサンのアナルが裂けた。男に使われ始めた頃、その痛みは何度か経験した。が、ここ数年はなかった。その痛みが、イーサンを襲う。イーサンが叫ぶ。頭を振る。しかし、男は笑いながら更に奧に入ってくる。そんな男が、イーサンの脇の下に手を入れた。そして、ひょいとその体を抱え上げる。そのまま立ち上がり、腰を振る。イーサンのアナルに更に深く入ってくる。
「うがぁ」
痛みからか、イーサンはその男にしがみついた。その時、イーサンのアナルに別の何かが触れた。イーサンは後ろを振り返る。もう一人の警官がイーサンの後ろに立っていた。そして、今イーサンを犯している男ほどではないが、それでも十分巨根と言われそうなペニスを犯されているイーサンのアナルにあてがっていた。
「いくぞ」
後ろから、その男がイーサンを突き上げた。
「ぎゃあぁぁ」
痛みがイーサンを襲う。二人の男が、二つの巨根がイーサンに無理矢理入ってきた。彼等は交互に、あるいは同時に腰を動かし、イーサンを突き上げる。その痛みから逃げようと男にしがみつくと、男はその体をもう一人に押し付ける。イーサンが仰け反ると、前の男が突き上げる。やがて、前から犯している男が、二本のペニスをくわえ込み、引き裂かれているイーサンのアナルに左右の手の指を入れた。そのまま、イーサンのアナルをこじ開ける。更に痛みが増す。後ろから犯している男が、イーサンのアナルに警棒を押し込んだ。二本のペニスと警棒に引き裂かれたアナルを犯されながら、イーサンの意識は朦朧としていた。

「ここで何をしている」
その声が聞こえた時、イーサンはさっきの路地での警官の声を思い出した。あの時に戻ったのかと思った。二人の警官に追われ、全裸で逃げ、二本の巨根に犯されたのは、夢だったのかと一瞬思った。が、アナルの痛みは夢ではない。そして、また声が聞こえた。
「ここは私の別宅だ。貴様等は・・・」
そして、イーサンの視界に立派な身なりをした初老の男が現れた。
「何をしているんだ、こんな子供に」
警官二人はイーサンのアナルからペニスを引き抜いた。
「我々は、職務を全うしているだけだ。邪魔立てするなら」
「バッジを見せなさい。最近、偽警官が多いそうだからな」
初老の男が二人の警官に詰め寄った。
「すぐ、ここから立ち去りなさい。なんなら、私の知り合いの警視に来てもらおうか?」
警官二人はちらりと顔を見合わせた。
「ちっ」
小さく舌打ちし、無言で服を着て、イーサンらに背を向けた。初老の男は黙ってそれを見ていた。
やがて、警官はそこから出て行った。それを確認すると、初老の男は床でぐったりとしているイーサンの横にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
しかし、イーサンは反応しない。焦点の定まらないうつろな目が、ふわふわと虚空をさまよっている。
「スティーブンス」
初老の男が振り向いて声を上げた。
「はい、旦那様」
部屋の入口に巨漢の男が姿を現した。
「この子を屋敷まで」
「かしこまりました」
初老の男が、身にまとっていた外套を脱ぎ、イーサンの体に掛けた。スティーブンスは、その外套ごとイーサンを抱え上げた。
(また連れて行かれるんだ・・・今度はもう・・・死ぬんだろうな)
微かに残る意識の中で、イーサンはそう思った。
そして、落ちていく意識に身を任せた。


最初に感じたのは臭いだ。
いや、臭いを感じなかったというべきか。あの、救貧院の埃くさい臭い、そして、どこか饐えたような臭いを感じない。イーサンは恐る恐る目を開いた。
白かった。
一瞬、まぶしささえ感じるような白さだった。次に感じたのが体の奥の痛み。それが意識の表面に浮かんでくる。
「い・・・」
体に力が入らない。誰かがイーサンを覗き込んだ。知らない顔だった。
「目が覚めたかい?」
きちんとなでつけられた髪。形が整えられた髭。そんな顔がイーサンを覗き込んでいた。
「ぼ・・・く」
イーサンは喋ろうとする。が、上手く言葉が出て来ない。
「まだ麻酔が効いているから喋れないだろう。もう少し寝ていなさい」
その人が言った。そして、その奧からあの初老の男が顔を覗かせた。
「大丈夫ですか?」
髭の男が初老の男の方を振り返り、何事か話をしている。聞こえているような、聞こえていないような、そんな感覚。そして、イーサンは再び目を閉じた。

