10
(和久が壊れた原因が僕だったなんて・・・)
幸久は激しく動揺していた。
「にいさま」
そんな幸久に和久が声をかけた。
「にい・・・さま・・・こわして・・・」
幸久は驚き、和久の顔を見た。涎は垂らしてはいたが、真剣な顔だった。
「さあ、どうしますか、幸久さん」
栗山が言った。
「あなたは私の言いつけ通りに和久さんを犯しましたから、今度は私があなたの思う通りにしてあげますよ」
「あああああ」
幸久は頭を抱えた。
「いいですよ。ゆっくりとお考えなさい」
栗山が席を立つ。そして、柏木と二人、部屋から出て行った。
「和久・・・」
「にいさまぁ」
和久の顔が、また半笑いのような顔に戻っていた。その顔で、幸久に抱き付いてくる。
「お前は・・・」
そこまで言いかけて、幸久は頭を振る。
「僕が、お前を苦しめてたんだな」
そして、和久を抱き締める。
「ごめんな、和久」
頭を撫でる。
「にいさまぁ」
和久が幸久の股間に手を伸ばす。そこに顔を埋めようとする。
「和久・・・そんなにしたいのか?」
和久は答える代わりに、幸久の股間を服の上から舐め始めた。
「分かった・・・分かったよ」
幸久は和久をソファに押し倒した。
「にいさまぁ」
半笑いが満面の笑顔になる。そんな和久の唇に幸久は唇を押し付ける。
「にいさまぁ」
まるで喘ぐように和久は繰り返す。
「和久・・・」
和久の服を脱がせた。そして、自分も服を脱ぐ。気持ちとは裏腹に、幸久の陰茎は勃起していた。
「にいさまぁ」
和久が腕を伸ばす。二人は裸の体を重ねる。
「あぁぁ」
和久が喘ぐ。やがて、それに幸久の声も加わる。二人は交わり続けた。和久は笑いながら、幸久は涙を流しながら。



「何を望むか、決まりましたか?」
ソファに座っている幸久に、栗山が尋ねた。和久は、幸久の膝に頭を乗せ、眠っている。
「はい」
幸久は、和久の頭を撫でる。和久は幸せそうな寝顔をしていた。
「その・・・」
もう決めたはずなのに、なかなかそれを言い出すことが出来ない。栗山は、あの優しい顔で幸久がそれを言うのを待っていた。
やがて、幸久は言った。
「死なせてあげて下さい」
栗山は頷く。
「弟がこうなったのは、全て僕の責任です。ですから・・・」
幸久の表情は硬かった。ただ、そんな幸久の目から涙がこぼれ、膝の上で眠る和久の頬に落ちる。
「ですから、最後に気持ちのいいことをいっぱいして、そして、殺してあげて下さい」
栗山に頭を下げた。
「分かりました。それがあなたの望みなのですね」
「はい」
きっぱりと幸久は言った。



