体がじんじんしていた。
幸久は椅子ごと広間に運ばれていた。外では積み上げられているレンガを片付け始めている。
すでに薬は切れてきていた。体がぴりぴりする。縄が体に食い込むだけで、体をよじりたくなるような刺激を感じる。そして、勃起していた。ずっとそのまま、もう数時間、放置されている。
と、奥の扉が開いた。柏木が入ってくる。その後から、男達が何かを運んでくる。男達は栗山の前にテーブルを運び、その上に運んできたものを置いた。あの甲冑だった。
「それでは」
柏木が甲冑を分解する。ゆっくりと、一つ一つ丁寧に分解していく。まず、胸の部分が外される。次に腕。腰。そして足。顔の部分は外さずにそのままにされた。
和久の体は焼け焦げてはいなかった。皮膚は収縮し皺になっていた。テーブルの上で体を反転させる。背中の皮膚は甲冑に焼き付いていた。皮膚が剥がれ、火が通って少し白っぽく変色した筋肉が露わになる。そして、顔の部分の金具を外す。後は持ち上げれば外れる、というところで手を止める。
「見てみなさい」
栗山が幸久に声をかけた。幸久は動かない。
「ここを見なさい」
栗山が和久の体を指差した。
「さすがは松岡家ですね」
栗山が指さすその部分は、まるで木の幹から生え出た枝のように、上を向いている。
「どうぞ」
柏木が、栗山に手袋を渡した。栗山はそれをはめ、和久の陰茎をつまんだ。
「ナイフでございます」
そう言って、柏木が手渡す。栗山は和久の陰茎を切り落とした。
「中はほどよく火が通っていますよ」
幸久を見て、それを摘まんだ手を差し出した。幸久は顔を背ける。
「和久さんの大切な部分です。ちゃんと見てあげなさい」
栗山は、和久の陰茎を幸久の顔に近づけた。幸久は体を捻り、さらに顔を背ける。栗山はその顔に陰茎を押し付ける。
「ほら、あなたが選んだ運命ですよ」
手で無理矢理口をこじ開け、その中に押し込んだ。そのまま手で口を覆う。
「うごっ」
幸久が咽せ、それを吐き出そうとした。が、栗山は口を覆ったまま離さなかった。そのまま数分口を押さえられ、ついに幸久は和久の陰茎を飲み込んでしまった。
「うえぇ」
幸久はそれを吐き出そうとする。
「和久さんをこんな姿にしたのは、他でもない、あなたなのですよ」
栗山が少し大きな声で言った。
「あなたが和久さんを、弟を殺したのですよ。しかも、こんなふうにね」
「違う!」
幸久が反論する。
「僕は、楽に死ねるようにとお願いしたはずです」
「そうですよ。これは、私が知っている殺し方では、かなり楽に死ねる方なのです」
栗山は顔色一つ変えない。
「それに、私に任せたのはあなたです。幸久さん、あなたが、私に任せると言ったのです」
和久を乗せたテーブルに戻る。そして、和久の両足を持ち上げた。
皮膚が破れ、剥がれ落ちる。しかし、生きているときとさほど変わらず、足が持ち上がる。
「陰嚢は、あまり変わっていませんね」
そこを指で摘まんだ。そのまま引っ張ると皮が破れた。その中に指を突っ込み、睾丸を取り出す。それを持って、また幸久に近づく。幸久は体をひねってその手から逃れようとした。それが無駄だと分かっていても。
幸久は口と鼻を押さえられ、口に押し込まれた睾丸を飲み込んだ。
(父様・・・)
涙が出てきた。しかし、何の涙なのか、幸久自身にも分からない。
「ここはどうなんでしょうね」
和久の所に戻っていた栗山は、再び足を持ち上げていた。そして、手袋を外し、肛門を指でなぞる。
「柏木」
柏木が貝殻状のものを手渡す。幸久のときと同じように、それを唾液で湿らせた指に取り、和久の肛門に塗り付けた。そして、柏木は、椅子に縛り付けられたままの幸久の腕に、また注射する。
「脆くなっているでしょうから、気を付けないといけませんね」