次に目を覚ましたとき、全身に痛みを感じた。さっき感じたのよりも、かなり強い痛みだ。
「うぅ・・・」
イーサンが唸ると、誰かがその手を取った。そして、話し掛けられる。
「麻酔が覚めてきているから痛むだろうけど」
そして、しばらくの沈黙。
「うん、安定してる。もう大丈夫だよ」
(いや、全然大丈夫じゃない)
痛みをこらえながらイーサンは思った。
「かなり痛めつけられていたようだからね。特に下半身が」
イーサンは思い出す。玉を散々蹴られ、アナルを引き裂かれた。思わず、手で睾丸を探りに行く。
「だめだよ、触っちゃ」
その手を止められる。髭の男がイーサンの手を握っていた。
「僕の・・・からだ・・・」
「酷い目にあったね。睾丸が腫れ上がっていたよ」
(だろうな)
その痛みの7割くらいがたぶん睾丸の痛みだろう。残り3割は裂けたアナルの痛み。それに比べたら、他の痛みは大したことはない。
「今日は痛むだろうけど、明日になれば腫れも引いて、痛みも治まると思うよ」
(明日・・・明日って?)
イーサンは少し動揺した。
(何日、あそこに帰ってないんだろう)
慌てて、髭の男に尋ねた。
「僕、ここに何日いたんですか?」
すると、髭の男が答える。
「今日で3日目だよ」
イーサンはがばっと体を起こした。その途端、体に痛みが押し寄せる。
「まだ動いちゃだめだ。やっと腫れも引いてきたところなんだし」
確かに動けない程の痛みだ。でも、イーサンは言葉を絞り出す。
「でも・・・僕、帰らないと」
救貧院に帰らないと、セブやジェイ、そしてヨハンに何を言われるか分からない。リアムの事も心配だ。
「だめです。まだ帰す訳には行きません」
初老の男が立っていた。
「あと3日はここにいてもらいます」
「でも・・・」
「そんなにあそこに戻りたいのですか?」
一瞬戸惑う。しかし、イーサンにとって、あの救貧院が、あんな救貧院が唯一の戻るべき場所だ。
「あなたはあそこで体を売らさせられていると聞いています。またそういう生活に戻りたいのですか?」
セブの顔が浮かぶ。イーサンがいなくなったことで、恐らく、セブの稼ぎがなくなっているだろう。それはつまり、イーサンが戻ると、セブの怒りがイーサンに向かう、ということだ。それでも、イーサンはあそこに戻らなきゃならないと思う。
「それでも、帰らないと」
「困りましたねぇ」
初老の男が言う。
「では、明日の夜までは、ここにいて、体を治して下さい。明後日の朝になったら、あなたの思う通りになさい」
「ありがとう・・・ございます」
イーサンにとって、自分の意見が聞き入れられたことなど、ここ数年でなかったことだ。いつもジェイやセブ、ヨハンに命じられ、あるいは無理矢理、いろんなことをさせられ、いろんなことを出来ずに過ごしてきた。
「私達はあなたの置かれている環境がいいとは思いません。でも、それがあなたにとって大切なら、やむを得ませんね」
髭の男も頷いていた。
「その代わり、明日の夜まではしっかり体を治してください」
「はい」
何も強要されない。そして、イーサンのことを考えてくれている。ずいぶん長い間、そんな経験はなかった。イーサンは少し安心した。

髭の男はいろいろと治療をしてくれた。救貧院では見たこともないような器具やいろいろな薬、そういうものをイーサンの為に使ってくれる。初老の男も何度もイーサンの様子を見に来てくれた。しかし、そんな生活はあっという間に過ぎ去った。
ようやく体を動かせるようになり、歩くことも出来るようになった。そして、その場所・・・初老の男の屋敷・・・から救貧院に戻る日がやって来た。ここに連れてこられた時、イーサンは全裸だった。そんなイーサンの体に合った真新しい服が与えられた。
「もし、あなたが戻りたいと思ったなら、いつでもここに戻ってきてください」
別れ際、初老の男がそう言った。髭の男は薬の包みを手渡してくれた。そして、イーサンはスティーブンスが操る馬車で、あの救貧院へと戻って行った。


      


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