6.希望の白い袋

男に犯されながら、僕は必死にあの白いサンタクロースの袋を目で探した。でも、見える範囲には見当たらない。
「ほら、いくぞ!」
僕にしゃぶらせていた男が言った。男のちんこから、何かが口の中に溢れる。
「ほら、飲め」
精液だ。僕は男の精液を飲まされているんだ。
「うぐっ」
それを飲まされる。僕の頭を押さえていた手が緩む。僕は咳き込んだ。男に背を向けて床に四つん這いになる。素早く頭を上げて部屋を見る。白いあの袋・・・ない。もっと奧の方を見てみる。部屋の奥には牧野君とあの誘拐されている子が立っている。そこと今僕がいる場所の真ん中くらいに椅子が一つ置いてある。その椅子の足下に、白い物が見えた。
(あった!)
牧野君に目配せする。けど、少し距離がある。きっと牧野君は僕の目配せに気が付かないだろう。もっと袋に近づかないと。僕は四つん這いのまま、床を這った。
「どこに行くんだ、ガキ」
男の一人が僕の前、つまり僕と白い袋の間に割り込んだ。
「あ、あの」
なんとかあの椅子の方に行く口実を作らないと。僕は必死に考える。
「少し、少しだけ、休ませて」
なるべく哀れっぽく聞こえるように言った。
「そんなことは俺達が決める。俺達が疲れたら休憩、お前はただ使われるだけだ」
「ま、待って・・・」
僕はもう二歩袋の方に近づいて、床にあぐらをかいた。
「あ、あの・・・」
(考えろ、考えろ)
「ここで、ここなら少し広いから、一人ずつじゃなくて、その」
「ほお、一人ずつじゃ満足出来ないのか、このガキは」
男が笑った。くやしい。でも、それがこの場に留まるための一番いい口実のように思えた。
「最近のガキは淫乱なんだな。ほら、そいつも」
男が壁際の牧野君を指差した。その指差す先にある牧野君のちんこが勃起していた。
「こいつは、お前が犯されるの見て、ずっと勃起させてたんだ。気付いてたか?」
僕は頭を左右に振った。
「お前が犯されるの見ながら興奮してたんだよ。いい友達だよな」
男達が笑った。
「じゃあ、こいつも含めて4人でやってやろうか」
牧野君の方に2、3歩這っていく。
「やる気みたいだぜ、こいつ」
男が言っている。でも、僕の注意は白い袋に向いていた。まだ手を伸ばしても届かない。でも、あと数歩近づけたら、きっと。僕はその場で男達の方を向く。
「お願いします」
頭を下げる。頭を下げながら、体を後ろに少しずらした。
「今時のガキはこうなのか?」
「知らねぇよ。こいつがイカレてんじゃねぇの?」
「まぁ、どっちでもいいけどよ」
口々に言っている。振り返って牧野君を見る。その時にも少し体をずらす。
(あと1メートルくらい近づけたら)
牧野君が僕を見ていた。きっと、淫乱な変態だって思われてるんだろう。
「じゃ、そいつに頭下げて頼めよ。一緒に犯して下さいってな」
男が牧野君の方を見ながら言った。
「お願いします。この人達と一緒に、僕を犯して下さい」
僕は床に正座して、牧野君に頭を下げた。顔を上げて牧野君を見て、あの袋を見る。
(お願い、気付いて)
「よし、そいつ、連れてこい」
男の声が聞こえた。

「ま、待ってよ」
男が近づくと、牧野君がうわずった声で言った。
「なんだ、拒否するのか」
男が牧野君に近づき、その手を縛っていた縄を壁の金具から外した。
「あ、あの、そうじゃなくて・・・」
牧野君がその場で頭を下げた。
「されるなら・・・」
僕を見る。
「最初は、三田に・・・」
小さな声で言った。
「ほお、なんだお前。こいつにやられたいのか」
男が牧野君の前に立って、牧野君の顎を掴んだ。
「だが、ダメだ」
男が牧野君にキスをする。頭を両手で掴んで、無理矢理口を貪る。
「んん」
牧野君がその手から逃れた。床にひざまずき、男から少し離れる。
「犯されたいんだろ?」
男がまた牧野君に近づく。牧野君が後退る。
「俺達が十分遊んだ後なら、考えてやらんこともないがな」
牧野君が僕を見た。そして、男にお尻を突き出すようにして四つん這いになった。上半身を床に付け、お尻を持ち上げる。
「分かりました。でも」
僕を見る。
「三田、キスして」
僕の目を見ながら言った。
「ほお。お前等、そういう関係なんだな」
僕も牧野君の目を見る。頷く。
「じゃあ、キスしろ。俺が犯してる間、ずっとな」
男が牧野君の後ろにしゃがみ込んだ。

