(カズ)(ヒロ)


クリスマスが過ぎて、学校は冬休みに入った。
学校が休みになってからは僕はヒロちゃんと会ってない。あんなことをした、あんなことをし合ったヒロちゃん。あれは本当にあったことなんだろうか、なんて少し思ったりもした。
12月29日。もうすぐ年末でいろいろありそうなその日、ある人が僕の家を訪れた。
「私、堯宰家で尚洋様の執事をしております、御形と申します」
スーツ姿で白い手袋をしたその初老の男の人は、僕に大きな風呂敷に包まれたものを差し出した。隣で両親も見ている。
「まずは、先日、尚洋様がお世話になったお礼の品をお納めください」
「は、はあ」
僕は手渡されるがまま、その包みを受け取った。
「それから、新年元日、尚洋様の元服の儀が執り行われます。和成様にも是非ご参加賜りたいとの、当家35代当主、堯宰輔洋が申しております」
そして、封筒を恭しく差し出した。
「和成様をご招待申し上げたく」
「は、はあ」
なんだか今ひとつ何がどうなっているのかよく分からない。いや、なんだかお礼を頂いて、そして堯宰家の何かに招待されてるってことは理解できる。
でも・・・・・
「ご出席頂ける場合は、当日朝、迎えの者を参上させますが」
そこでお父さんが口を出した。
「和成と尚洋君は友達ということで、特別なことをした訳ではありません。ですから、堯宰さんの特別な行事に息子が参加させて頂く、というのは少し違うかな、と。大変光栄ではありますが」
「和成様」
その御形という人が、僕の目を見て言った。
「当家主人は、尚洋様が和成様にお呼ばれしたことを大層お喜びです。和成様が尚洋様の元服の儀に参加下されば、尚洋様は」
「分かりました」
話の途中だとは思ったけど、僕は口を出した。
「っていうか、よく分からないけど・・・でも、僕が行くことでヒロちゃんが喜んでくれるのなら、僕、行きたいです」
僕の正直な気持ちだった。僕が堯宰家の招待を受ければ、今まで以上にヒロちゃんと仲良くなれる気がする。堯宰家に招待されるということは、堯宰家公認のヒロちゃんの友達になれるってことだろう。またウチに遊びに来たり、泊まりに来たり、あるいはどこかに一緒に遊びに行ったりとかできるようになるかもしれない。そうしたら、またこの前みたいなことも・・・・・内心ではそんなことも考えていた。
「お父さん、いいでしょ?」
「まぁ、お前がそう言うのなら」
そして、お父さんが御形さんに言った。
「この子もこう言ってますし、ご招待は謹んでお受けさせて頂きます。ただ、私どもは、ごく普通の家ですので、堯宰家のしきたりや作法は心得ておりません。何か失礼なことをしでかすかもしれません」
「そのご心配には及びません。和成様は尚洋様のご友人ですから」
「はあ」
お父さんも、お母さんも半分納得、半分不安な感じだ。でも、結局はただ友達の家に行くってだけだ。僕の友達なんだから、僕がしたいようにさせてもらうってことだ。

