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翌日の木曜日、僕は学校に行く途中からどきどきしていた。そっと左右を見回して、他の登校してくる奴等を見る。荒木君がいないか探す。
「なんかいつもと違わない?」
登校途中に一緒になった友達に言われた。
「別に」
そう答えてから、少し笑いそうになった。
(口癖、うつったかも)
確かに今日の僕はいつもと違う。僕が今日履いているのは荒木君のボクブリだ。そして、荒木君は僕のボクブリを履いているはずだ。僕等にとって、今日はいつもとは違う、特別な日なんだ。
でも、1時間目の授業が始まる頃になっても荒木君を見つけることが出来なかった。
授業が終わって、休み時間になる。廊下に出てみる。でも、荒木君は見つからない。休み時間の度にそうしていたけど、結局お昼になってしまった。そして、お昼の休憩時間、僕は屋上に行ってみる。
「あっ」
校舎の屋上の隅っこに荒木君はいた。僕はその横に行く。
「やっと見つけた」
荒木君は僕を見ない。でも、僕だって分かっている。だって・・・
「履いてる?」
荒木君が尋ねた。
「うん」
「マジかよ」
荒木君が言った。なんだか急に恥ずかしくなる。
「人のパンツ履いて学校来るなんて、変態だな」
周りには聞こえないような小さな声だった。それを聞いて、少し悲しくなる。
「約束したじゃん、履いてくるって」
「ホントに履いてくるとは思わなかった」
僕は何も言えなかった。お互いに履いてくるのを約束していたつもりが、僕だけ荒木君のボクブリを履いて、そして、変態だって言われてる。そのまま時間が過ぎる。午後の授業が始まるチャイムの音が聞こえた。
「もう、戻るから」
僕はそう言って、荒木君の横から離れようとした。すると、荒木君は何も言わずに僕の腕を握る。
「なに?」
荒木君は何も言わない。
「もう授業始まるよ」
屋上にいた数人の生徒は、僕等を残してみんな教室に戻っていく。屋上には僕等二人しか残っていない。
「早く行かなきゃ」
僕は荒木君の手を振りほどこうとした。でも、その手には思った以上に力が込められていた。荒木君が僕の腕を掴んだまま、屋上から降りる階段に向かう扉の方に僕を引っ張っていく。鉄の扉の横を通って、その裏側に連れて行かれた。
「なんなんだよ」
ようやく荒木君が手を離した。そして、その手でズボンのベルトを外す。少し恥ずかしそうに俯いて、何も言わずにその場でズボンを下ろした。
「あっ」
荒木君は僕のボクブリを履いている。そして、その股間の部分が盛り上がっていた。
「履いてないとは言ってない」
言い訳するように荒木君が言う。
「ホントに履いて来るとは思ってなかった」
そして、顔を上げて僕を見た。
「見せて」
何となく今まで僕が知っている荒木君の表情とは違っていた。何が違うのかはよく分からないけど・・・僕はそんな荒木君に見つめられながら、自分のズボンを下ろした。荒木君の前で、荒木君のボクブリを履いているのを見せる。
「勃起してる」
僕の股間も盛り上がっている。僕は頷く。そして、荒木君に近づく。
「荒木君も」
僕は荒木君の体を抱き締めた。荒木君も同じようにする。荒木君が股間を押し付けてくる。僕も押し付ける。授業中の、誰もいない校舎の屋上で、僕等二人は勃起したちんこをボクブリ越しに押し付けあった。
「あ、ヤバい、いきそう」
こんな場所で押し付けあうのに興奮していた僕は、それだけでいきそうになってしまう。
「今から、お前の家行っていい?」
荒木君が体を離して言った。
「続き、やりたい」
今はまだ授業中だ。僕等二人はサボってるけど・・・でも、やりたい。このまま荒木君と擦りつけあって、いきたい。
「でも、カバンが・・・」
カバンは教室に置いたままだ。それに、帰るなら学校の中を通らなきゃならない。今、帰ろうとして先生に見つかったら、怒られる。
「取りあえず、授業終わるまで、ここで時間潰すか」
僕が躊躇しているのを見て、荒木君が言った。そして、ズボンを引っ張り上げる。僕もズボンを上げる。二人でドアの横の壁にもたれて並んで座った。