男が僕のお尻に入ってくる。その瞬間、体が震える。
(僕、期待してる?)
こんな状況なのに、僕の体は期待している。それに気が付いていた。犯されたいと思っていることにも気付いていた。三田じゃなくて、僕を犯して欲しいって思っていた。
三田も僕の横に四つん這いになる。顔を横に向けて床にくっつける。僕も三田の方に顔を向ける。キスしてくる。
「ほら、どうだ」
男が奥まで入ってきた。
「ああっ」
声が出る。目の前の三田にそれを聞かれる。体が揺さぶられる。男が僕の中で動いている。その部分が熱い。乱暴に体を揺さぶられる。でも、それが・・・
「気持ち、いい」
僕は喘ぐ。三田に聞かれているけど構わない。三田だってさっき掘られていた。同じちんこで僕も掘られている。同じように、無理矢理犯されている。
「ふぐっ」
体の奥から何かがこみ上げてくる。
「ああ・・・」
それが声になって出て来る。三田が僕の口から口を離す。
「もっと」
それは三田にもっとキスをして欲しいということだろうか、それとも、男にもっと激しく掘られたいということなんだろうか。自分でも分からない。
三田が僕の耳たぶを舐める。耳の穴に舌を突っ込む。
「あぁ」
体がびくっと動く。耳を舐められる。
「早く」
三田が僕の耳元で囁いた。僕は体の下に隠していたサンタクロースの袋を、三田の体に押し付けた。
「おい、なんだそれは」
僕を掘っていた人が僕を突き飛ばした。僕のお尻からちんこが抜けてしまう。
「お前等なんか」
そう叫びながら、三田が袋に手を突っ込んだ。確か、今、一番必要な物が出て来るとか言っていた。ってことは、今、ここから逃げ出すのに必要な物がきっと出て来るんだ。
「早くっ」
僕も叫んだ。他の男達が三田の方に近寄ってくる。僕も三田に近寄る。一緒に袋に手を突っ込んだ。

そこにはなんの感触もなかった。
つまり、空だった。
僕と三田は顔を見合わせた。

たった一つの希望であるサンタクロースの袋。でも、その袋の中には何も入っていなかった。空。いや、ただの空間だ。袋の中というより、何もない空間に手を伸ばしている感じだった。
「三田」
牧野君が叫んでいた。
「どうなってんだよ」
一緒に袋に突っ込んでいる手が、袋をかき回すように動く。僕はその手を握る。
「なんで・・・」
でも、なんとなく理由は分かる。この袋から次に出て来るのは、鳴瀬君のためのプレゼントだ。でも、僕等は僕等の為の何かを望んで手を入れている。出て来る訳はない。
そういうことだ。

「なにやってるんだ」
三田の後ろに駆け寄った男が三田の頭を殴る。三田の体が僕にぶち当たる。蹌踉けた僕をさっき僕を犯していた男が抱き止める。
「なんだそれは」
三田の手から、無理矢理サンタクロースの袋を奪い取る。僕を突き飛ばす。僕と三田は一緒に床に転がった。
男が袋に手を突っ込んでいた。
「なんにもないじゃねぇか」
袋を裏返す。ただの白い袋、なんにも入っていない。それを丸めて握る。
「お前、さっきなんて言おうとした?」
三田が顔を上げた。
「お前等なんか・・・」
そうだ、確かに三田はそう言った。
「俺等なんか、なんだ?」
「お前等なんか・・・」
三田はつぶやくように言う。そのまま顔を伏せる。
「三田・・・」
僕はそんな三田の頭を抱き締めた。

(もう、だめだ)
最後の望みもダメだった。がっくりと肩を落とした僕を、牧野君が抱き締めてくれた。
「お前等、なんか企んでたのか? ああ?」
男が靴で僕の頭を踏みつける。
「なにをしようとしたんだ、ああ?」
その足に力が入る。頭が床に押し付けられた。
「やめろっ」
牧野君が僕を庇うように覆い被さった。
「お前も共犯か、ええ?」
足が頭から離れたと思った次の瞬間、その足が牧野君の顔面を蹴った。
「うがぁ」
牧野君が顔を手で覆う。その指の隙間から血が流れ落ちる。
「牧野君!」
慌てて牧野君に近寄ろうとした。でも、腕を掴まれる。
「お前はこっちだ」
無理矢理立たされて、他の男達の方に突き飛ばされた。
「お前は」
男が牧野君の体を押さえ付け、また牧野君を犯し始めた。
僕と牧野君はお互いに向かい合って、上半身を曲げて、それぞれのお尻を男達に掘られていた。体が揺れ、時々僕等の頭がぶつかる。牧野君は喘ぎ声を漏らす。それを聞いていると、僕もなんだかおかしな気持ちになってしまう。そんな僕等を鳴瀬君が見ていた。いや、違う。別の男が鳴瀬君の髪の毛を掴み、顔を上げさせ、僕等を見させる。目の前で犯されて、声を上げている僕等を。
ただ、その声は・・・
「ああっ」
「んっ」
僕も、牧野君もただの苦痛の声ではなくなっていた。溜め息のような喘ぎ声。その奧に何かを感じ始めている声。それを鳴瀬君も気付いている。
「ほら、口に出していってみろ、気持ちいいってな」
牧野君を犯していた男が言った。
「気持ちいい・・・」
牧野君がそれに答えるように言う。
「僕も」
言わずにはいられなかった。
「ちゃんと言え」
男が僕のお尻をぴしゃりと叩く。
「僕も気持ちいいです!」
そう答えると、男の動きが激しくなる。
「んんっ」
口を閉じ、目も瞑る。僕のお尻に男の体がぶち当たる。体から力が抜けていく。口の端から涎が垂れるのを感じる。目をうっすら開けると、牧野君も涎を垂らしている。
「ほら、お前等キスしろ」
髪の毛を掴まれる。牧野君とキスをする。いや、口を舐める。口を貪る。牧野君の涎をすすり上げる。牧野君と舌を絡め合い、唾液を交換し合う。牧野君の荒い息遣い。僕も同じ。牧野君が僕の手を掴む。僕も掴み返す。そんな僕等を男達が、鳴瀬君が見ている。
(見られてる)
その瞬間、何かが僕の中で弾けた。