御形さんが帰って、改めて招待状の封を開いた。その招待状には、「堯宰尚洋 元服の儀」と書かれていた。
「元服の儀って何?」
お母さんに尋ねたら、お母さんはお父さんの顔を見た。
「元服の儀って言うのは、簡単に言えば成人式みたいなものだよ」
「成人式って・・・早過ぎない?」
「昔の武士や貴族の人達は、15才くらいで元服して大人になったもんだよ」
お父さんはこういうことは良く知っている。まあ大河ドラマで仕入れた知識がほとんどだけど。
「堯宰家は元は公家のはずだから、そういう風習を受け継いでるんじゃないのかな。もっとも、しきたりとしてはそうかもしれないけど、日本の法律的には何にも変わらないよ」
「ふうん」
なんだかよく分からない。でも、ヒロちゃんの家のことなんだってのは理解した。
「おい、『黒紋にてご参加下さい』って書いてあるぞ」
お父さんがお母さんに言う。
「なに、黒紋って」
お母さんは知らないようだ。
「黒紋ってのは黒紋付羽織袴のことで、言わばタキシードみたいなもの、最も格式の高い和装のことだよ」
僕は、御形さんがくれた包みを開いてみた。なにか箱が入っている。
「そんなの、ウチにあるわけないでしょ」
「そうだなぁ・・・今から作るにしても時間がないし、出来たとしてもいくらくらいする物なんだ、黒紋って」
箱のフタを開いてみた。
「黒紋かぁ・・・さすが、元公家は違うなぁ」
「どうするの、ご招待受けちゃったけど」
二人でいろいろ話している。
「黒紋って、これ?」
僕は箱の中身を両親に見せた。
「これは・・・」
取り出して広げてみる。和服だ。なんだか一式入ってるっぽい。履き物まで入ってる。
「これって、ウチの家紋か?」
上着みたいな奴の袖のところと、胸のところに2つずつ、背中に一つ、家紋っぽいものが染め抜かれている。
「そうなの?」
取りあえずその上着っぽいのに袖を通してみる。大きさ的には大丈夫っぽい。っていうよりちょうどいい感じだ。堯宰家の誰かが僕等の知らない間にサイズとか測ってたんだろうか。
「とにかく、実家に家紋聞いてみろ」
そんな感じで両親はなんだかバタバタとしている。僕はその手触りのいい和服を撫でながら、ヒロちゃんの家に遊びに行けることを素直に喜んでいた。

すぐに実家からおじいちゃんとおばあちゃんが来た。駆けつけたって感じだ。あの服に付いてた家紋は、確かにウチの家紋らしい。昔、着付けの先生をしていたおばあちゃんがあの服を僕に着せてくれる。
「和服と言っても、違うからねぇ」
そう言いながら、でも、それっぽい格好になる。
「おお」
おじいちゃんとお父さんが同時に言った。
「馬子にも衣装そのものだな」
おばあちゃんが何故か泣き始める。
「まさか、孫のこんな立派な姿を・・・」
(いやいやいや、違うって)
おばあちゃんはけっこう涙脆い。そして、たぶん、このパターンは・・・おじいちゃんまで泣き出した。
「ほら、写真撮ろう、写真」
お父さんがスマホを構える。
「白扇子はないのか?」
お父さんが箱をひっくり返す。確かに扇子が入っていた。結局、僕は白い足袋と履き物を履き、白い扇子を持って立たされる。
その後は写真撮影会になっちゃった。まあ、その画像を見せてもらうと、結構自分でも様になってる気がする。そして、同じような格好をヒロちゃんがしてるのを想像する。
(かっこいいだろうなぁ)
少しワクワクした。

その日の夜は、公家のしきたりとかをネットで調べてみた。でも、結局よく分からない。それにやっぱり家によってしきたりは違うらしいし。
「大丈夫だよ。なるようになるって」
お父さんはやたらと心配している。僕は気楽に考える。お母さんは・・・なんだかここぞとばかりにそんなことが書かれているサイトを印刷しまくっている。
(まさか、元日までにあれ全部覚えろ、なんて言わないよね)
その予感は少し当たっていた。でも、結局お母さんもお父さんも理解できなかったから、僕のなんとかなるって案が採用されることになった。

元日の朝が明けた。
いつもなら家族でのんびりとおせち料理とか食べたりするんだけど、その日は家族全員が思いっきり緊張していた。
僕が緊張するのなら分かるけど、お父さんとお母さんまで緊張している。そして、おじいちゃんとおばあちゃんまで電話してきた。
「大丈夫だって」
僕は自分を落ち着かせるためにそれを口に出して言っていた。朝起きてから、たぶんもう50回くらいは言ってると思う。
そして、お迎えが来た。

黒い大きな車に僕は乗せられて家を出た。
ヒロちゃんの家までは、歩いて行っても20分くらいだ。それをわざわざ車に乗せられていく。まぁ、紋付羽織袴なんて着て歩いたら、絶対あとで学校で噂になっちゃうだろうからこれで良かったのかもしれない。
それに、ヒロちゃんのところに元日にお呼ばれするっていうのは、なんとなく他の奴等には内緒にしておきたいと思っていた。だって、ほら。僕とヒロちゃんは特別な友達なんだから。
なんて思っている間に、ヒロちゃんの家の門が見えてきた。車のまま、その門をくぐる。中に入るのは初めてだった。

