約束
−7−


僕たち3人は壁際の椅子に座っていた。目の前には、久夫さんが入れ直してくれた紅茶が湯気を立てている。その湯気の向こうで、あの少年、刑事の孫がまだ跳び箱に固定されていた。さっき、亮さんにバケツで水を浴びせられて意識は戻っていた。ずっと小さくうなっていた。
「拾え」
若頭が言った。初めは何のことか分からなかった。
あのディルドはお尻から抜かれて、僕等の目の前の床に転がっていた。目の前で見てみると、思っていた以上に太い。触ってみたかった。でも、触るのが怖かった。
「拾え」
もう一度言った。僕は顔を上げた。若頭と目があって、どきっとした。
「ほら」
優しい声だった。床のディルドを見る。もう一度顔を上げて若頭を見る。若頭が僕を見て頷いた。僕は椅子から立ち上がって、床のディルドを拾おうとした。初めは片手で、でも、それは片手でつかめる太さじゃなかった。両手でそれを握って持ち上げる。重い。そして、なんとなくなま暖かい。あの少年の体温なんだろうか・・・こんなのが、あの子のお尻に入ってたなんて・・・触ってみるまでは手品でも見ていた気分だった。でも、ディルドのほんのりとした暖かさが、あの少年の中に入っていたのは現実だと主張する。
「どうだ、触ってみた感想は?」
僕はディルドを持って、というより、ディルドを抱えて椅子に戻った。
「こんなに太いのが・・・」
それ以上は言葉にならなかった。若頭がにやっと笑ったからだ。
「そんな太いのが入るようにしてやるさ。お前ら3人ともな」
イモ系の体が小さくびくっと動いた。ジャニ系もどきも息を飲んだ。僕は・・・
「冗談だよ。それはこいつ専用だ」
そう言って、若頭は刑事の息子を顎で指し示す。男2人が、その少年の足の方で機械をいろいろと調整している。
「壊すためのディルドだからな、それは」
若頭が僕に向かって手を突きだした。僕は椅子から立ち上がって、若頭にそのディルドを手渡す。
そのとき、小さな声で言われた。
「お前なら」
(僕なら・・・どうなんだよ?)
それ以上はなにも言わなかった。僕は椅子に戻った。
(僕なら・・・入るようになるってこと?)
あんな太いのが入るようになったら・・・
そして、久夫さんの視線に気が付いた。僕の股間を見つめていた。気付かないうちに、それは勃起していた。

