和久の中に入れている。
和久に咥えられている。
股間を中心にむずむずするような、ピリピリするような感覚。それが体中に広がっていく。じっとしていられない。体をひねる。股間が痛いほど勃起している。
「ああ、和久」
無意識に弟の名前を呼ぶ。その声にどのような感情が込もっていたのだろうか。陰茎を掴もうと手を動かす。が、動かない。
「あぁ」
体をひねる。体が動かない。体中がピリピリする。
「和久ぁ!」



目が覚めた。ベッドの天蓋が目に入る。あの部屋だ。和久の所に連れて行かれる前に眠っていた、あの部屋だ。あの部屋で、幸久は全裸で仰向けに眠っていた。
「あぁ」
体がむずむずする。体をひねろうとする。しかし、体は動かない。手は横に広げている。その手も動かない。体中がピリピリしている。陰茎が勃起している。体を動かそうとする度に、体中に何かが這い回るように感じる。少し不快な、それでいて声が出てしまうような感覚。
「うぅぅ」
ほんのわずか体を動かしただけで、その感覚が全身を襲う。
「お目覚めですか」
声の方に目を向ける。柏木が立っていた。
「あ、た、助けて」
そんな言葉が口を突いて出た。柏木が近づいて来た。そして、軽く頬に触れる。その瞬間、あの感覚が激しくなり、幸久の全身を覆う。
「ふあっ」
体がベッドの上で跳びはねる。その刺激がさらにあの感覚を強める。
「やはりご兄弟、幸久様もお感じになる体質のようですね」
しかし、その言葉はほとんど幸久の耳には入らない。幸久は荒い息をし、体の奥から湧き上がる衝動を抑えるのに必死だった。
「あれも同じように耐えてましたが、すぐに堕ちましたよ」
「あ、あれって」
幸久が尋ねた。が、柏木は何も言わず、そのまま部屋から出て行ってしまった。
幸久には分かっていた。あれというのは、和久のことなんだと。和久も今の幸久と同じように体の奥から突き上げてくる衝動に耐え、しかし、それに、その衝動に飲み込まれてしまったのだろう、と。
その衝動がさらに高まる。
「ああ、和久・・・」
それは、つまり和久の肛門を犯したいという衝動の表れだった。全身がそういう衝動に飲み込まれそうだ。
「あああ」
そしてドアが開く。柏木と共に、栗山が入ってきた。
「どうですか、気分は」
栗山がそう言いながら、幸久に近づく。幸久はまた体に触れられるのではないかと怯えた。今触れられたら、あの衝動を口にしてしまいそうだ。だが、栗山はベッドの脇に立ったまま、幸久を見下ろすだけだった。
「うぅ」
それはそれで拷問のようだ。衝動は口にしてはならない。でも、もう、はち切れそうなくらいにその衝動が体の中で暴れ回っている。じっとしてはいられない。体が自由に動くなら、ベッドの上でのたうち回っていることだろう。いや、それどころか、和久がいた部屋まで走り、和久を抱き締め、またあのように・・・
「あああ」
一際大きな声を上げ、頭を左右に振る。
(と、父様・・・助けて・・・ください)
心の中で叫ぶ。そして思う。
(和久も同じように苦しいんだろうか)
すると、その幸久の心の中の問いに答えるように栗山が言った。
「あれは、もう、受け入れ、悦び、楽しんでいますよ」
一瞬だけ、幸久の動きが止まる。栗山の顔を見る。そして、弟の呆けたような表情を思い出す。
(ああ、父様・・・)
「今が一番苦しい時です。でも、これがあれば楽になりますよ」
栗山が右手を幸久に差し出した。注射器が握られていた。