大きな門をくぐると、広い庭があった。まばらに人がいる。その中を僕を乗せた車がゆっくりと進んでいく。運転手さんは、御形さんに比べるとずっと若い人だ。僕の気持ちを察してくれたのか、
「まだ時間がありますので、少しお屋敷を回ってみましょう」
と言ってくれた。
大きな庭。その先に大きな屋敷があった。でも、それを越えるとまた庭になっている。この庭にはたくさんの人がいた。大人、子供、お年寄り、男の人、女の人。みんなドラマか映画の中にいそうな格好をしている。
「あっ、餅つきだ」
そんな人達の真ん中で餅つきが行われていた。
「毎年元日、ここで行われています」
運転手さんが教えてくれる。こんなに僕の家の近くで、こんな人達がいてこんなことが行われている。なんだか違う世界に迷い込んだみたいだ。
その少し先では獅子舞が舞っている。その獅子の周りを小さい子らが取り囲んでいる。そして、そんな小さい子もみな、僕と同じような格好をしている。
「あの人達は、近所の人ですか?」
「あの方々は皆、堯宰家の分家の方々です」
「分家・・・」
すると、運転手さんが車を停めた。
「御家紋が見えますか?」
少し離れているのではっきりは見えないけど、何となくみんなの服に家紋らしきものが付いているようだ。
「御家紋の外に丸い縁取りがされているのが分家です。御本家は縁取りはありません」
そう言われると、確かにみんな丸い枠が付いているように見える。
また車が動き出した。先程の人が多い所から更に奧に進む。すると、最初に入った時と同じような門があった。
「ここから先は御本家の方のお屋敷となります」
大きな門に大きな木の扉。扉にはさっき見たのと同じような家紋。ただ、枠は付いてなかった。
「ここから先は、お歩き下さい」
そう言いながら門に近づいていく。門の前に誰かが立っている。女の人だ。
車が門の前で停まった。運転手さんが降りてきて、僕の座っている方のドアを開けてくれた。
そして、門の前で待っていた女の人が僕に手を差し伸べた。
(僕より年下?)
「今川和成様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
(ひょっとして・・・)
でも、僕は何も言わない。門の扉が開き、その中にその女の子と一緒に入る。
「ここでお履き物をお脱ぎ下さい」
玄関みたいな所なんだろう。でも、僕の家のリビングより広い。足袋で板張りの廊下を進む。しばらく歩いたところで、その女の子が襖を開いた。中は広い部屋だったけど、真ん中に椅子が一つ置いてあるだけだった。
「こちらで少しお待ちください」
僕を椅子に座らせ、少し離れて僕に向き合った。
「本日は堯宰家嫡男、尚洋の元服の儀にご参列賜り、心より感謝申し上げます」
頭を下げる。
「私は、尚洋の妹、小夜子でございます」
(やっぱりそうだ)
何となく顔立ちがヒロちゃんに似ている。
「今日は、和成様のお世話をさせて頂きます」
また頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします」
僕も頭を下げる。
その後、僕等は話をしなかった。静かな室内。何となくお線香みたいな匂いが微かにしている。そして、外の人達や子供達の声。穏やかなお正月という感じだ。