二人とも何も言わなかった。
荒木君に聞きたいことはたくさんある。でも、聞いていいのかどうかよく分からないことばかりだ。
「あの人とはどうやって知り合った?」
口を開いたのは荒木君の方だった。
「え?」
「あの人。ホテルで会ったろ?」
「ああ・・・ネットの掲示板見てメールした」
「そっか」
また沈黙。
「あの人と1年くらい付き合ってるんでしょ?」
今度は僕が聞いた。
「うん」
「あの人が、荒木君が初めてやった人?」
「違う」
「初めての人って、どんな人?」
「大人の人。SNSで知り合った」
「その人とは・・・その、どういうこと・・・」
なんだかはっきりとは聞きにくい。
「まあ、一通りは」
「一通りって?」
「キス、フェラ、アナル」
「いきなり全部?」
「いきなりじゃないけど、何回目かに」
「ふぅん・・・」
そして、沈黙。
「それって・・・いつの話?」
「去年」
「マジか・・・」
僕があの人にメールした時、ホントにドキドキしたし、怖いとも思った。あんなことを、去年してたんだ。
「怖くなかったの?」
「少しは怖かったけど・・・やっぱ、興味あったし」
それは僕も同じだ。
「そういうこと、最初からするつもりだった?」
荒木君は黙って頷いた。
「その・・・どんな感じだった?」
「緊張した」
いや、僕が聞きたいのはそうじゃない。でも、聞きづらい。
「その・・・痛かった?」
「ああ、アナルね」
僕は固唾を飲む。荒木君が僕をチラリと見た。
「してみたい?」
「え、あ、あの・・・」
焦った。まさかそんなことを聞かれるなんて思ってなかった。すると、荒木君が少し笑った。
「最初はちょっと痛かった」
「今は?」
答えが返ってくるまで少し時間がかかる。
「そうでもないかな」
僕は、あのホテルで見た荒木君を思い出す。
「でも、喘いでたでしょ、あの時」
答えが返ってこない。やっぱり、あのセックスを見られたのは、荒木君にとってはいやな思い出なんだろうか。
「ご、ごめん・・・」
謝ってどうにかなるものでもないけど、謝るくらいしか思いつかない。
「されるのが気持ちいいっていうか・・・そういう雰囲気みたいなのが気持ちいい」
そして、僕を見て言った。
「してみる?」
ドキドキしていた。今日、この後、学校が終わったら荒木君は僕の家に来る。さっきの続きをする。そして・・・
「してみたい・・・気はする」
正直に言って、本当にしたいのかどうはよく分からない。でも、荒木君にそう言われているのに、凄く興奮する。
「じゃ、入れてやる」
「えっ・・・そっちかよ」
あの時、荒木君はお尻に入れられて気持ちいいって言ってた。今だってしてみるって聞かれた。この流れは、僕が入れる方じゃないの?
「嫌なら今日はやめとく」
僕は荒木君の顔を見た。なんだか意地悪そうな、悪戯でもしそうな顔をしていた。
「い、いいよ。やめても」
全く本心じゃない。本音を言えば、荒木君になら入れられてみてもいいかもしれないって思った。でも、それを言うのは少しくやしい。
「わかった。じゃ、今日はやめね」
荒木君が立ち上がろうとした。今度は僕が荒木君の腕を掴んだ。
「なに?」
「そ、その・・・」
荒木君が僕の顔を覗き込んだ。それは、僕が知ってる荒木君じゃない。普段、友達と一緒にいるときの荒木君の表情だ。
「だ、だから・・・入れるとか、入れられるとかじゃなくて・・・」
「何をどこに?」
「だから、僕のちんこを荒木君のお尻にとか・・・」
学校で、授業の時間中にこんなことを言っている自分に興奮する。
「とか?」
「荒木君のちんこを僕のお尻にとか・・・」
「ふぅん、入れられたいんだ」
なんていうか・・・荒木君ってこんな奴だったっけ?
「そ、そうじゃないけど」
「じゃ、入れたり入れられたりはしたくないんだ」
「そ、それは・・・」
僕の負けだと思った。
「興味はある・・・あるけど、心の準備が・・・・・」
「ふふっ」
荒木君が笑った。
「お前って、結構変態なんだな」
「う、うるさい」
そして、僕等は黙り込んだ。僕は色々と想像する。荒木君に入れてみたり、入れられてみたり・・・たぶん、僕がそういうことを想像しているってことを、荒木君は分かっていると思う。だって、二人とも、制服のズボンの股間が盛り上がっていたから。

授業の終わりを告げるチャイムの音がした。
荒木君が立ち上がる。
「じゃ、教室戻ってカバン持って、校門集合ね」
「ちょ、ちょっと待って」
僕は座ったまま立ち上がれない。まだ勃起していたから。
「ほら、立てよ。そこじゃなくて」
荒木君にはお見通しだ。上履きで僕の股間をちょんちょんと突っついた。
「やめろって」
「ほら、行こ」
荒木君が僕の腕を引っ張る。その時、荒木君の股間が目に入る。そこも盛り上がったままだ。荒木君は勃起させ、股間を盛り上がらせたまま、教室に戻ろうとしているんだ。
「ま、待てって、変態」
どきどきしている。今までで一番どきどきしているかもしれない。
そして、僕は荒木君に引っ張られるようにして、階段を降りていった。