「あ・・・あぁぁ」
幸久はその注射器が欲しいかのように声を出し、首を持ち上げる。
(だめだ、だめだ)
しかし、理性は拒否する。栗山が幸久の顔を覗き込むように顔を近づけた。
「おや、目は欲しがってはいないようですね」
そして、幸久の口に唇を押し付けた。
「む、むふぅ」
その唇の感触だけで、幸久は射精した。ベッドの上で体が仰け反る。しかし、栗山は唇を押し付けたままだ。そのまま舌で幸久の口をこじ開ける。
「ふぐっ」
無理矢理だった。しかし、幸久の体もそれに答える。口に入ってきた栗山の舌に、自分の舌を絡ませていた。そのまま口をむさぼり合う。栗山の右手が幸久の裸の胸を這い回る。また体が仰け反る。
急に、栗山が幸久から離れた。
「ここまでです」
そして一歩下がる。
「あ、ああ・・・もっと」
そして、幸久は次の言葉を飲み込む。
「駄目です。これで終わりです。あなたが続きをしたいと懇願するなら考えても構いませんが」
栗山の顔付きが変わっていた。幸久は理解した。
(僕は、もう・・・堕ちたんだ)
理性が衝動に負けた瞬間、兄弟が二人とも性奴に堕ちた瞬間だった。
「して・・・ください」
喘ぎながら、幸久は懇願した。
「ふん、いいでしょう」
栗山が全裸になった。股間は既に勃起している。ベッドに上がり、動けない幸久の足下に座る。柏木がその足を縛っていた縄を解く。腕以外は動かせるようになる。栗山は幸久の足を開かせ、その間に座る。両方の太ももに左右の手を置き、さすった。
「あぁあ」
幸久は仰け反る。栗山は更に胸の方まで手を這わせる。
「あ、あ」
幸久の胸が上下する。呼吸が荒い。体が熱い。
そして、栗山は幸久の足を持ち上げた。勃起している陰茎とともに、肛門が丸見えになった。
「さあ、私の物におなりなさい」
柏木が何か小さなものを栗山に渡す。栗山はその貝殻状の入れ物を開き、中身を唾液で湿らせた指に取った。
「うっ」
栗山の指が入ってくる。違和感。そしてしびれるような感触。それが体に広がる。
「くっ」
少し痛みがある。しかし、その痛みさえも、更に体に広がるあの衝動の一部にすぎなかった。栗山が幸久の股間ににじり寄る。
「さあ、行きますよ」
そして、栗山が入ってきた。

「いぎぃ」
痛みだった。衝動を超えるような痛み。体を揺さぶり、その痛みから逃れようとする。しかし、栗山は幸久の両肩を押さえ、更に体を押し付ける。めりめりと、栗山が入ってくる。
「うがぁ」
首を左右に振る。肛門の、裂けるような痛みが体中に広がる。あの衝動が消えていく。
「い、痛い、やめて下さい」
幸久はのしかかる栗山に懇願した。が、栗山は薄笑いを浮かべている。
「あなたが望んだことです」
そして、更に奥へと進める。やがて、幸久の尻に栗山の腰が密着した。
「くぅぅ」
幸久が呻く。それを見て、栗山は一旦腰を引いた。そしてあの貝殻の中身を更に陰茎に塗り付けた。
「うがぁ」
そのまま幸久の奥まで進む。足に力が入る。しかし、栗山はその足を握り、持ち上げ、更に奥に入れる。
「旦那様、お使いになりますか」
傍らに立っていた柏木が、小さな銀色の皿に乗せた注射器を栗山に差し出す。
「いや、いい」
すっと柏木が下がる。
(あの注射だ)
痛みの中で幸久はそれを見た。
(あれを使えば)
また体がピリピリとして、こうして犯されているのも気持ち良くなる筈だ。
「あ、あ・・・」
固定されている左手の手のひらを、柏木の方に向け、伸ばせるだけ伸ばす。
「欲しいのですか、あれを」
栗山が幸久を見下ろした。体は頷こうとした。
(あれを使われたら、その時こそ、僕は壊れる)
ありったけの理性で頷こうとする体を押し留めた。しかし、それは同時に和久はもう壊されていたことを認めることになる、ということも理解していた。
(父様・・・助けて)
栗山が腰を動かし始めた。少し慣れて来たのか、痛みが引いていく。
(ああ・・・)
助かったと思った。しかし、引いていく痛みと入れ替わりに、あの衝動が蘇ってきた。
「あぁ」
体が反応する。その衝動は幸久の理性を軽く乗り越えた。栗山の動きに合わせて体をよじり、喘ぎ声を上げる。
「感じてきましたか」
更に栗山は突く。痛みはまだ残っている。が、それはまるで香辛料のように、幸久の体に広がる衝動を高めていく。
「ああぁ」
いつのまにか腕の拘束が解かれていた。幸久はそれに気付くこともなく、腕を栗山の首に回していた。体を持ち上げ、栗山に唇を押し付ける。栗山が幸久の口に舌を押し込む。腰を動かしながら、体の奥まで突かれながら、舌でかき回しながら、口の中を犯されながら、体に痕がつく位、栗山を強く抱き締めながら、幸久は喘ぎ、そして射精した。