あの大きな部屋、最初に和久が犯されていたあの部屋の中央で、和久は横たわっていた。壁際にぐるりと大勢の男が立っている。皆全裸だ。そして、順番に和久を犯していた。
和久は既に何度も薬を注射され、その目はうつろに、口からは涎とも泡とも言えぬようなものを垂らしている。しかし、男に挿入されるたびに嬉しそうに喘ぎ、そして気持ち良さそうな声を上げている。
そんな和久の頭を抱えるようにして、幸久は座っていた。幸久も全裸だ。膝の上に乗せた和久の頭を愛おしそうに撫でている。ときどき、その涎を拭ってやり、そしてその口に口を寄せる。
壁を取り囲んでいた男達は、徐々に減っていく。皆、和久の中で射精すると、その部屋から出て行った。そろそろ終わりが近づいている。そして、今は熊田が和久を抱いていた。
「あと、二人だよ」
幸久は、熊田に入れられ、喘いでいる和久にそう語りかけた。
「次が栗山様、そして、最後は僕だからね」
「にいさまぁ」
もう何も聞こえない、何も見ていないと思っていた和久が兄の声には反応する。
「にいさま、うれしい」
「僕もだよ」
そして、熊田が和久の中で射精した。
「先に舐めなさい」
栗山が幸久の前に陰茎を突き出した。幸久は、これから和久の中に入るそれを丹念に舐め、唾液を絡める。そして、栗山は兄の唾液で滑るそれを和久に挿入した。
しばらく体を動かし、やがて、和久の中で射精する。
「ありがとうございました」
幸久が栗山に頭を下げた。
「さ、最後、僕の番だよ」
そう和久に語りかけ、顔を寄せる。お互い舌を絡ませる。そのまま、幸久は和久の乳首を舐める。
「あんっ」
和久が声を出す。また口を合わせる。そうやって、幸久は徐々に下がっていき、やがて、和久の陰茎を咥えた。が、すぐに顔を上げる。
「和久、生えてきたんだね」
和久の下腹部を手のひらでなで回す。そこには短い陰毛が数本あった。
「いつ生えたの? 気が付かなかった」
和久からの反応はない。もう一度陰茎を口に含む。唇でゆっくりを皮を剥き下ろす。露出した亀頭の裏側に舌を這わせる。
「んっ」
和久が声を出す。
「気持ち良い?」
幸久が頭を上げ、すぐにまた続きを行う。和久が目を閉じ、すぐに開く。うつろだった目の焦点が合っている。
「兄様・・・」
和久が幸久の頭を撫でる。
「気持ち、いいです」
幸久が顔を上げる。そして、笑顔になる。
「そうか」
また股間に顔を埋める。足を手で持ち上げる。肛門が露わになる。そこを舐める。
「あん、兄様」
「和久」
和久が体をよじる。そのまま体の向きを変え、幸久は和久の、和久は幸久の陰茎を口に含んだ。
「和久!」
「兄様!」
二人はほぼ同時に、お互いの口の中に射精した。
すぐに和久は四つん這いになる。幸久が、その尻に薬を注射する。そして、自分の腕にも注射した。しばらく尻と陰嚢を愛撫する。やがて、二人とも息が荒くなる。体がピリピリし始める。幸久が和久の背中に覆い被さるようにして抱き付いた。
「ああ、兄様」
薬のせいで体は敏感になり、陰茎は勃起したままびくびくと揺れている。が、二人とも正気は保ったままだった。幸久は和久の肛門に舌を這わせ、そして二人は体の向きを変え、今度は和久が幸久の肛門に舌を這わせる。
「和久、入れて」
幸久が言う。和久が先程の幸久と同じようにその背中に覆い被さる。勃起した陰茎の先が、幸久の肛門を探る。そのまま、体を押し付けた。
「ああっ」
声を出したのは幸久だった。和久の陰茎が幸久の中をかき回す。
「あぁ・・・ん」
弟に入れられ、よがっている。松岡家の嫡男としての後ろめたさが更に気持ち良さに拍車をかける。
「ああ、和久、気持ち良いよ」
「兄様」
和久が兄の尻に腰を打ち付ける。その度に幸久は喘ぐ。
「ああ、い、いきそう」
「兄様!」
そして、和久が兄の中で射精したのと同時に、幸久は弟に肛門を突かれて射精していた。

ほんの少しの休憩のあと、今度は幸久が和久の肛門に挿入していた。広間に幸久が和久の尻に腰を打ち付ける音が響いている。そして、和久は気持ち良さそうに喘いでいた。
「ああ、兄様・・・」
「和久」
それは、松岡家の名誉と誇りを捨てた二人だからこそ得られる快感だった。やがて、二人はついに終わりの時を迎える。
「ああ、兄様!」
「和久!」
またもや二人は同時に射精した。そのまま、一つになったまま、二人は動かない。まるで最後の時を惜しむかのように。

「どのように殺したいですか?」
「それは・・・」
幸久には決められない。
「栗山様にお任せします。ただ、なるべく苦しまないようにお願いします」
「分かりました」
幸久と栗山の間で、そう約束を交わしていた。その時が迫っていた。

「幸久様」
二人一つになったまま動かないでいた幸久に、柏木が声をかけた。
「はい」
幸久が名残惜しそうに体を起こす。そして、和久の肛門から陰茎を引き抜いた。
「にいさまぁ」
和久の顔が、にやけたような顔に戻っていた。そのまま四つん這いで幸久に近寄り、まだ勃起したままの陰茎にしゃぶりついた。
「和久・・・」
幸久は和久のやりたいようにさせてやる。その間に、柏木は男達に何かを運び込ませていた。

