若頭が僕に鞭を差し出した。そして、僕を見下ろしながら言った。
「お前がやれ」
一瞬、どういうことか理解できなかった。若頭は僕の前で鞭を差し出したまま立っている。若頭の視線は、僕の顔よりも少し下を見ていた。僕はその視線の先を追った。そして、ますます自分がわからなくなった。
「そんな状態なのにな」
若頭がなぜ僕にやれと命じたのか、理解できた。僕の腫れあがった竿は、それでも勃起していた。そして、僕はそのことにも、それによる痛みにも気が付いていなかった。
「お前はどうして勃起させてるんだ?」
そう聞かれた。
「わかりません」
素直にそう答えた。
「鞭を打たれることに興奮しているのか、それとも打つことに興奮しているのか、どっちだ?」
つまりは、MなのかSなのかってことだろうか・・・
「わ、わかりません」
打たれたい、とは思っていない。でも、それって、鞭打つことに興奮しているってことだ。それはつまり、僕はイモ系を鞭打つことに興奮しているってこと・・・イモ系を鞭打ちたいってこと?
「ほら、立て」
若頭に言われるまま、僕は立ち上がった。少し玉に痛みが走る。でも、今はあまり感じない。どきどきしていた。
「持つんだ」
若頭が僕の手を取って、鞭を握らせてくれた。
「しっかり握れよ」
僕が鞭を握っている手の上から、若頭が手を添えてくれる。そして、手を上に上げる。
「あんまり腕を伸ばさずに、一気に振り下ろすんだ」
そう教えてくれる。僕は腕を上げたまま何もできない。
「ほら、やるんだ。回りのことなんか気にするな」
そうだ。僕はジャニ系もどきに見られていることを気にしていた。今までこうやって勝負させられてきたけど、直接お互いが傷付け合うことはなかった僕達・・・そんな僕達の間には、なんとなく連帯感のようなものが出来つつあった。特に僕とジャニ系もどきはあのシャワールームの出来事以来、なんとなく感じ合うものがあった。第2回戦が終わった時も、ジャニ系もどきは僕の体に触れてくれた。僕も彼の手を握った。そんな彼が見ている前で、僕はイモ系を鞭打たなければならない。
「やれ」
若頭の声が少し低くなった。僕は目を閉じた。
(命令だから・・・仕方ないよね)
そして目を開けて、腕を思いきり振り下ろした。
その瞬間、射精したような気がした。
実際には射精はしてなかったのかも知れない。でも、それと同じような何かが僕を突き動かした。1回、2回、3回と僕は鞭を振り下ろした。イモ系の顔が苦痛に歪む。乳首から血が流れ出る。イモ系の体が揺れ、玉に、竿に、そして乳首にさらに痛みが加わる。
何回鞭打ったんだろう・・・ようやく、僕は手を止めた。息が切れていた。僕の股間は勃起し、腫れの影響もあるだろうけど、熱く脈打っていた。
「どうだ、責める側に立った気分は?」
若頭の声がした。僕は顔を若頭の方に向けた。
「ようやく聞こえたか」
そして、亮さんが説明してくれた。
「俺達が声かけても耳に入らないくらい興奮してたぞ」
「え?」
イモ系の体の乳首のあたりから股間まで、数え切れないくらいの赤い筋で埋め尽くされていた。そして、イモ系は頭をのけぞらして微動だにしない。
「お前がこんなにやるなんて思わなかったよ」
久夫さんがそう言いながら僕の前に手を突きだした。僕は素直に鞭を手渡した。
「これがどれほどの痛みなのか知ってるか?」
そして、久夫さんが横様に僕の脇腹を鞭打った。
「ぐっ」
息が詰まった。そして、体がよろける。焼けるような痛み、そして衝撃。
「どうだ、これはこういうものだ。そして、お前はこれを何回も何回もこいつに食らわせた」
鞭の柄でイモ系を指した。
「かわいそうに、気を失ってるぞ」
久夫さんが、ワイヤーに手をかけてイモ系の頭を僕の方に回した。イモ系の顔が見えた。大きく口を開いて白目をむいていた。
「ひでぇな」
若頭も笑いながらそう言う。
「お前、俺達の仲間に入るか?」
僕は一瞬考えた。そうしたら、次は勝負しなくてもいいんじゃないか、ジャニ系もどきには悪いけど・・・
「本気にするんじゃねーよ」
久夫さんが僕の股間を蹴り上げた。腫れ上がった玉と、腫れた上に勃起してぱんぱんになっていた竿に激痛が走る。僕は床の上でのたうち回った。
「所詮おもちゃだな」
そして、3人そろって笑った。
イモ系は水を浴びせられた。その後、亮さんが何かを注射していた。僕はまた椅子に座っていた。隣のジャニ系もどきの視線が痛かった。僕が椅子に戻ったときに、小さな声で言われた。
「この野郎」
それだけだったけど、その言葉は僕の心に突き刺さっていた。
「大丈夫、いけます」
イモ系に横にしゃがみこんでいた亮さんが言った。
「じゃ、楽しい楽しい罰ゲームの再開だ」
若頭は僕に向かってそう言った。
