(大丈夫・・・もちろん?)
幸久はその栗山の言葉に混乱していた。あの表情、あの言葉、あの言い方、あの雰囲気がさっきのあのこととは頭の中で繋がらない。
(やっぱり夢だったんだろうか)
幸久は左手の手首をさする。
(いや・・・そんなことは・・・)
あれが夢で、和久はさっき幸久が目を覚ましたような部屋で眠っているんだとしたら、どれほど安心するだろう。しかし、そう考えれば考えるほど、幸久の心に暗い影が広がっていく。
(早く、早く和久に)
柏木の歩みが遅く感じる。とはいえ、急かす訳にはいかない、焦る気持ちを抑える。心の中の影が広がる。途中で角を曲がる。その先は階段で、1階分下に降りた。
(ということは、ここが1階だ)
この階に和久がいるんだとしたら、逃げ出すには都合がいい。さっき2階から見た中庭の柵は、それほど高いものではなかった。たぶん、あれなら乗り越えられる。中庭の「向こう側」はいつも部屋の掃除で回っていた。だから、どう逃げればいいのかも大体分かる。和久を連れ出して、あの庭の柵さえ越えれば・・・
幸久は、さっき見下ろした光景と、今歩いている方向から、大体の見取り図を頭の中で描いた。
(ここで曲がって階段を降りて、だから今はこういう方向に歩いている筈だから)
廊下が鉤の手に曲がっている。そして、その先、突き当たりに扉があった。
「こちらです」
柏木が振り向いて言った。そんな柏木に栗山が懐から鍵を取り出し、渡す。
(和久・・・)
扉が開いた。幸久は、栗山と柏木を押しのけ、部屋に飛び込みたい衝動を抑えた。
暗い部屋だった。ほとんど灯りはない。幸久の目はまだ暗いところに慣れておらず、ほとんど何も見えなかった。
息遣いが聞こえる。それも、荒い息遣い。人影が見えた。
「和久?」
その人影は和久ではない。明らかに、和久より大きい、大人の人影だった。
「和久?」
幸久はもう一度声をかける。すると、その人影の向こうで何かが動いた。いや、動いていた何かが一瞬止まった。その人影は大きな人影の半分くらいの大きさだった。一瞬止まって、そして、その大きな人影の向こうから、おそらく頭をこちらに覗かせた。
ようやく目が慣れてきた幸久は、その小さな人影が和久だということに気が付いた。そして、その手前の大きな人影が全裸でこちらに背を向けて立っているということも。
和久の影は、また大きな人影の向こう側に消える。いや、よく見ると、その向こうで頭らしき物が動いている。幸久は二人の人影の横に回り込み、近づいた。和久をよく見ようと少し腰を落とした。
その時、照明が点った。
目の前に和久がいた。和久は頭を前後に動かしている。そして、その口は背を向けて立っていた男の陰茎を咥えていた。
「何してるんだ、やめろ!」
幸久は和久の頭を押さえて、男の股間から引き剥がす。和久は尻餅をつくように床に座り込んだ。そして、幸久を見上げる。
「にい・・・さま」
体を起こす。幸久はそんな和久に手を差し伸べる。が、和久はその手に掴まらなかった。和久は体を起こすと、また男の股間の前にしゃがみ込んだ。
「やめろ!」
幸久の方を横目で見る。しかし、その口は男の陰茎を咥えている。そのまま、幸久を見たまま、和久は頭を前後に動かし始めた。まるで、兄に口淫しているところを見せつけるようだった。
「やめろって」
再び、幸久が和久に近寄ろうとした。その時、和久は両腕を男の腰から背中に回し、まるで引き剥がされるのを拒否するかのように、男の体をぎゅっと抱き締めた。
その時、別の男が近づいて来た。その男は幸久などその場にいないかのように和久に近づき、その背中に手を置いた。和久は男を抱き締めたまま腰を上げ、近づいて来た男の方に尻を向けた。男は和久の後ろに歩み寄り、彼のお尻に腰を押し付けた。
「んん」
幸久は動けなかった。