幸久が、和久の腕にまた注射をした。今度は3本。それにより、和久はほとんど意識を失ったかのようにぐったりとする。
「さあ、始めましょう」
栗山の指示で、柏木が和久の体に運び込んだ物を取り付けていく。それは、金属で出来た、中世の異国の甲冑だった。
幸久は全裸のまま椅子に座り、その様子を見ている。それを使って、どのように和久を死なせるのかは聞いていない。聞かない方が良いと思った。栗山は約束を守ってくれた。だから、今度も守ってくれると信じていた。

しばらくすると、和久の体が甲冑で覆われた。その一方で、部屋のすぐ外で男達が何かしている。やがて、柏木が言った。
「準備が出来たようでございます」
「うむ」
柏木が、幸久が座る椅子の後ろに回り込んだ。そして、幸久の腕を掴んでその腕に注射した。
「な、なにを」
「これから起きることを、冷静に見ていられますか?」
栗山が幸久に尋ねた。確かに、幸久が頼んだこととはいえ、これから弟が殺されるのを、冷静に見ているなんてことは出来なさそうだ。幸久の体に薬が回るまでしばらく待つ。やがて、少しぐったりした幸久の体を、柏木が縄で椅子に縛り付けた。
「ここまでしなくても」
「止めに入ったりすると、和久様の苦しみが増すだけですから」
そして、栗山が部屋の奥に向かって歩き始める。柏木が合図をすると、男達が幸久が縛り付けられている椅子を左右から抱えて、栗山の後についてそれを運んだ。部屋の一番奥の窓の向こうに普段は使われていない扉があった。その扉は、この部屋に大きなもの・・・例えば磔台とか・・・を運び込む時にだけ使われる。柏木がその扉の鍵を開け、皆が中庭に出る。さっき、男達が準備していたものがそこにあった。レンガが積み上げられ、その中で、炭が赤くなっていた。
彼等がそのレンガの前に着いたころ、部屋から甲冑が運び出されていた。その甲冑の目を覆う部分は開かれており、そこから和久の目が幸久を見ているのが分かる。二人の目が合う。幸久は、思わず目を反らし、俯いた。
「しっかり見なさい。それがあなたの義務です」
栗山に言われ、顔を上げる。再び目が合う。その目が何かを幸久に言っている。
やがて、その甲冑がレンガが積み上げられたところに横たえられた。その下では炭が赤々と燃えている。
「あああああ」
和久の声がする。和久がもだえ、甲冑が動く。男達は手にした棒で、そんな和久を押さえ付ける。
「和久!」
幸久は叫ぶ。しかし、体には力が入らず、さらに椅子に縛り付けられている。
「じりじりと炙られ、死んでいく。あなたが望んだことです」
幸久は頭を激しく左右に振った。
「違います、苦しまないようにとお願いした筈です」
「そうですよ。いろいろな拷問よりは、苦しまないと思いますよ」
こともなげに栗山が言った。その間も和久はもがく。甲冑の奧から声が聞こえる。
「に、にい・・・さま・・・助けて」
「和久!」
幸久にはもう、どうすることも出来なかった。和久が更にもがく。レンガが崩れた。甲冑が炭の上に落ちる。更に激しく、暴れ回るかのようにもがいている。男達はそれを棒で打ち据え、押さえ付ける。
「和久・・・」
全ては幸久の責任で、幸久自身で決めたこと。最後の方法を栗山に任せてしまったのも幸久だ。自分が答えを出した結果、炙り殺される弟を見ていることしか幸久には出来なかった。
「にい・・・さま・・・」
和久の声が聞こえる。幸久は耳を塞ぐことも出来ず、目を閉じることもせず、ただ、それを見つめていた。
(父様・・・僕は・・・僕は・・・)
涙が出ていることにすら気が付かなかった。そんな幸久の腕に、柏木がさらに注射器を突き立てた。幸久はそれにも気が付かない。
甲冑から漏れ聞こえる悲鳴は、ずっと、ずっと続いていた。
 
      


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