和久の肛門だった部分にゆっくりと指を入れている。
さらに貝殻の器から塗り付ける。その間に、幸久の体が熱くなっていく。
「ああ・・・」
幸久の口から溜め息のような、喘ぎ声のような声が漏れる。勃起していた陰茎は、さらに上を向き、ビクビクと揺れだした。
「入れたいですか?」
幸久は答えない。まだ、理性が勝っている。栗山がそんな幸久に近づく。椅子に座った幸久の足を広げ、滑りを帯びたままの指を、足の間から手探りで肛門に差し入れた。
「うぅ」
幸久の体が揺れる。栗山は何度も指を出し入れする。幸久は無意識に軽く足を持ち上げ、そこに入れやすい姿勢をとる。幸久の陰茎から汁が溢れ、滴り落ちた。
栗山は、柏木に頷きかけた。柏木が幸久を縛っていた縄を解いた。男二人が幸久の腕を左右から掴み、和久の体のそばに運んだ。
「さあ、あなたが殺した弟です」
栗山が和久の足を持ち上げる。幸久の陰茎がびくびくと揺れている。栗山はその部分を、和久の肛門に導いた。
(と、父様・・・)
幸久の理性は助けを求める。しかし、薬によって湧き上がった衝動が体を動かす。幸久はその穴に陰茎を押し込んだ。
「はあぁ」
幸久が喘ぐ。そして、幸久には和久の喘ぎ声が聞こえていた。夢中で腰を動かす。そして、そんな幸久の後ろに、全裸になった栗山の陰茎が押し付けられた。
「ぐあっ」
栗山は幸久の肛門の奥まで一気に突き入れた。痛みが幸久を襲う。しかし、その痛みが薬で刺激に変わる。栗山は体を幸久に押し付ける。幸久は、同じように和久に押し付ける。そして、物言わぬ和久の体の奥で射精した。
栗山は、幸久が射精したことを感じ取ると、幸久から離れた。和久の肛門に指を差し入れる。もう一方の手の指も入れる。力を込めて、肛門をこじ開けるように左右に開いた。弾力を失った和久の肛門は簡単に裂け、大きく口を開いた。その裂けて広がった肛門の内側に、幸久の精液が付いている。そして、その奥から大勢の男に犯され、中に出された精液があふれ出てきた。幸久の顔をその部分に押し付け、それを全て舐め取らせる。そして、それが終わると自らの股間にその顔を押し付けた。陰茎で幸久の喉を突き、その奥に精液をぶちまけた。
しかし、二人ともこれで終わりではなかった。
更に栗山は和久のそばで幸久を犯した。幸久は、和久が横たわったテーブルに手を突き、立ったまま肛門を犯された。犯されながら、栗山に陰茎を扱かれ、精液を和久の焼けただれた顔にぶちまけた。
「ああ・・・かず、ひさ・・・」
さらに、その和久の唇に自らの唇を押し付ける。和久の顔を舐めまわす。和久の顔の皮膚が剥がれる。あの美しかった顔が、見る影もなくなっていた。
最後はそんな和久の体の上に跨がり、体を押し付け、股間を和久の体に擦りつけた。生焼けの和久の体からにじみ出た血と体液に塗れながら、幸久は射精し、気を失った。
目を覚ました。
あの窓から抜け出した部屋なんだろうなと思った。しかし、今回は違っていた。暗く、何となく湿ったようなその部屋・・・見なくても分かる、あの広間・・・和久の命を奪ってしまったあの広間だ。広間の床に幸久は横になっていた。
「和久!」
体を起こした。周囲を見回す。甲冑がばらばらのまま、床に転がっている。そして、テーブル。しかし、その上には何もなかった。立ち上がる。ドアに近づき、ドアノブを回してみる。もちろん鍵がかかっている。窓を見る。壊した筈の窓が元通りになっている。
(ということは、かなりの時間、寝ていたのか)
幸久にはもう、あれから何日経ったのか全く分からなかった。日付の感覚も、時間の感覚も分からない。ただ、少しお腹は空いている。そして、それよりも切迫した尿意を感じていた。