目が覚めた。
幸久は周囲を見回す。あの部屋のままだった。もう栗山も柏木もいない。部屋には幸久一人だけだった。体を起こす。全裸のままだ。そのままベッドを降りて、体を見回す。見える部分は特に変わりない。左手で肛門を触る。心なしか膨らんでいるように思える。とはいえ、自分の肛門など触ったことはない。いつもそうなのか、あるいはあの、栗山にされたことによってそうなっているのかは判断出来ない。
両手で体のあちこちを擦ってみる。もう、あのピリピリした感覚は感じない。体の奥から湧き上がっていたあの衝動もなくなっている。
(たぶん、あの薬)
あの時のことを思い出す。
和久に咥えられながら、腕に感じた痛み。左腕のその部分を見てみる。小さく赤くなっている。
(たぶん、あの薬のせいで・・・されたくなったんだ)
あの時の精神状態を思い出すのは難しかった。思い出せるのは、ただ、されたかったこと。そして、苦しかったこと。それだけだ。
(でも、今は・・・)
もう一度、体を擦ってみた。
(大丈夫だ。ということは、あの薬、効果はいずれ切れて、元に戻るってことだ)
和久の顔を思い出す。にやっと笑って幸久の陰茎を咥えていた、あの顔。
(あれも、きっと、今はもう)
ドアに向かう。思った通り、鍵がかかっている。窓に近づく。こっちの鍵は外せるが、壁を伝って地面に降りられるような、そんな足踏み場になりそうなものは何もない。部屋を見回す。天蓋とその下のベッド、そして、部屋の隅に椅子が一脚。他にはなにもない。
幸久は天蓋を支える柱に手をかけ、揺すってみた。かなりしっかりしている。
(これなら・・・)
ベッドからシーツを剥がす。その一端を、最も窓に近い天蓋の柱に結び付けた。シーツを伸ばしてみる。窓には届いたが、ほぼギリギリだ。
(これじゃ、降りられない)
ベッドに上がって、飛び上がってみる。天蓋に手が触れた。もう一度飛び上がり、天蓋を掴む。すると、天蓋は固定されていた訳ではなく、簡単に剥がすことが出来た。それを先程のシーツの先に結び付ける。窓を開く。天蓋を窓から外に垂らす。地面までの高さの半分より少し下くらいまで垂れ下がる。その高さなら飛び降りても大丈夫そうだ。
(よし)
一旦天蓋を引っ張り上げる。椅子をドアの前に動かして、多少なりとも部屋に入りにくくする。そして、その椅子に座って考えた。
(確か、あの部屋はここを出て、途中で1回曲がって1階に降りて、だから・・・)
立ち上がって窓際に行く。そこから出来る限り身を乗り出して、その部屋がありそうな方を見てみる。
(1階だから)
そこには同じような窓が等間隔で並んでいた。
(あそこは暗かったけど、途中で電気が点いたから)
カーテンは閉まっている筈だ。しかし、ここからでは窓の向こうのカーテンまでは分からない。
(でも、たぶんあの辺りだ)
もう一度中庭を見る。柵があって、今いるのは柵のこちら側だ。向こう側には何人か使用人が作業をしている。でも、こちら側には誰もいない。目を凝らしてみる。柵からこの奥の方の建物までの間には、別の柵とかそういうものはなさそうだ。つまり、地面まで降りることさえ出来れば、あの窓の所までは行けるはずだ。
(よし)
ベッドのところに引き返す。丸めた天蓋を抱えて窓に近づく。
(和久、待ってろ)
窓から天蓋を垂らした。そして、その天蓋に掴まり、2階の窓から壁を下りた。
意外な程簡単に地面まで下りることが出来た。少なくとも、下りている間に向こう側の使用人に見つかってはいないようだ。でも、見上げると窓の外に垂れ下がった天蓋が風に揺れている。誰かがあれに気が付くのは時間の問題だ。急いであの部屋とおぼしき窓の方に向かう。その途中の窓の所はしゃがんで、窓の中に人がいたとしても見つからないようにする。その窓にたどり着く。案の定、その窓は他の窓とは違って外から中が全く見えない。ここで間違いない。
窓の前の庭に出る。手頃な大きさの石はいくらでもあった。それを3つ程、窓のすぐ下に運ぶ。そして、深呼吸をした。
(和久、今行くからな)
幸久は立ち上がり、窓の下の石を一つ抱えた。そのまま2歩下がって、石を頭の上に振り上げた。

窓は簡単には割れないんじゃないかと思っていた。
しかし、あっけなく、一つ目の石で窓枠ごと砕けた。
「和久!!」
もう一つ石を投げる。それで体が入りそうな穴が出来た。幸久は、ガラスで自分の体が傷付くことなどいとわずに、そこから部屋に潜り込んだ。
バシィ
部屋の中から大きな音が聞こえた。

「和久!!」
部屋に飛び込み、顔を上げた。目の前に男が何人もいた。皆、幸久の方を見ている。
「おやおや、これは・・・入る時はノックくらいするものですよ。お父上に教わりませんでしたか?」
男達の中心に栗山がいた。
そして、栗山から少し離れたところに、和久が立っていた。
 
      


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