「さて・・・」
若頭が椅子から立ち上がった。まだ跳び箱の上でぐったりとしている刑事の孫に近寄った。
「1回戦の敗者には罰ゲームだ」
そして、その少年の脇腹を靴の先で小突いた。
「うぅ・・・」
少年がうめく。若頭は亮さんに何かを命じた。亮さんがドアの向こうに小走りに走っていく。
「あ、あの・・・」
ジャニ系もどきが口を開いた。
「なんだ?」
若頭がジャニ系もどきの方を振り返りながら言った。
「い、1回戦って、どういうことですか?」
僕ははっとした。今まで気にしていなかったけど、さっきも1回戦って言ってた。1回戦ってことは、2回戦もあるってことだ。
「そうか、説明していなかったかな」
若頭が久夫さんを見る、久夫さんは頷いた。
「そうか、それはすまなかった」
若頭が、僕等3人が座っている前に近づいた。亮さんが黒い鞄を持って戻ってきた。若頭を見て、鞄を持ったまま壁際に立っている。若頭の説明が終わるのを待っていた。
「君たちには勝ち抜き戦を戦ってもらう。要するにトーナメントで優勝者を決めるってわけだ」
跳び箱の上の少年をちらりと見た。
「まぁ、すでに1回戦は終わって、残りは3人になったわけだが・・・敗者にはそれなりの罰ゲームをやってもらう」
亮さんに合図した。亮さんは鞄を持って刑事の孫に近づいて、その横に跪いた。鞄から小さな黒いケースを取り出す。そのケースには注射器と小さなアンプルが入っていた。
「今回の敗者はこいつだ。罰ゲームをやってもらう前に、少し治療を、な」
亮さんが少年の腕に注射器の針を刺す。中の薬がその腕に入っていく。
「こいつは多少医療の心得があってな・・・免許はないが、それでも重宝している」
亮さんは慣れたような手つきで他にもなにか治療らしきことをしていく。
「1回戦が終わって、残りはお前ら3人だ」
若頭は僕等3人の顔を順番に見る。
「2回戦で残り2人、3回戦が決勝ってわけだ。最後まで勝ち残ったやつには、そいつが望む賞品を用意する」
そして、笑う。この人は、笑うと優しい感じになる。でも、その奥にはあの刑事の孫にしたようなことを平気でする残忍さを隠している。
「お前ら、疑ってるな?」
おどけた声だった。この人の本当の顔、本当の声はどんなんだろう・・・
「本当だよ。約束する」
またにっと笑う。笑顔・・・人をだます笑顔だと思った。と、真顔になる。
「さて、そっちは大丈夫か?」
治療していた亮さんが立ち上がって頷いた。
「じゃ、罰ゲームの準備だ」
また男達が、刑事の孫の足下の機械に駆け寄った。
刑事の孫の機械が少し変わっていた。心棒が2mくらいのものに取り替えられていた。そして、その先には・・・銀色の、三角錐のような形のものが付いている。一番太いところで直径が5センチくらい。先端はとがっていて、螺旋状に筋がついている。
「じゃ、ちょっと試運転だ」
若頭がそういうと、男の一人がその三角錐の前に木の板を持って立つ。若頭が手元のスイッチを入れる。機械がうなり出す。若頭がなにか調節すると、三角錐が回り始めた。そして、前に動き出す。先端が男が構えている木の板にふれる。三角錐は木の板を削り、その板に穴をあけていった。木の削りかすが三角錐の螺旋状の筋にそって、最後には床に落ちる。
もう疑いはない。それは、ドリルの歯だった。機械の、さっきはディルドが付いていたところにドリルの歯が付けられていた。若頭がスイッチを切り、そしてその機械はさっきと同じように、セッティングされた。心棒の先のドリルの歯は、間違いなく刑事の孫のアナルを狙っていた。
若頭が僕等の顔を見た。その顔は僕等の反応を楽しんでいた。僕等は3人とも、鈍く光っている銀色のドリルの歯から目が離せなかった。
「さっきよりはかなり細いから、多少は楽なんじゃないか? な?」
僕に向かって話しかけていた。
「え・・・あ・・・」
答えられなかった。太い、細いじゃない。ドリルの歯がこんなに凶暴に見えたのは初めてだった。あれで、さっきみたいにされたら・・・
「こいつはお前らに負けたんだから、罰ゲームは仕方がないことだ。敗者には罰ゲーム、これも約束だ」
そして、若頭は刑事の孫に近づき、跳び箱の上に固定されている下半身の上に馬乗りになった。スイッチを亮さんに渡す。両手で少年のお尻を開く。
「もっと前だ」
男達は、ドリルの先が刑事の孫のアナルに触れるか触れないかの位置に調整する。
「よし、OK。亮、ちょっと下げろ」
機械が唸る。ドリルが3センチくらい後ろに下がったところで止まる。
「よし、準備OKだ」
そして、若頭は僕等3人を手招きした。3人とも、動かない体を無理に動かすような感じで、よろよろと若頭に近づいた。
「ほら、よく見ろ」
銀色のドリル、螺旋状の筋は溝になっていて、その溝の壁は鋭利な刃物になっていた。
「亮、罰ゲーム開始だ」
亮さんがスイッチを操作する。僕等の目の前で、銀色のドリルの歯が回り出す。ゆっくりと、それは少年のアナルに近づく。
若頭は、ドリルの先端がアナルに当たるまで少年のお尻を開いて僕等に見せつけていた。そして、その先端がアナルに触れた。
「ひぃぃぃ」
今まで声も出さずにおとなしくしていた刑事の孫が、急に暴れ出した。しかし、がっちりと固定しているベルトのために、その体はほとんど動かない。さらに若頭が馬乗りになっている。先端がアナルに食い込んだ。
「いやだ、やめろ!!!」
悲痛な声だった。しかし、若頭は笑っていた。さっきの笑顔とは違っていた。たぶん、これがこの人の本当の笑顔だと思った。
「貸せ」
若頭が亮さんからスイッチを受け取る。
「前に進む早さを一番遅くした。1分で5ミリ、ゆっくりゆっくりこれはこいつの体に入って、その内側から内臓を突き破っていく」
刑事の孫はずっと叫んでいた。アナルからはもう出血していた。それはさっきのディルドで裂けたところからの出血なのか、それともドリルに切り裂かれたのかは分からなかった。
「もっと固定しろ」
若頭が男達に命じた。少年の体がさらにいくつかのベルトでがっちりと固定されていく。若頭が少年の体から降りても、彼はもう身動きもできなかった。
「お前らは座ってろ」
僕等に顎で壁際の椅子を指し示す。素直に従った。この光景を間近で見ることには絶えられない。
「そこでちゃんと見てろ。負けたらどうなるかをな」
若頭は、刑事の孫の跳び箱の向こう側に回った。僕等によく見えるようにしたんだ、そう思った。
やがて、少年の叫び声が絶叫に変わった。声が枯れても、少年は叫び続けた。

耳をふさぎたかった。でも、それは許されなかった。僕等はそれを見ることを、聞くことを強要された。あれから30分くらいたっていた。1分5ミリだから、もう15センチくらい、あのドリルが少年の体に入っているはずだった。僕等から見えるのは、心棒と、刑事の孫の体だけで、アナルのあたりがどうなっているのかは見えなかった。
少年の声は枯れ果て、今はかすれた声でうめくだけだった。しかし、そのうめき声は絶えることなく続いていた。
「どうだ、ゆっくりと体が切り裂かれていく感じは」
若頭が少年に尋ねた。少年は答えない。答えられる訳がない。それが分かっていながら、若頭は尋ねている。
「すべてはお前のじじいのせいだ。かわいそうにな、孫がこんな目にあうなんて」
そう言いながら、若頭は刑事の孫のほおを、そして頭をなでた。やさしい声、やさしい笑顔だった。こんな時に、そんなやさしい声、やさしい顔ができることを怖いと感じた。
「さて、良い時間になった。夕飯にしよう」
若頭が大きな声で言った。
僕等は立つように促され、他の男の人たちと一緒に別室に連れて行かれた。

      


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