ぼんやりと見つめていた映像の中の少年は動かなくなっていた。
(死んだのかな・・・)
そう思った。不思議と怖いとか気持ち悪いとか、そんな風には思わなかった。今日は何日だっけ、とか考えるのと同じような感覚だった。
涼君とのことを考えているうちに、今、ここで起きている現実が少し夢の中の出来事のような気がしてきた。そう言えば昨日は家に帰ってない。これが現実の世界だったら、親が心配して警察に届けるんじゃないかとか考える。そうなったら、ここに警察がやって来て・・・でも、そういうことを気にしている感じは全然しなかった。
(やっぱり、夢なんだ・・・)
そう思った。そう思っている頭の片隅に、「現実逃避」という言葉が浮かんできた。そして、昨日、あの機械に縛り付けられてされたこと、今日、みんなが朝食を食べているときにされたことを思い出した。お尻に残る違和感が現実なんだって僕を説得した。
「うわあぁぁぁぁぁ」
これが現実なんだって再認識したとたん、僕の口が開いて大きな声が出てきた。頭ははっきりしている。パニックになってるわけじゃない。でも、口をふさぐことも声を止めることもできない。体が自由にならなかった。僕の体は立ち上がった。椅子ががたんと大きな音を立てた。2、3歩後ずさった。
亮さんが立ち上がった。鞄をつかんで僕の方に近づいてきた。
「ちょうどいいから多めにしとけ」
若頭が亮さんに言った。僕の目線ががくがくと震える。酔いそうだった。亮さんが鞄から小さな黒いケースを取り出したのが見える。その中には注射器が入っていた。それは僕の腕に突き立てられた。僕の体が僕のところに帰ってくるのを感じた。右手をあげて、顔に近づけてみた。ちゃんと僕が思った通りに動いた。そして、力が抜けていった。
体が揺れていた。うっすらと白い光を瞼を通して感じた。お尻に違和感があった。僕は目を開けた。知らない顔が目の前にあった。
「気が付いちまったみたいだぜ」
他にも知らない顔があった。いくつかの知らない顔・・・そして、体を触られている感覚・・・お尻の違和感。僕は理解した。犯されていることを。そして、今、自分が置かれている状況も把握した。
目を開けて見回してみる。昨日、僕が寝た部屋だった。少なくとも同じ造りの部屋だ。そこで4人の男に犯されている。お尻は少しひりひりする。ということは、僕が気がつくだいぶ前から犯られていたんだと思う。
「騒ぐなよ。わかってるだろ?」
誰かが僕の耳元で言った。分かっていた。だから僕はなにも言わない。
お尻を誰かが突き上げた。
「んっ」
僕の反応を確かめるみたいに、少し間隔をあけながら2度、3度と突き上げる。奥の方に当たる感じがする。
「感じてるぜ、こいつ」
「やっぱり意識があるのを犯るほうがおもしろいな」
口々に言っている。僕はたぶん鎮静剤を打たれて眠ったんだ。そして、眠ったまま犯されていたんだ。男達は僕の物をしごいた。口の中に物をつっこんできた。お尻を突き上げる動きがどんどん早くなっていく。
(どうせ、抵抗しても無駄だもんな)
犯される快感を感じながら、それでも冷静にそう思った。そして、僕は男達に体を任せた。男達は僕の体をむさぼり、そしてもう何も出なくなるまで僕をいかせた。
(これで終わった)
全裸でぐったりとベッドで仰向けに寝転がってそう思った。服ははぎ取られ、足下に丸まっている。お尻を触ってみる。ぷくっと腫れて、ひりひりする。前も赤くなってひりひりしている。もう入れられても痛いだけだし、しごかれても何も出ない。これでは次の勝負に勝つのは絶対に無理だろう。
不思議と怖くはなかった。悲しくもなかった。落ち着いている自分に驚いた。
(今、何時かな?)