ドアは鍵がかかって開かない。この部屋の中に便所もない。あの甲冑が目に留まる。背中の部分なら、かなり水を溜めておけそうな形をしていた。幸久は辺りを見回す。もちろん誰もいない。
(仕方ないか)
幸久は甲冑の背中の部分を引き寄せ、そこに小便を始めた。かなり溜まっていたのか、全然終わらない。そんな最中にドアが開いた。
「ほう、松岡家では、そんな所に小便をするのですか」
柏木と栗山が入ってきた。
「あっいえ」
しかし、小便は止まらない。栗山が近づいて来た。そして、幸久の陰茎に顔を近づけた。
「3日も眠っていたんですからね」
止まらなくても当然とでもいうように、そこを眺めながら言う。そして、小便は甲冑の背中から溢れそうになるギリギリのところでようやく止まった。
「さて、腹が減ったでしょう。食事にしましょう」
栗山と幸久は部屋を出た。そして、和久と3人で食事をしたあの部屋に連れて行かれた。
あの時は和久もいた。そして、タキシードを着ていた。今はもう、和久はいない。そして、全裸だ。
(父様、全部、僕が悪いんです)
広いテーブルの向かい側には誰もいない。それでも目の前には料理が運ばれてくる。お腹は空いている。しかし、食欲はない。ほとんど無意識にそれを口に運んでいた。今回は栗山はワインを勧めてこなかった。それどころか、自らも酒は口にしていない。
「あの時から変わりましたね」
栗山が言う。
「和久さんは残念でしたが、やっとあなただけになりました」
(何を言ってるんだ)
幸久の心に怒りが湧く。
「あなたに殺されたんです。きっと和久さんも満足でしょう」
(何を・・・言ってるんだ)
しかし、そんな運命を選んでしまったのも事実だ。その怒りは全て自分に向けるべきだ、そう幸久は思う。
「そして、そんな弟を食べてしまうのですからね」
そうだ。切り取った陰茎と、睾丸を飲み込まされた。僕は弟を食べた。人として許されないことをしたんだ。
「美味しかったですか? 今日の料理は」
栗山が急に話題を変えた。
「はい」
正直に言えば、味は全く感じなかった、何を食べても、ただ食べ物が口の中にあるだけだった。
「そうですか。それはよかった」
栗山が意味ありげに笑った。
「和久さんも喜んでいるでしょう」
ようやく、幸久は理解した。
「さっきの料理って・・・」
「そうですよ。和久さんの脳、目玉、心臓、それから・・・」
「肩と尻の肉、そして肛門です」
脇に控えていた柏木が口を挟む。
「もちろん、私は別料理ですけどね」
(そうなんだ)
もう、何を聞いても驚かなかった。すでに陰茎と睾丸を食べた後だ。今更・・・
しかし、幸久の目からは涙が溢れていた。
「そんなに美味しかったのですか?」
幸久は答えない。答えられない。
「なら、一度私も」
そして、柏木に合図する。すぐにもう一皿、栗山の前に運ばれた。
「あ、あの」
幸久が席を立ち、身を乗り出す。
「和久は・・・弟は僕が食べます。栗山様は遠慮いただけませんか」
それが自分の義務だと思った。弟を殺してしまった責任、弟を食べる罪悪、それは全て自分が背負わなければならない。栗山は少し考えているようだった。
「いいでしょう」
柏木が、栗山の前の皿を幸久の前に運んだ。そこには、生の肉が数片盛られていた。
「さあ、どうぞ召し上がり下さい」
柏木が言う。
「お尻の奧の、ほとんど火が通っていないところです」
(最初から食べる気はなかったんだな)
幸久はそれに気が付いた。弟の、ほとんど生の肉を兄に食べさせる。それが栗山の目的だったんだと。
「頂きます」
幸久は地獄に落ちる覚悟を決めていた。そして、その肉片を口に入れ、咀嚼した。
その食事の中で、初めて味を感じた。それは、弟の血の味だった。
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