僕は僕のお尻を犯している人の手を振りほどき、その人から逃れた。牧野君の体を床に押し付け、その上に覆い被さる。
「ああ」
僕は大きな声を出す。牧野君の体の上に乗り、さっきまで男の人が犯していた穴にちんこを突っ込んだ。
「ううっ」
牧野君の穴は、簡単に僕のちんこを受け入れた。中がヌルヌルしている。さっき男の人がしていたみたいに腰を動かし。そこを突く。
「ああっ」
牧野君が声を上げる。
「ほお」
僕を掘っていた男の人の声がした。その人も僕に覆い被さる。僕のお尻の穴にちんこが押し付けられ、それが入ってくる。
「ああぁ」
腕を突っ張り、上半身を仰け反らせて喘ぐ。
「気持ちいい」
大きな声で言う。牧野君を犯しながら、男の人に犯される。頭が変になりそうな感覚。牧野君の顎を掴み、むりやり顔をねじ曲げ、キスをする。
「んんっ」
二人の息が互いの顔に掛かる。興奮する。お尻が気持ちいい。ちんこが気持ちいい。口が気持ちいい。息が気持ちいい。牧野君の体の温かさが気持ちいい。
僕は無意識に腰を振る。腰を振りながら声を出す。ずっと喘ぎ続けている。僕の体の下の牧野君の手を握り、そこにもキスをする。
「お前等、意外と好き者同士だな」
誰かの声が聞こえる。周りを見ると、男達が薄笑いを浮かべながら僕等を取り囲んでいる。みんなに見られている。鳴瀬君も見ている。僕と牧野君のセックスを、男に犯されながらしている僕等をみんなが見ているんだ。
(見ないで)
恥ずかしい訳じゃない。なんだかよく分からない感情が急に押し寄せる。
「見るなっ」
そう口走る。僕と牧野君のセックス。二人だけのセックス。実際は僕も男の人に掘られて気持ち良くなってるけど、でも、僕と牧野君のセックス。二人の世界。二人だけの・・・
「見ないで・・・」
僕はつぶやいた。つぶやきながら、腰を振り続けた。
「なら、これでも被っとけ」
僕を犯していた人が、僕と牧野君の頭にあの白い袋を被せた。さっき男が中身を確認した時の、裏返しになったままのサンタクロースの白い袋を。

僕の視界が白く覆われた。
次の瞬間、体が強く引っ張られる感じがした。と同時に、僕に覆い被さっていた男の人の体の重さが消えた。男の人のちんこが僕に入っている感触も消えた。
牧野君の体はあった。でも、重さは感じない。床もどこかに消えている感じ。手探りで牧野君の体を仰向けにする。袋の中で、僕等の顔が向き合う。牧野君にキスをする。牧野君もキスをしてくる。口を開き、舌を入れあう。それを吸い、舐め合う。牧野君が僕を抱き締める。もちろん僕も抱き返す。僕等がキスをし合う音。いつのまにか、それ以外の音が聞こえなくなっている。
(どうなってるの?)
疑問は湧く。でも、抱き合う手を離したくない。キスし合う口を離したくない。そのまま僕等は抱き合い続け、キスし続けた。

急に重さが戻ってきた。
落ちる感覚。でも、ゆっくりだ。牧野君を抱き締めていた手に重さが伝わる。牧野君の重さと僕の体の重さ。床を感じた。落ちていたのが止まっている。なんだか違う空気を感じる。袋の中で、ようやく僕等は口を離した。ゆっくりと頭に被せられていた袋を掴み、剥ぎ取る。
さっきの倉庫とは違うところ。なんとなく、見覚えがあった。そして、見覚えのある顔が僕等を取り囲んでいた。
「Ho−Ho−Ho!」
大きな声が聞こえた。

      


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