弟がしていること・・・さっきは、熊田に押さえ付けられ、犯されていた。でも今は誰も押さえ付けてなどいない。幸久がそうだったように鎖に縛り付けられている訳でもない。自ら男の体に腕を回し、兄の方を見、兄を見ながらその行為を続けている。兄に見られながら喘ぎ声を上げている。
そして、気が付いた。その広い部屋の壁際には、何人もの男が全裸で立っている。同じ使用人として働いていた顔が何人もいた。まるで順番待ちをするように・・・いや、確かに彼等は順番待ちをしている。和久が咥えていた男が体を震わせ、そして和久の前を離れる。和久は腕で口を拭う。壁際の、和久に一番近い所に立っていた男が和久に近づき、その前に立つ。そして、和久は当たり前のように、その男の陰茎を口に含んだ。
「や、やめろ」
金縛りにでもあったかのように身動き出来ないでいた幸久が声を絞り出した。
「やめろ・・・」
そして、栗山を振り返った。
「やめさせて下さい、お願いです。やめさせて!」
すると、栗山は柏木に声をかけた。
「柏木」
「は」
柏木が和久に近づく。そして、和久の後ろからその尻に腰を打ち付けている男の肩に手を置いた。その男は柏木を見て、そして和久から離れた。
「和久・・・」
幸久は和久に近づこうとした。しかし、今度は柏木がズボンを下ろした。
「えっ」
そして、勃起した陰茎を和久の肛門に押し付けた。
「あぁ」
和久の喘ぎ声と共に、それは和久の中に入っていった。
「や・・・やめろ・・・」
そんな幸久の背後に別の男が二人、近づいていた。彼等は幸久の両腕を抱きかかえる。
「な、なにするんですか、離して下さい」
幸久は抗う。が、男達はその手を離さない。
「相手があなただったら、どうするんでしょうね」
栗山が幸久の正面に立った。そして、幸久のズボンを下ろす。
「やめて下さい」
しかし、幸久は下半身を晒される。
「ほら、和久さん」
栗山が和久を呼ぶ。
「は、はぁ」
溜め息とも呻き声とも喘ぎ声とも言えない声が和久の喉から漏れる。口を開いたまま、幸久の方に向き直る。
「やめろ・・・」
小さな声で幸久が言う。が、和久は徐々に幸久に近づいて来る。その後ろで、柏木も和久に入れたまま付いて来ている。
「に、にい、さまぁ」
ニタッと笑う。そして、幸久の方に手を差し伸べる。
「和久、やめろ」
体を揺らす。が、腕を掴まれた幸久は逃げることが出来ない。
「にいさまぁ」
和久が幸久の股間に顔を寄せる。栗山が目配せすると、柏木が和久の体から離れた。和久が幸久の前にしゃがみ込む。
「やめて・・・」
和久は幸久の陰茎をつまんだ。そして、顔を上げる。
「にいさまぁ」
顔は笑ったままだった。
「和久、そんなこと、やめろ」
「へへへ」
そして、和久が幸久の陰茎を口に含んだ。
「やめろぉ」
幸久が叫び、体を激しく揺すった。和久はそんな幸久の腰に手を回し、ぎゅっと引き寄せた。唇が幸久の陰茎を包み込み、舌がそこに刺激を与える。
「和久・・・やめてくれ・・・頼むから・・・」
幸久の声が徐々に小さくなる。その間も、和久はずっと兄を見上げながら、頭を動かしていた。
(父様、何故、こんなことに)
幸久は目をぎゅっと瞑って考えていた。
(何故、僕等はこんな目にあっているのですか)
それは、股間に加えられている刺激から気を反らすためとはいえ、今の彼の心を深く抉っていた。
(どうして僕等を誰も助けて下さらないのですか)
心が落ちていくのを感じながら、でも、その考えを止めると、目の前の現実、和久に口淫されている現実を直視しなければならない。それもまた、彼の心を抉るのに変わりはない。でも、和久は今、ここにいる。一緒にいる。
(僕は嫡男なのだから、弟を守らなければならないんだ)
でも、心が揺らぐ。
(父様・・・僕は、もう・・・)
幸久の腕に痛みが走った。目を開いてそこを見る。栗山が幸久の左腕に注射器をあてがっていた。
「やめろっ」
体を揺さぶる。しかし、栗山は注射器の中の液体を、幸久の体の中に押し込んだ。
「やめろ!!」
注射器が腕から抜かれる。栗山はそれを柏木に渡す。そして、幸久に顔を寄せた。