そのまま10分くらい座っていたと思う。誰かの影が障子の向こう側に現れた。
「小夜子様」
その誰かが声を掛けた。小夜子さんが僕の横に近づいて言った。
「準備が調ったようです。こちらへ」
障子が開いて小夜子さんがそこから出て行く。僕はその後に付いて行く。庭に面した長い廊下。そこをほとんど足音も立てずに小夜子さんが歩いて行く。僕と小夜子さん以外は誰も歩いていない。何度か角を曲がりしばらく歩き続けると、門が見えてきた。
(家の中に、門?)
近づくと、本当に門だった。廊下の突き当たりが木の壁になっていて、その中央に大きな扉。扉も木で出来ている。このお屋敷の入口にあった門の、ちょっと小さい版みたいな感じだ。その扉の左右に門松が置いてある。これはたぶん、お正月だからだろう。門松も僕の身長くらいある。
「ここから先は内と呼ばれる場所となります」
小夜子さんが立ち止まって言った。
「内って?」
「普段は堯宰家の者以外は入ることが出来ない場所ということです」
つまり、ヒロちゃんたちは、普段この奧で生活してるってことなんだろうか。それを尋ねてみた。
「いえ、先程、お庭の方はご覧になられたでしょうか?」
話をしていると、木の扉がすっと開いた。僕等二人はその中に進む。
「あの餅つきとかしていたところ?」
「はい。あそこが表屋敷で、兄や私どもはあの屋敷で生活しております」
内に入ると、何となく空気が変わった気がする。さっきまで聞こえていた外の人の声が聞こえない。小夜子さんはどんどん進んでいく。僕は回りを見ながらその後を追う。
内とその手前・・・なんて言うのか分からないので取りあえず外って思うことにした・・・との大きな違いはない。ただ、外では左にあった庭が、内では右にある。中庭みたいになっているようだ。左側には木の壁が続いている。窓のようなものもあるけど、今は全て閉まっている。つまり、この内からは、今は外が全く見えない、逆に言えば外からも全く見えないってことだ。仕方なく中庭を見ながら歩く。中庭は、たぶん僕の家より広そうだ。そして、その中庭の向こうにも廊下が見える。やがて、廊下は中庭の先で右に折れた。つまり、廊下が中庭をぐるっと取り巻いている感じだ。右に折れるとすぐ、左側に大きな部屋が見えた。その部屋には何人か人がいた。この屋敷に入って、小夜子さん以外の人を初めて見た。
「どうぞこちらへ」
その部屋の奧の方には大きな屏風が立っている。その屏風に向かってまるで教室みたいに席が並んでいる。その席と屏風の間の右側と左側に、席の列と交わるように席が2つずつ向かい合わせになっていた。教室みたいに並んでいる方の席には既に人が座っている。向かい合っている2つずつの席は、右側の列に一人、左側の列に一人、それぞれ屏風に近い方に誰か座っていた。僕は、屏風に向かって左側手前の空いている席に案内され、そこに座った。
「今川和成様、ご到着です」
小夜子さんが皆に聞こえるような声で言った。
僕は挨拶でもしないといけないんだろうか。しかし、誰も僕を見ていない。ただ、僕の左側の人だけが、僕を見て軽く会釈した。僕も会釈を返す。そして回りを見回す。僕の左手側に屏風があり、左側にはさっきの会釈した人。その初老の人からは、何となく他の人とは違うオーラのようなものを感じる。さっき会釈してもらえなかったら、顔さえ見るのをためらう、そんな威圧感のようなものがある。
(たぶん・・・ヒロちゃんのお父さん、堯宰家の当主の人なのかな)
部屋に入って一番奥なので、たぶんそっちが上座だろう。だから恐らく間違いなく、堯宰家の当主なんだろう。その人のその向かい、つまり僕の前の左側に、その人よりは少し若い、でもやっぱりなんだかあんまりじっと見つめていられない感じの人。
僕の右手側の教室のように並んだ席を数えてみた。一番向こう、部屋の入口に近い列は席は二つだけ、その手前に5席ずつ2列あった。その合計12の席は全て埋まっている。その席に座っている人は全員男の人で、若い人もいたけど、ほとんどが僕の左斜め前の男の人くらいの年齢の人のように見える。
やがて、僕の向かいの一つだけ空いていた席に、小夜子さんが座った。
「揃ったな」
僕の左の人が前を見たまま言った。
「はい」
小夜子さんが答えた。
「では」
僕の左の人が小さく咳払いをした。その瞬間、空気が変わる。なんというか、張り詰めたような、そんな緊張感が漂った。