枕元の目覚まし時計を手に取った。3時前だった。そのまま僕は眠った。どこかから、うめき声が聞こえてきた。
(僕だけじゃないんだな・・・)
夢は見なかった。
目覚まし時計が鳴った。僕は飛び起きた。体がきしむような気がした。あちこちが痛かった。時計は6時を指している。この部屋には窓がないから、今が朝の6時なのか夕方の6時なのかが分からない。でも、お腹の空き具合とか、朝食べた(食べさせられた)ことから考えると、夕方の6時だろうと思った。
服を探した。でも、足下に丸まっていたはずの体操服は見あたらない。部屋を見回してもどこにもない。他に服があるわけでもない。洗面所にも、どこにも着替えはなかった。仕方なく、僕は全裸のまま部屋を出て、廊下の突き当たりのドアの向こう、食堂に向かう。
(このまま負けて死ぬのかな)
あの動かなくなっていた少年の映像が目に浮かぶ。何となく、僕は理解していた。このままここで勝負に勝ち残っても、もっと辛い勝負をさせられて行くだけだって。勝負に負ければあの少年のようにされる。ひょっとしたら殺される。でも、それで終わり。勝負に勝ったら、また今日のような目に遭わされて、そして次の勝負に・・・最後はやっぱり殺されるんだと思う。どっちがいいって・・・どうせ死ぬなら辛い目に会うのが少ない方がいい。頭の中でそう考えた。それが僕の本心なのかどうかは分からない。でも、間違ってはいないだろう。
他の2人はすでに食堂にいた。僕が入っていくと、二人が僕を見て、ちょっと驚いていた。僕も二人を見て少し驚いた。二人とも全裸で、一目で僕と同じように犯されてたのがわかった。ジャニ系もどきの体には、いくつかのみみず腫れが出来ていた。イモ系の方は、お尻のあたりに血がこびりついていた。歩くときに少しよたよたした感じになっている。かなり無茶されたような感じだ。
(僕はましだったのかも・・・)
意識を失っていた間に何をされたのかは分からないけど、少なくとも体に大きな傷はないし、ちょっとお尻と物がひりひりして体のあちこちが痛いけど、それ以外に怪我とかはない・・・と思うし。
「3人とも、気分はどうだ?」
若頭が言った。3人ともとても気分がいい、という感じではなかった。
「どうなんだ?」
若頭が僕を見た。
「ひりひりします」
僕はそれだけ答えた。若頭はそれでわかったようだった。
「お前は?」
ジャニ系もどきにたずねる。
「体が痛い」
ぼそっとそれだけ答える。
「お前はどうだ?」
「痛い」
イモ系は消え入りそうな小さな声で答えた。明らかにおびえていた。これからやらなければならない勝負で、またお尻を使われるのかも知れない。そうなったら、一番辛いのはたぶんこのイモ系だろう。ひょっとしたら・・・僕の心の中に期待・・・不安が広がった。
「じゃ、準備OKだな」
若頭がにやりと笑った。いよいよ、勝負が始まる。体が震える。逃げ出したかった。
「第2回戦の始まりだ」
若頭がそう宣言した。
男が食堂のドアを開いて、その横に立った。僕等にこのドアを通れっていうことなんだろう。ジャニ系もどきが最初にそのドアに向かった。続いて僕。そしてイモ系はゆっくりと最後に進む。歩くのが辛そうだった。ドアの手前の壁に鏡がかけてあった。ジャニ系の横顔がそこに写る。次が僕・・・
思わず僕は立ち止まった。僕の背中にイモ系がぶつかった。
「えっ・・・」
僕は鏡をみて絶句した。髪の毛がなかった。
思わず僕は頭に手を当てた。いつもそこにある髪の毛の感触はない。ざらっとした感触、じょりっとした音が伝わってくる。若頭が笑っていた。
「なんだ、気が付いてなかったのか」
僕をよけて、イモ系がドアの方に進む。僕の横を通る瞬間、ちらっと僕を見る。いや、僕の頭を、だ。
「寝ている間に剃り上げられたの、気が付かなかったか?」
若頭が僕に近づいて、頭をなでる。その感触を楽しんでいるようだった。
部屋の洗面所には鏡があったし、服を探して洗面所にも行った。でも、鏡は全然気にしてなかった。だから、本当に今まで全く気が付いていなかった。
「いかにも奴隷って感じでなかなかいいな」
若頭がそういって笑う。
「次の勝負、がんばれよ、坊主」
僕は若頭に背中を押されてドアをくぐった。
ドアの向こうには、小さなベンチのようなものが3つあった。その上に、大きな滑車。それぞれのベンチのところに男が2人ずつ立っていた。
「さて、2回戦だ。ルールは簡単、NGワードを言った奴が負けだ」
僕等のあとに、最後にこの部屋に入ってきた若頭が言った。そして、ドアを閉じる。
僕等3人はベンチの前に一人ずつ立たされる。一番奥がジャニ系もどき、真ん中が僕、そしてさっきのドアに一番近いところにイモ系。
若頭は僕等の前に立った。そして、言った。
「NGワードは、痛い、助けて、ちぎれる、の3つとそれに類する言葉だ」
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