「私はあなたを気に入っているのですよ」
それだけ言って離れる。股間には和久がしがみついたままだ。
(そうだ。僕を気に入っているから、和久がこんな目に)
自分さえいなければ、きっと、自分の代わりに和久を気に入ってくれるのではないかと思った。
その時、何かが幸久の体の中ではじけた。
(えっ)
それは体中に波のように広がっていく。それがなんなのかは分からない。その波は徐々に大きくなって、幸久の体を何度も飲み込もうとする。じっとしていられない感じ。体がピリピリとざわめきだち、腕が、足が動き出す。
「あああ」
柏木がしゃがみ込んでいる和久の脇に手を差し込んで立たせた。その体を反転させる。そして、頭を押さえる。幸久の前に、和久の尻があった。
(な、なにを・・・)
何をさせようとしたのかは分からない。ただ、体が勝手に動いた。いつのまにか、腕を押さえていた二人はいなくなっていた。体が勝手に動いて、和久の尻に腰を密着させた。背中に覆い被さるように体を倒す。腕を和久のお腹に回し、ぎゅっと抱き締める。
「にい、さま」
和久が呟く。たぶん、それは幸久にしか聞こえていない。
「はぁ・・・はぁ・・・」
幸久の呼吸が荒く、そして体が熱くなっていた。
「ああぁ」
幸久の口から呻き声が漏れる。腰を和久に押し付ける。が、またすぐに引く。幸久の体は、その肛門に挿入したいという欲求で突き動かされていた。しかし、幸久の理性はそれを拒む。和久に、弟に抱き付き、体を密着させたところでなんとか理性は食い止めようとしていた。
「あぁ、にいさま」
和久がお尻を押し付けてくる。幸久の理性が飛んでしまいそうだ。
「ああ、駄目だ」
和久が一旦お尻を押し付ける力を緩めた。しかし、すぐにまた押し付けてくる。それを繰り返す。押し付ける度に、少しずつ腰をくねらせる。まるで、幸久の陰茎がどこにあるのか探しているかのようだ。
「ああ、駄目だ、駄目だ」
幸久はうわごとのように呟き続ける。そして、ついに和久が幸久の陰茎を探り当てた。
「ああ、だめぇ」
そう大きな声を出したのは幸久だった。和久の尻が幸久の陰茎を探り当てると、和久自らそれを肛門に受け入れようとした。そしてその時、幸久の欲求をギリギリで食い止めていた彼の意識がついに崩壊した。幸久は和久の肛門に陰茎を突き入れ、腰を打ち付けた。
「ああ、にいさま!」
和久の顔のすぐ後ろで鼻息荒く、体を揺さぶった。初めての挿入、それも弟に。忌むべき状況ではあったが、幸久は体中に幸福を感じていた。その時、左腕に2本目の注射をされたことに全く気が付かない程に。
幸久は夢中で腰を動かしていた。目の前の尻が弟のものであることなど、彼の頭からは消え去っていた。ただ、そうすることで得られる快感に身を任せていた。多くの男達に取り巻かれ、皆の前で犯している。初めての挿入ではあったが、本能が彼を導いた。二人は、彼等兄弟は涎を垂らしながら、体を貪り、貪られた。
やがて、幸久は和久の肛門の中で射精した。
その途端、幸久の体から力が抜けた。そのまま、尻餅をつくように床に座り込んだ。彼の陰茎からは、まだ精液が溢れている。そんな状態で床に座り込み、後ろに手を突いて座った。体がしびれているようだ。どこも動かせない。どこも動かない。放心したかのような顔で、そのまま座り込んだ。
そんな幸久の腕を、さっきの二人が掴む。そしてそのまま、幸久はどこかに連れて行かれた。
部屋に残った和久には、すでに別の男が挿入していた。口も誰かの陰茎を咥えていた。そのまま尻を突かれる。その顔からは、先程幸久に見せた、にやけたような笑顔は消えていた。無表情に咥え、無表情のまま突かれる。時折、喉から喘ぎ声が漏れる。それでも表情は戻らない。
誰かが和久の腕に、またあの注射を打つ。そして、和久の顔に呆けたような表情が戻った。
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