「今日は我が堯宰家次期当主、堯宰尚洋の元服の儀への参列、感謝する」
どこからか男の人が出てきて、置いてあった屏風を運んでいく。その向こう側に、ヒロちゃんが立っていた。
「皆にも参加頂くことで、この堯宰家の将来も安泰というものだろう」
どこかでキンっと鐘の音がした。音楽のようなものが始まる。お正月に初詣とかで聞くような、あんな音楽だ。
そして、ヒロちゃん。屏風があった場所からこちら側の人は、小夜子さんを除いてみんな僕と同じような・・・むしろ僕が皆と同じような服を着ているんだけど・・・羽織袴なのに対して、ヒロちゃんはドラマに出て来る、貴族とか公家みたいな格好、頭にもへんな帽子みたいなのを乗せている。
(烏帽子・・・だっけ?)
日本男児って感じの顔立ちのヒロちゃん。烏帽子が似合っていると思った。そんな貴族みたいな格好をして、ひしゃくみたいなのを持っている。
(なんだっけ、あのおじゃ丸が持ってた・・・笏だっけ)
テレビのキャラクターを思い出す。
と、小夜子さんが立ち上がって、ヒロちゃんに近づいた。そして、ヒロちゃんが着ている貴族みたいな服を脱がし始めた。
(え、なんで)
この部屋の一番入口の方に座っていた二人も立ち上がってヒロちゃんに近づく。二人はヒロちゃんの左右に一人ずつ立って天井を見上げる。天井には太い梁が一本ある。そこから縄が下りてくる。別の人が縄の先をヒロちゃんの左右に立ってる男の人に手渡す。その間に、ヒロちゃんはすっかり服を脱がされて、下帯1枚だけになっていた。
(な、なにが始まるの?)
他の人は皆、ただ座ってその様子を見ている。誰も何も言わない。
ヒロちゃんの左右の男の人が、ヒロちゃんの体の向きを変える。ヒロちゃんの腕を背中に回し、そのまま伸ばさせて手首のところを天井の梁から下がっている縄で結んだ。ヒロちゃんは少し前屈みになっている。二人の男の人は、縄を引いてヒロちゃんの腕を引き上げる。ヒロちゃんはますます前屈みになる。
「くっ」
そんな声が聞こえたように思う。でも、誰も全然動かない。僕の気のせいだったのかもしれない。
(ヒロちゃん)
まるでお尻を僕等に突き出すようにして、上半身を前に倒している。腕が引っ張り上げられてて、きっと肩が痛いんじゃないだろうか。さっきの声も、そんな痛みの声なんじゃないだろうか。
(誰か・・・)
僕はみんなを見回した。誰も表情も変えずにそれを見ている。
(肩痛いんじゃないかって、みんな気付いてないの?)
立ち上がろうかどうしようか迷った。何かが始まろうとしているのは確かだ。そのためにヒロちゃんがみんなの前にいるのも確かだろう。でも、なんでこんな縛られるみたいなことになるんだろう。分からないことだらけだ。これが堯宰家のしきたりだっていうんだろうか。
小夜子さんが席に戻った。ヒロちゃんは下帯一つで身動き出来なくなっている。
どこからか、もう一人女の人が出てきた。小夜子さんと同じくらいか、少し年下のような女の子だ。その子がヒロちゃんに近づいた。
「兄の許嫁の菊子様です」
いつの間にか、僕の前の席にいたはずの小夜子さんが僕の右後ろにいて、小さな声で教えてくれた。
(あの子が・・・)
クラスの女子人気トップの岡本さんとは全然雰囲気が違う。なんていうか、おしとやかって感じだろうか。
(きれいな人だなぁ)
不覚にもそう思ってしまった。見た目はまだ小学生くらい、でも、可愛いじゃなくて、きれいだ。そんな菊子さんが、身動きの取れないヒロちゃんの下帯に手をかけた。
(えっ)
ゆっくりと下帯を外していく。ヒロちゃんの表情はここからは見えない。年下の、たぶん小学生くらいの女の子に下帯を外されてる。しかも、それをみんなが見ている。どんな気持ちなんだろうか。
やがて、菊子さんはヒロちゃんの下帯を外し終える。僕の席からはヒロちゃんのお尻が丸見えだ。そして、たぶん菊子さんにはヒロちゃんのちんちんが丸見えだろう。
(なんなの、これって)
みんなの前で許嫁に裸にされて・・・
理解出来ない。そして、僕は何が起きるのかも分からずに、ただ見守るしかなかった。
そして、菊子さんがヒロちゃんの前にしゃがみ込んだ。


この物語はフィクションです。
登場する人物・家・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。


      


index