「さて、鞭打ちは異常に興奮するやつがいるようだから」
そう言って僕の方を見る。僕は目を伏せた。ジャニ系もどきの視線が痛い。
「鞭を使うのはやめにして、おなじみの落下で楽しんでもらおうか」
また、ワイヤーを巻き上げるモーターの音が聞こえた。
「じゃ、軽く1メートルから行ってみるか」
ゆっくりとイモ系の体が上がっていく。1メートルの落下、あのときの衝撃を思い出す。それが、細いワイヤーになって・・・
(ちぎれる)
本気でそう思った。
「じゃ、1メートルな。がんばれよ」
次の瞬間、イモ系の体が大きく落下した。
「ぐっ」
その時、僕は自分の玉にあのときの痛みがよみがえった。あの時の痛みを、今イモ系はまた感じてるんだ・・・しかし、乳首にしても玉にしても、ちぎれるというところまでは行っていないようだ。
「じゃ、もう1回」
また体が上がっていく。イモ系は泣いていた。声はあげていなかったが、目から涙がぽろぽろとあふれていた。
そして、2回目の落下。びぃんというワイヤーが張りつめる音、ぎしっというきしみ音、そして、うめき声。血が少し飛び散る。それでも乳首も竿も玉もちぎれたりはしなかった。
「丈夫なものだな、人間って」
若頭がワイヤーを揺らしながら言う。
「お前もちぎれるの、期待してるよな」
僕に言う。
僕はなにも答えられない。
「じゃ、1.5メートルだ」
結局、1.5メートルでもちぎれなかった。そして、1.8メートルからの落下でようやく左の乳首がちぎれ、切り裂かれた。
若頭はさらに1.8メートルの落下を命じ、右の乳首も破壊した。その段階で、イモ系は股間を縛ったワイヤーだけで逆さ吊りとなった。
「次は陰嚢の付け根がちぎれるかな」
久夫さんが言った。そして、さらに2回、1.8メートル落下が行われた。
「ぐはっ」
頭が床にぶつかるかと思った。それくらい、竿と玉の付け根の部分が引っ張られ、伸びている感じだった。実際に人の体がそんなに伸びるものかどうか分からないけど。
「なかなかちぎれないもんだな」
若頭が逆さ吊りになっているイモ系の股間の部分に顔を近づけた。
「だいぶ食い込んでいるというのに・・・」
不満そうだった。
「久夫、ナイフを貸せ」
久夫さんが若頭にナイフを手渡す。
「これだったらどうだ?」
若頭は、イモ系の玉の、ワイヤーが食い込んでいるところより少し下、付け根に近い部分にナイフを当てて、横にすっと引いた。イモ系の体がふるえた。その部分に一瞬赤い「一」の文字が現れ、たちまちそこから血があふれ出した。
「よし、1.8メートル、もう1回だ」
またワイヤーが巻き上げられる。玉の付け根からあふれた血は、お尻の割れ目を通って背中に流れ、床に滴り落ちていた。床にはすでに大きな血溜まりが出来ている。
がすん!
そんな音がして、イモ系の体が落ちた。切れ目をいれた部分から、一瞬血が吹き出した。切れ目が広がり、出血が多くなる。
「続けろ」
また体が上がり、そして落ちる。徐々に傷口は大きくなり、血の量も増える。今や、血は滴り落ちるというよりも流れ落ちていた。
そして、10回近く繰り返された時、その傷口から血が大きく吹き出し、イモ系の体は、ワイヤーに小さな肉片を残して床に転がった。イモ系は床でのたうち回っていた。玉と竿があったところからはどす黒い血が吹き出している。その血が僕等のところまで飛んできた。血溜まりの中でのたうつイモ系の体は、自らの血で赤く染まっていった。
やがて、イモ系は動かなくなった。それまでイモ系の様子を笑みを浮かべながら見つめていた若頭が、その体を足で転がす。イモ系はなんの抵抗もせず、なすがままになっている。
「まだ死んでないよな?」
若頭がそう言うと、亮さんがイモ系に近づく。瞼をめくり、脈を取る。
「まだ大丈夫です」
若頭は亮さんに鞄を手渡した。
「もう少し生かしておけ」
亮さんが鞄の中から注射器を取り出した。
「やめろ!」
そのとき、ジャニ系もどきが立ち上がり、亮さんの手の注射器を振り払った。しかし、すぐに男達に取り押さえられる。
「やめろ!」
それでもジャニ系もどきは叫び続けた。
「もう、もういいだろ、死なせてやれよ」
ジャニ系もどきは叫びながら泣いていた。僕はちょっと驚いた。僕は死なせてやるなんて考えもしなかった。むしろ、僕は目の前で行われていることに・・・
「押さえとけ」
若頭が低い声で命じた。男達に抱えられるようにして、ジャニ系もどきは無理矢理椅子に押さえつけられた。
「亮、やれ」
亮さんは床に落ちていた注射器を拾って、イモ系の腕に当てた。
「おもちゃは最後まで大切に遊ばないとな」
若頭はジャニ系もどきの方を見て、にやっと笑った。
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