「どこでサボってたんだよ」
教室に戻ったとたん、友達が声を掛けてきた。僕は勃起しているのがバレないように、少し前屈みになって急いで席に戻る。
「サボってない」
そして、急いで言い訳を考えた。
「お昼休みになんだか気分が悪くなって、屋上にいた」
取りあえずそう告げる。
「マジ? 大丈夫?」
友達が心配してくれる。僕は普段から真面目な方だ。授業をサボったことなんてこれまで一度も無い。そんな僕だから、みんなこんな嘘を信じてくれる。
「保健室行った方がいいんじゃない?」
そんなことを言ってくれる友達もいる。
「おーい、保健係」
「だ、大丈夫だよ。もう治まったから」
すると、誰かが呼んできたのか、先生が教室に入ってきた。
「三島、気分が悪くなったって?」
「もう、大丈夫です」
さすがに先生は簡単にはごまかせないだろう。体調が悪かったフリをして、少し小さな声で答えた。
「家に電話して迎えに来てもらうか?」
「大丈夫です」
「じゃあ、あとはホームルームだけだから、もう今日は帰りなさい」
それを聞いて、僕はゆっくりと立ち上がる。そして、カバンを持つ。あとは、待ち合わせ場所に行けば・・・
「送っていきます」
友達が言った。
(来なくていいって)
心の中で拒絶した。でも、実際にはそこまで言えない。
「お前はホームルームサボりたいだけだろ」
先生が言った。
「ほら、三島以外は席に着け」
そして、僕の肩を教室のドアの方に押す。
「気を付けて帰るんだぞ」
「はい」
僕は教室を出た。隣の教室をチラリと見る。ドアが閉まっている。
(荒木君、どうしたかな)
階段を降りて下駄箱に行く。靴を履き替えて校門に向かった。
「やっと来た」
荒木君だ。荒木君が校門を出たところにしゃがんでいた。
「これでも早く出られた方だよ」
荒木君が立ち上がる。二人並んで歩き出す。僕は左手をズボンのポケットに入れる。勃起したちんこを押さえるためだ。荒木君も、僕と同じように手をポケットに入れて歩いていた。

家に着く頃には、先走りでぬるぬるになっているのが自分でも分かっていた。家のドアを開ける前、僕は荒木君を振り返って小さな声で言った。
「もう、パンツの中、先走りでぬるぬる」
「俺のパンツなのに」
「ごめん」
「俺もだ」
荒木君が言った。僕のパンツを履いた荒木君が、僕のパンツの中で勃起させて、僕のパンツの中が荒木君の先走りでヌルヌルになってるんだ。
僕は急いで家のドアを開けた。中に入る。ドアを閉める。そして、荒木君に抱き付いた。
「あっ」
抱き付いただけで声が出る。そのまま股間を擦りつけあう。荒木君が固くなっている。もちろん、僕も固くなっている。そのまま腰を押し付け、擦りつけあう。
「あぁ」
荒木君が喘ぎ声を漏らす。
「ああ、気持ちいい」
カバンが玄関にどさっと落ちる。手を荒木君の背中に回して抱き締める。更に強く股間を押し付ける。荒木君もカバンを落とした。同じように抱き締められる。そして、口を押し付けられる。
「んん・・・」
僕も押し付ける。口を貪り合う。舌を絡め合う。その一方で、荒木君の手が僕のベルトを緩める。ズボンのジッパーが下ろされ、ズボンがすとんと脱げる。僕も荒木君のズボンを下ろす。僕のパンツ。股間が盛り上がり、その頂点の部分に大きなシミが出来ている。もちろん、僕も同じ。荒木君のパンツにシミが広がっている。
「はあぁ」
パンツを擦りつけあう。気持ちいい。ズボンの上からよりも熱い。ズボンの上からよりも固い。ズボンの上からよりも気持ちいい。だったら、パンツ越しじゃなかったら、もっと、もっと・・・僕は荒木君が履いている僕のパンツを下ろした。荒木君のパンツも同じように下ろされる。二人とも、膝のところまでパンツを下げて、勃起したちんこをお互いの体に押し付け合った。そのままキス。そのままお尻をなで回す。そのまま、お互いの体に先走りをなすりつける。
「ヤバい・・・」
荒木君が呟く。
「僕も」
お互い擦りつけあったまま、いきそうになる。その時だった。

玄関のチャイムが鳴った。
 
      


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